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リース姫に看病されるだけの簡単な療養

 気が付くとオレはベットの上で寝ていた。


「ローランド!」


 オレの視界はリースの顔が大半を占めている。


「大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない」


「無事で……よかったです」


 リースの瞳から涙がこぼれる。


 本気で心配してくれていたようだ。


「心配してくれるのは嬉しいが、リアクションがオーバー過ぎじゃないか?」


「何を言っているのですか。あなたは私の大切な親友です。心配するのは当然です」


「親友は言い過ぎじゃないか?」


「そんなことはありません」 


「現にオレたちはさっき会ったばかりだ。それに、エリックや他の貴族のほうが親交が深いだろう?」


 リースがオレに親しみを感じてくれるのは有難い。しかし、いきなり親友という言葉を使われると違和感を覚える。


「……」


 リースはオレの顔から目をそらし、下を向く。


「ん? どうした、リース?」


 何かまずいことを言ったか?


「やはり、あなたは覚えていないのですね」


「覚えていない? 何のことだ?」


「いえ……気にしないで下さい。こちらのことですから」


 リースは走り去っていく。その際にキラキラとしたものがこぼれ落ちた。


「ちょっと待っ」


 ドアが閉まる。行ってしまった。


 心配したり、どこかへ行ったり、リースの行動は意味不明だ。


 覚えていないとは、どういうことだろう。


 ふと、窓の外に目が行く。


 夕日だ。


「え!?」


 そんな長い時間眠っていたのか。


 もしかして、リースはずっとオレのそばに居てくれたのか?


 だとすれば、少なくとも時計の短針が反対を向くくらいの時間、ずっとここにいたことになる。


「邪魔するぞ」


 オーリエ先生が部屋に入ってくる。


「調子はどうだ?」


「特に問題はありません」


「動けそうか?」


「はい。多分、問題ないと思います」


 オレはベットから起き上がる。


「あまり無理はするなよ」


「はい」


「そういえば、さっきリースが泣きながら歩いていたが、何かあったのか?」


「ああ、あのですね」


 何と説明すればいいのか。


「お礼はちゃんと言っておけよ」


 ちゃんとお礼を言わないといけないな。


 だが、何と言えばいいのだろう。


 ありがとう。


 ごめん。


 もっと適切な言葉があるはずだが、そんなありきたりな言葉しか浮かんでこない。


「話は変わるが……ローランド、君とは色々話さなければならないことがある。」


「話ですか」


「ああ、君の仕事について、まだ詳しく話していなかったよな」


「そういえばそうですね。まあ、大体察しはついてますが」


「そのことについて話がしたい。ついてきてくれないか?」


「わかりました」


 そしてオレは、オーリエ先生についていくことになった。



  * * *




「しかし、耐雷性のマントとは考えたな」


「電気を通さない魔物の皮があると耳にしたのを思い出して、街の防具屋に駆け込みました」


「そこから、魔法の失敗を利用して相手の杖を壊す。弱みを強みに変える見事な一撃だ」


「結果、負けちゃいましたけど」


「いや、あれは明らかなルール違反だ。よって君の勝利だ」


 エリックが最後に放ったメガ・ライデン、あれは学校の対人戦では使用禁止にされている魔法だ。


「ローランド、君は俺が思っている以上の適任者かもしれない」


「そんなことはないです」


「それでだ。改めて詳細を話すとしよう」


「はい」


 オーリエ先生の目つきが変わる。


「もう分かっていると思うが、護衛対象は我がリメリア王国の王女、リース姫だ」


「でしょうね」


「護衛ってのは、まあつまり、守る側って訳なんだが、ということはすなわち攻める側の人間が存在するってことだ」


「まあ、王族を狙う輩は、いつの世にもいるんじゃないですかね?」


「そうだろうな、リース姫が狙われることは特別なことではないだろう」


 リース姫、覚悟。とか言って突っ込んでくるバカから守れという訳だな。


 歴史上、王族を狙う奴らは2種類に分けられる。


 内か外か。


 考えられるのは……


「他に疑問に思うことはないか?」


 オーリエ先生はオレに問う。


「なぜ無関係の、しかも魔法が碌に使えないオレが、そんな重要な人物の護衛につく必要があるのかさっぱり分からないですね」


「ああ、一介の学生でしかない君に任されるのは俺も疑問だった」


「え!?」


「だが、君は選ばれた」


「はい?」


「選ばれてしまったのだ」


 そんな事を急に言われても、理解ができない。


「どういう意味です?」


「意味が分からないだろう。だが、俺にも知らされていない情報が色々とあってだな……」


 先生が分からないんだったら、誰が分かるのだろうか。


「俺から言えるのは、君は運命によって選ばれたということだけだ」


「全くもって納得できませんね」


 運命、そんなものオレは信じない。


「ともかくだ、この学園の教員に生半可な人はいない、それに、リース姫の入学にあたって警備を強化している。リース姫に何か起こる心配はない。君はただリース姫と一緒に学校生活を送るだけでいい」


「リース姫を護衛するだけの簡単なお仕事って訳ですか?」


「まあそんなところだ。引き受けてくれないか」


 納得のいかない部分もあるが、メリットは莫大だ。引き受けない理由がない。


「勿論です」


 オレはこの件を了承した。 


「改めてよろしく」


 オーリエ先生は手を差し出す。


「はい」


 そして握手を交わす。


「そう、それから魔法の件なんだが、君は魔法が使えないんじゃない」


「え?」


「君の魔力が強すぎて、杖がパンクしただけだ」


「ほ、ほんとですか!!」


 オレは過剰にリアクションする。


「あれはとても珍しい現象なんだ。周囲の人間が気付かなかったのも無理はない」


「じゃあ、オレにも魔法が使えるってことですか」


「訓練すれば可能だ。しかも、使えるようになれば、強力な魔法使いになれるだろう」


 それができるなら…


「まあ、今日は初日だし、ゆっくり休むことだ。これを渡しておく」


 オーリエ先生から、鍵を受け取る。


「寮の部屋の鍵だ。部屋番号はそこに書いてあるから確認してくれ」


「ありがとうございます。それじゃあ失礼します」


「また明日」


 こうして長い最初の日は終わった。

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