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灯火

作者: ミゼン


とある町の広場で、

クリスマスの夜明けに、

一人の少女が死んでいました。


沢山のマッチの燃えかすが、

綺麗な雪の上に被さっていました。


ただ少女は、とても幸せそうな

表情を受かべていました。


身体は雪のように冷たいのに、

とても温かそうな表情でした。


少女が着ていた服は、

破れた所を違う布で縫った跡が

沢山ある服を着ていましたが、

この寒い寒い聖夜の夜を過ごすには

あまりにも薄すぎる布でした。


それでも彼女の表情は、温もりを

感じるような温かい表情でした。


町の人達は悲しみました。


みんな幸せなはずの聖夜の夜明けに、

広場で少女が一人死んでいるなんて。


どうして。どうして。


とても可哀想な少女だと

町の人達は思いました。


町の人達はそれはそれは

とてもとても悲しみましたとさ。



……




「………」


……なーんてね。


……はは。


……聖夜の夜、マッチを一生懸命売ろうとする

少女を一瞥するような冷たい目線で見ていた癖にね。


そんな少女なんて目もくれず、自分達だけ

聖夜に七面鳥やケーキを食べ、幸せな聖夜を

過ごしていた癖にね。


結局はそうなんだ。


自分達さえ良ければ良かったんだ。


あの時、マッチを買ってあげた人達が少しでも

多ければ、こんな悲劇は起きてなかっただろう。


それなのに、自分達の

都合で彼女を見捨てたんだ。


そしていざ悲劇が起こっても、

「可哀想」などという言葉で片付け、

あたかも自分は慈悲を持った人間だと

自己満足で決めつけてしまう訳だ。


「……まぁ、それが結局

『人間の本質』なんだろうね」


僕はそう呟き、手に持っていた

三箱のマッチ箱、数本の花の束と

幸せそうに死んでいる少女を交互に見た。

あの時、少女のマッチを買ったのは

僕だけだったかもしれない。そりゃそうだ。

聖夜の夜にこの町でわざわざマッチなんて

買う人は早々いないだろうからね。


「………」


僕は少女に群がっている人々をかきわけ、

横たわる少女の前に立つ。


弱い者に手を差し伸べられるような

温かい感情なんて、この町には無いように見えた。


この町には文化的な生活ができる程の

裕福層しか暮らしておらず、少女のような

別の布で補修した服を着ているような

貧民層なんて場違いのように

思われていたんだろうか。


よくよく少女の顔と腕を見ると、青痣が出来ている

場所がいくつかある。きっと少女はマッチを

全部売らないと家に帰らさせてもらえない

立場だったのかもしれない。


そうやって親が子供を働かせ、

挙句自分は働かず、

酒でも飲んでいたのかもしれない。


……まあ、こればかりは考えすぎかも

しれないけどね。でも、結局は自分だけ

良ければそれでいいんだ。

それが「人間の本質」なんだろうからね。


上級階層の身分の人達がいい例だろうか。

よくよく思い出したら、上級階層の身分の人が

乗った馬車が少女に容赦なくぶつかり、籠を落とし

マッチ箱が籠からバラバラと出ていってしまう光景を

僕は見てしまっていた。ぶつかられた場所を抑えながらマッチ箱を拾っている少女を見た僕は助けに行かずにいられなかった。僕は一緒にマッチ箱を拾った後、

落としたマッチを全部買ってあげた。雪で使い物に

ならなくなっていたものもあったけどね。


そんな状況でも周りの人々は少女に目もくれなかった。それどころか一瞥して少女と僕を見る者もいた。


「……来世ではもっと幸せに暮らせるといいね」


僕はそう言って、手に持っていた

数本の花の束を少女の隣にそっと置き、

その場を後にした。


……


実を言うと、僕はとても後悔している。


自分は少女を助けたつもりでいたけど、

マッチを全部買っていれば彼女は

無事帰れて死んでなかったのではないか。


なんなら自分が少女を暖かい家の中に

一日だけでも入れてあげてれば、

温かいご飯も食べさせてあげられたし

少女は死んでなかったのではないか。


あわよくば、少女を引き取ってでも……


……


僕にはそんな財力はなかった。

僕はこう見えても売れない作曲家、

そして売れない演奏者なんだ。それでも

毎日の食事には困っていなかった。


でも。

少女はそもそも、毎日満足した食事を

食べれていたのだろうか。きっとひもじい

思いをしながらマッチを必死に

売っていたのかもしれない。


「……僕も『同類』なのかな」


結局、僕も彼女を少し助けただけで、

本質的には見捨てた事に変わりは

ないんじゃないのか、と自分を責める。

同じ人間なら、もっと助け合うべき

じゃなかったのか、と自分を責める。


ただ、それが結局は『人間の本質』

なのだという事に結論がついてしまう。


つまり結局は自分も同類なんだろうと。


「……はぁ」


僕は溜息をついた。


僕は自分自身の後悔の念と、あの少女の

可哀想な悲遇、あの少女に対しての

上級階層の民衆の冷たい目線や一瞥した

目線への憤り、そして不平等さから起こった

悲劇そのものを全て楽譜に書き表す事にした。


「……できた」


書き上げた楽譜。それはピアノの独奏曲。


僕はこの曲に「灯火」と名付ける事にした。



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― 新着の感想 ―
[一言] マッチ売りの少女、可哀想に。 青年の独白、身につまされる思いです。
2023/04/29 20:58 退会済み
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