12 謎は解かれた?
それから、何か手がかりになればと、エーリとカレンは今まで話すことができなかった腕輪のことをマージとブロンズにすべて話しました。今まで言いたくても言えないモヤモヤに支配されていたので、二人とも我先にとしゃべります。そして、ここにいる皆がだいたい言いたい事は言い、聞きたいことは聞き終わったところで、ブロンズは帰って行きました。
「解決したわけではないけれど、頼りになる方が協力してくださることになって、良かったわね」
マージは久しぶりに晴れやかな心持ちでした。
「私はご老人に恋をしなくて済んでホッとしたのが一番だわ!」
エーリも肩の荷が少し降りた気分です。
「次はカレンの恋の話を聞かなくちゃ」
また頰を赤くしたカレンをエーリはニコニコと見ます。
「それは忘れていいのよ! “話せない魔法”をエーリにかけてやりたいわね!」
カレンの冗談に、三人は声を上げて笑いました。
ブロンズはアトリエを出てしばらく歩くと懐から三角帽子を取り出して、シルクハットのかわりにかぶりました。足早に路地に入り、さっと辺りを見渡して誰も見ていないことを確認すると、杖でコンコンと建物の壁を叩きます。人ひとりが通れる程度の入り口が現れ、彼が中に入ると同時に入り口も消えました。
入り口も窓もないこの部屋は、天井にはシャンデリアが輝き、赤い絨毯に贅沢な調度品の並ぶ、豪勢なものでした。開け放たれたクローゼットには、魔法使いの帽子や黒いローブがかかっています。革のソファでくつろいで本を読んでいた金髪の若い男が、 ブロンズが帰ってきたことに気づいて顔を上げました。
「腕輪を手に入れることはできたのか?」
ブロンズは静かにするようにと、人差し指を立てた仕草で示すと、小さめの声で言いました。
「いや、無理だった。あれを外すには正規の手順でなければ無理だ」
「俺には偉そうに言っといてその様かよ。で、正規の手順というのは?」
「それがわかってれば、今頃この手の中にあるさ」
「なんだそれ。やっぱり腕ごと持って来た方が早いじゃねえか!」
ブロンズは激昂しそうな金髪男を、肩をポンポンと叩いてなだめます。
「まあ焦るな。今は腕輪を“ちょっと悪質なまじない道具”程度に思ってくれているが、あまり接触するとマージ女史が怪しむ。しばらくつつくのはやめよう。
なに、在りかはわかっているんだ。しばらくあそこから動くことはない。それに、少しばかりの情報も得ることができた」
「そもそも、あなたは捕まってることになってるんだから、あなたが腕輪を取りに行くのは無理よ。私たちは無知なあなたの、考えなしな行動の尻拭いをしたんですからね。反省してほしいわ」
真っ赤な口紅が印象的な若い女が、赤い首輪の白猫を撫でながら、会話に割って入って金髪男に言います。金髪男は言い返せずに、悔しそうに拳を握りしめました。
「それにしても、この本よく出来てるわねぇ、ブロンズ」
若い女は先程まで金髪男が読んでいた本を取り上げて言います。
「もっともらしい説明を上手いこと入れ込んで。これなら誰だって騙されるわ。“愛の腕輪”ですって? 本当は全然違うものなのにね。あれは私たちを自由にするものよ」
女はクスクスと笑います。それを聞いてブロンズが顔をしかめます。
「あまり大きな声で言うな。この空間は完全に秘密が守られるものではないのだから」
「神経質ね。とりあえずお疲れでしょうから、お茶でも飲む?」
女はお茶を入れにキッチンに立ち、ブロンズはため息をつきながら肘掛け椅子に座ります。金髪男はソファーに寝転がってむっすりしていました。
「小娘の手に渡る前に見つけていれば、俺が自由を手に入れていたはずなんだ。こんなダサい帽子や杖なんか使わずとも、本来、生まれながらに魔法を使えるはずなのに!」
金髪男がぶつくさと独り言を言っているのをブロンズがたしなめました。
「小娘だなんだと、お前だって青二才だ。
腕輪の行方はなんの手がかりもなかった中、手にしたのが見習いだったのはまだマシな展開かもしれんぞ」
女は四人分のお茶と猫のミルクを持って、こそこそと話をしている二人のもとに戻ってきました。
****
ブロンズと入れ替わりでお客様が入って来ました。羽根つきの帽子をかぶり、毛皮のコートを羽織ったマダムです。エーリたちはさっと気持ちをきりかえました。
ここは、この街唯一の小学校の保健室です。部屋の半分はハーブ薫る緑豊かな温室、 ガラス戸に仕切られたもう半分は、清潔でおしゃれなカフェのような保健室です。素敵な暖炉には赤々と炎が燃えて部屋をポカポカに温めています。
そんな保健室を訪れるのは怪我をした子供だけではありません。保健室でもあり、魔女のアトリエでもあるこの部屋には、困り事がある人が相談に来るのです。
三角帽子をかぶった魔女、マージはにこやかにお客様を迎えて椅子を勧めます。お客様が椅子に座ると、保健委員のエーリとカレンが、ハーブティーのメニューを持ってきます。
「こんにちは。ハーブティーはいかがですか?」
「こんにちは。では、ローズティーをお願いしようかしら」
エーリとカレンはお茶を入れたり、クッキーを用意したり、マージに言われた道具を取りに行ったりと、忙しく働きます。
毛皮のマダムが相談を終えてアトリエを出ると、マージは見習い魔女用の帽子をエーリとカレンに渡しました。
「今回のご依頼はあなた達にも少し手伝ってもらおうかしら」
そう、保健委員は魔女っ子なのです。
end
2020/09/30 改稿しました
※改稿にともない、一話あたりの文字数を減らしたため、話数が増加しています。
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