2 くりかえす今日
まず、明るい日差しの中で、主人公が目覚めるところから始まった。
『あー、よく寝た。
今日も学校かあ、めんどくさいなあ〜』
物語は単調に進んでいった。
キャラクターの設定は、実在の私と全く一緒にした。こんなゲームの主人公設定を考えるのは面倒だったから。
『あ、おはよう。今日の課題やった?』
家を出て学校に行くと、女生徒が話しかけてきた。その女生徒にも名前がつけられるようで、その子が出てきた瞬間に画面が少し暗くなり、50音順の文字がぱっと出てきた。
これも面倒で、とっさに思いつかなかったから、実在する子の名前を入れた。
まり。
選択肢は2個。『もちろんやったよ』『ううん、やってない』
「…やってない。」
私は無意識に声を出していた。テレビの人がこんにちはと言うと返してしまう。そんな感じだ。
『えー、私あんたに見せてもらおうと思ったのに』
画面の世界の中では、今は朝の学校だった。HRが始まる前の少しの時間。
また選択肢が出た。
『それはお互い様だよ〜』『ごめ〜ん、じゃあほかの子のとこ見せて貰いに行こ』
選択肢はどんな時にも2つしか出ないと思っていたので、それ以上の選択肢が出た時、少し驚いた。矢印のしたのボタンを押すと、自然と3つ目の選択肢が出てきた。
『たまには自分でやってくれば?いつもそんなこと言われるとうざいんだよね』
…私は一瞬固まった。だって、ほかの選択肢と明らかに違うのだ。
一瞬3にしようとした。けれど、せめてゲームの中でぐらい、いい格好がしたいと思った。
「――みつえに、課題やったかどうか聞いてみよう?」
気づけば私は、出てもいない登場人物の名前を発していた。みつえはクラスが違うけど、履修科目は一緒だ。選んだのは2。
まりがにこっとほほ笑んだ。
『そうだね!』
「それっていわゆるクソゲーじゃね?」
私はチャーハンを食べる手を止めて、疑問符を頭の上に出す代わりに顔をしかめた。
あのあと私は、一日を終えてセーブをした。キリが良かったので、自分の部屋から一階の台所に行って晩ご飯を食べようと思ったのだ。
すると、台所には先客がいた。
今日は友達の家に泊まるんじゃなかったのかと聞くと、都合が悪くなったと肩をすくめた。
向かい合う私たちの目の前には、冷凍のチャーハンが2個鎮座している。
「だからぁ、クソゲーだよ、ねーちゃん」
一つ一つ言葉を切りながら、たしなめるように私に言った。同時にチャーハンも。
「なによそれ」
私も真似て、チャーハンを皿の上でグループ分けさせていった。端っこのグループをスプーンですくい上げて口に含んだ。分けたといっても、パサパサしているからすぐにまた一つになる。
「クソ・ゲームの略だよ。くだらねえゲームのこと。」
「…あ、そう」
「おもれーの?てか、それどこの会社のやつ?」
そんなところいちいち見ているわけがない。正直にそういうと、あ、そう、と私と同じように言った。
「まじびっくりした」
間を開けて言ったので何のことかと思った。
「ねーちゃんがゲームやってるとこなんか何年ぶりかに見たから。」
食べ終わって自分の部屋に上がった。携帯の時計を見ると、9時過ぎだった。
寝るのには早すぎるし、けれどテレビを見る気にもならない。
私は、ゲームを再開した。
2日目。
そう表示された後、パッと画面が明るくなった。
また、同じ部屋で同じように起きた。違ったのはセリフぐらいだ。
『あ〜ぁ、今日は1時間目から体育かあ』
実際の学校でも、1時間目から体育の日がある。なんだか気持ち悪い偶然だと思った。
そのあとも、あまり変わり映えのしない感じで物語は進む。
そして、2日目も終わった。
そんなこんなで、気がつけば1か月が過ぎていた。そのころには、もう今日はとっくに明日になっていた。街も静かに眠っているようだった。
それでも私は、不思議とこのゲームをもう少し進めたいと思った。あともう少し。もう少しだけ進めたら寝よう。
けれどその日は結局、もう1日分進めただけでやめた。眠さのほうが先に立ったから。
次の日は、学校が休みだった。平日だからなにかの日なんだろうとは思うけど、最近カレンダーを見ていないから思い出せない。何の日だっただろうか。
1階に下りると、弟がちょうど出かけようとしているところだった。
「…いってらっしゃい」
その言葉で私の存在に気づいたらしく、弟はおぅおはよう、と、私の見送りに噛み合わない返事を返した。
弟の格好はいたってラフだった。7分袖のTシャツにぼろっぼろのジーパン。(別に穿きなれているわけじゃない。この間買ったばかりだと言っていたから)でも髪はしっかりとセットしていた。見るからにワックスをつけている感じ。
「デート?」
特に理由も理屈もなく聞いた。すると当たったようで、少し怒ったようにおぅ、とだけ言った。照れている。
少しからかうように笑って、私はもう一度いってらっしゃいと言った。
家の中で再び一人になった私は、だらだらと朝食を食べながらテレビを見た。
そのあと、親から洗濯をしてくれと頼まれていたのを思い出して、洗濯をした。ついでだから、すでに乾いた服をたたんだ。
洗濯が終わると、いよいよ暇になった。そうすると頭に浮かぶのはゲームのことだ。
私はよっこいしょ、と立ち上がって自分の部屋へのんびりとした足取りで行った。
また、『今日』が始まる。