4話
「う、うぅ…」
目を閉じていても眩しさを感じるほどの強烈な光が周りから消えていく様子を感じとり、そっと目を開くと、ユウリは森の中にいた。
「せい‥こ、う…成功したんだ!」
今まで教会にいたはずの自分が森の中にいる。
森だけでは、異世界なのかどうなのかまではわからないが、少なくとも、どこかに転移したことは間違いなかった。
ユウリは、頭の先からつま先まで、体のあちこちに触れてみた。
「うん、大丈夫!本当に魂になっちゃたわけじゃないわね!!」
体の感触、温かさを感じ、体ごとの転移が成功したことに安堵する。
自分が体ごと来れたということは、ヤヨイもそうであるはずということだ。
「うーむ。しっかし、森か〜」
ユウリは、ウェディングドレス姿だ。森を歩くには少々不向きな服装である。
そういう意味では、いささか冷静さを失っていたのだろう。
後先を考えていれば、せめて着替えくらいは持ってきていただろうから。
転移をする事だけを念頭に、それ以外には気が回っていなかったのだ。
そんなユウリだからこそ、転移の成功を引き寄せたとも言えるのかもしれない。
ユウリは、ドレスの裾を膝丈あたりまで持ち上げて縛り、靴を脱いで歩きはじめた。
ここがどこにしろ、周りに人一人いないのでは、情報集めもできない。
まずは森を抜けなければ。
「………て、どんだけ広い森なの〜!!!」
かれこれ2時間くらい歩いても、街どころか、人工物すらも見当たらなかった。
「やだわここ、異世界じゃなくて、樹海だったりして〜。あ、コレ、富士山の湧水かしら、お〜いし〜い」
などと、少し現実逃避しつつも、今は幸いにも見つけた水場で、岩に腰かけて休憩中である。
こうなると、食べ物も飲み物も持ってこなかったのは厳しいかもしれない。
父親の趣味に付き合って、多少のサバイバルキャンプの経験はあるものの、森で食べられるものの知識が、果たして異世界でも通用するのか…。
実は、ここまで歩いている間に、羽根のある空飛ぶ花や、虹色に光る果実などに遭遇しており、ここが異世界であることには十分に確信が持てていた。
幸いにも、水は、異世界でもユウリの知っている透明のものだった。
生で飲む事には多少の不安はあったが、飲んでみると、知っているとおりの水の味でとても美味しかった。
空の様子からして、今はまだお昼頃だろうか。
と言っても、ここが地球と同じ、24時間で回る世界なのかはわからないが。
森での夜の移動は危険だ。あっという間に暗くなるので、ヘタな移動は大ケガにつながる。
とりあえず、この水場を見失わないように印を残しながら移動して、あと2時間ほど歩いても街に出なければ、いったん引き返して、今夜はここで野宿をしよう。
水があれば、一晩は何とかなるだろう。
そうこの後の方針を決め、ユウリは休憩を切り上げて、再び歩き出す準備をはじめた。
「!?」
ユウリは、急な悪寒に襲われた。
一気に粟立った自分の肌に、本能的な危険を感じ、辺りを見回す。
ーーそこには、熊のような大きさの、狼のような姿の獣が、ギザギザの歯を剥き出して、唸り声を上げながらこちらに歩いてきていた。
「ガルゥ〜〜」
(やばい……)
仮に走って逃げても、速攻で追いつかれて、あの歯にガブガブと喰い殺される自分の姿が容易に浮かんだ。
瞬刻だけ考え、ユウリは側に落ちていた木の枝を拾い上げて、木刀に見立てて構え、獣と対峙する事を決めた。
「この西園寺 侑梨に手出しをするのであれば、少なくとも相討ちになることは覚悟なさい!!」
獣に言葉が通じると思っての台詞ではない。自分を役に入り込ませるための台詞であった。
ユウリから闘気を纏ったかのような雰囲気が漂い始める。
「ガウッ!!!」
獣から雷のような光が放たれ、先程までユウリが腰をかけていた岩が崩れ落ちた。
それでも、ユウリは隙のない構えを崩さない。
「どこを狙っているのかしら」
獣を見据えて挑戦的に笑うユウリ。
そのまま睨み合うこと数十秒。
迫力負けしたのか、獣が一歩、また一歩と後退して、ついには踵を返して森の奥へと去った。
しばしそのまま剣の構えを解かず、ユウリは獣の去った森を見つめた。
(やった!)
しばらくして、もう大丈夫かなと、危険が去ったことを確認して、ユウリは構えを解いた。
しかし、そう思った直後、去ったはずの獣がすぐにまた現れたーー今度は仲間を4匹引き連れて。
ユウリを支配しようとする刹那の絶望感。
しかし、それを奥に押し込め、再び構えを取る。
「ーーファイヤーウァール!!」
突如、火の渦が現れ、獣たちを巻き込んで空高く上がり、そして消し炭にした。
「大丈夫か?」
その見た事もない恐るべき光景に、木の枝を構えたまま硬直していたが、後ろから優しいトーンの人の声がかかり、助かったことを理解して、ユウリはヘタヘタと腰を抜かした。
「おーい、大丈夫か?」
再度声を掛けて、ユウリの顔を覗きこんだ男、
これが、イリス・アルフォンス・アスプラールであった。