上級国民と戦うだけの簡単な戦闘
歴史を感じさせる石造りの円形闘技場。こんなものが学園の中にあるとは驚きだ。
観客はまばらだが、クラスメイト以外の人間もいるようだ。
「遅かったじゃないか、てっきり尻尾を巻いて逃げたのかと思ったぞ」
エリックは余裕の表情でオレに話す。
「まあ、弱者なりに勝つ方法を考えて、あがいてみたさ」
魔法が使えないこの状況で、考えられる勝ち筋はこれしかない。
「ところで、そのおかしな格好は何だ? 勇者ごっこでもするつもりかい?」
おそらく、今オレが背中につけている黒いマントのことだろう。
「お前を倒すための秘策ってところだな」
「フッフッフ、逃げなかった度胸は認めてあげようじゃないか。だが、どんな小細工もバートリーの血の前では無意味だ」
こいつらは血という表現がお好きなようだ。
「哀れなお前に先制攻撃のチャンスをくれてやる。お前が一手何かするまで僕は手を出さない」
エリックは両腕を組み、不敵に笑う。
「なら遠慮なく行かせてもらう」
「そろそろいいか?」
オーリエ先生が見かねて口をはさむ。
「一応ルールの確認だ。戦闘は1対1、相手に致命傷を負わせる魔法、物理攻撃は禁止。また、使用武器はCランク以下のものに限る。問題はないな?」
オレはただ、黙って頷く。
「よし、それでは試合開始!」
「うおおおおお」
オレはただ闇雲にエリックに突っ込む。
「馬鹿め、僕がお前如きに隙を与えると思ったか。くらえ! ライデン」
エリックの短杖から稲妻が迸る。
オレはマントでガードする。
「何だと!?」
そしてそのままエリックに突撃し、短杖を持っているほうの腕を掴む。
「このマントは魔物の皮でできていて、電気を通さないようになっているんだ」
「そんな馬鹿な。僕の魔法がこんな布切れ1枚で防がれるなんてありえない!」
この物質は布というよりゴムに近い。リメリア人にとってゴムという概念が一般的かどうかは分からないが。
「1度魔法を防いだくらいで図に乗るな。バートリー家の力はこんなものではない。僕の血はお前たちのような汚らしく濁った血とは違うんだ」
確かにオレの血はこの上なく汚らわしい。
しかし、故に強い。
見せてやろう、血統を超越した禁忌の力の片鱗を。
「ライデン」
エリックの杖を掴んだまま、雷属性の呪文を囁く。
短杖が光りだす。
「何だ、何なんだお前は」
そして杖は爆発する。
オレ自身も爆発に巻き込まれ、後方に飛ばされる。
「ゲホッ」
咳き込みながら、オレは立ち上がる。
煙に視界を阻まれ、エリックの様子は分からない。
「舐めるな」
黒煙の中から声が聞こえる。
「バートリーの力を舐めるなーーー!」
煙が消え、エリックが現れる。
「魔法が使えない分際でこの僕に挑むとは、何たる侮辱」
「これも一種の魔法なんだよ」
「そんな訳があるか。あれはどう見ても失敗だ。僕の杖を壊しやがって」
適当に言い訳をしてみるが、魔法が使えないことがここにいる全員にバレてしまったようだ。
「そんなヤツがなぜこの学園に入学できたのか、そんなことはもはやどうでもいい。お前をぶちのめすだけだ」
エリックは手を翳す。稲妻がエリックの腕を包む。
「僕は選ばれし者なんだ、杖無し(マニュアル)で魔法を使うことだってできる」
杖無し(マニュアル)。武器を用いずに魔法を発動する技術のことだ。それができるのは魔術師の中でもかなり限られる。
「杖を破壊して魔法を使えなくして引き分け(ドロー)狙いだったが、駄目だったか」
「終わりだ。メガ・ライデン」
規定違反の魔法がオレに襲いかかる。
目を閉じる。これで終わりか。
エリックの放った稲妻に打たれ、オレはその場に倒れた。