ギルドに行くだけの簡単な求職
学校を出て、行く宛もなくゲートポートの白い街並みを彷徨う。
春の日差しが照りつける。
学生という身分を剥奪され、何者でもなくなる。
しかし、平日の昼間だというのに、人がごった返している。
「さあ、安いよ、買った買った!」
店で商品を売る人。
「邪魔だ! 退いた退いた」
荷物を運搬する人。
「最強の剣に最強の盾、最強の杖もあるよ」
怪しい商品を売る人。
「その盾をその剣で斬ったら、どうなるんすか?」
「え……そ、それは……」
詐欺師を論破する人。
「ハハハハハ、あいつ、馬鹿じゃねーの」
その場を目撃して爆笑する人達。
実に様々な人がいる。
自分が遊び人になって初めて気づいた。
本屋も武器屋もカフェや食堂も、昼間ずっと営業しているのは、客がいるからだ。
暇人と働いている人がいるから、そういう商売は成り立つ。
世の中の人間全てが働いたり、学校に行ったら、商店街はもぬけの殻になり、全部潰れる。
世の中にはこういう人々も多少は必要なのだろう。
そんな気づきを得たのはいいが、今のオレが生きていくためには職が必要だ。
とりあえずギルドの職業案内所にでも行くとしよう。
「ああ、誰か、武器買いませんか? お願いです。買ってください」
さっき論破された商人が通りがかる人に泣きついている
なんかあの人可哀想だから、買ってあげるとしよう。
「すみません、最強の杖ください」
「え、本当? ありがとう」
「いくらですか?」
「3000リメルでいいよ」
戦闘用の杖としては普通かやや安いな。
「まいど」
短杖か。手に持った感じは普通だ。どの辺りが最強なのかは分からない。
魔法を使ってみれば分かるかもしれないが、生憎、今のオレは魔法が使えない。
まあ、とにかく今はギルドへ向かおう。
* * *
ギルド、正確にはギルド・ゲートポートと言う。
元々はここ、ゲートポート一帯を仕切る商人の組合であったが、商圏の拡大と共に勢力を増し、現在では、国内はもとより、海外にまで広がる巨大な組織となっている。
ざっくりと言えば、商人が作ったでかい組織という認識でいいだろう。
そんなすごい組織なら、仕事の1つや2つ紹介してくれるはずだ。
「で、何かいい職はありますか?」
「力仕事ならいくらでもあるんだけどねえ」
「オレにできると思いますか?」
「ちょっと無理そうだね」
オレの華奢な体を見て、おばさんはそう答える。
「このオレにもできそうな簡単なお仕事を探してください」
「うーん」
「それじゃあ、とりあえず一番報酬がいい仕事を見せてください」
「それなら」
そう言うと一枚の紙を取り出す。
その紙を読んでみる。
「何々……仕事内容、とある人物の護衛。条件、20歳以下かつ名前の頭文字がRの方。報酬は……ありえねー」
何かの詐欺なんかじゃないかと思うような条件だ。だが幸い応募条件は満たしている。
「これにします」
「はい、分かりました。えーと、面接があるようなのでこの部屋に行ってください」
小さなメモを手渡される。
「了解しました」
ダメもとでも、面接とやらを受けてみるとしよう。