1 わたしはこうこうせい
夕方。
窓にシュッと線ができた。それで、雨に気がついた。
その線は次第に増えていく。激しくなっていく雨に反比例して、電車の速度は落ちていく。
傘は持ってない。天気予報だって今日は雲のマークだけだったはずだ。
降りるべき駅が来た。私は窓際に座っていたので立ち上がって少し会釈をすると、自然と通路側の人が、通りやすいようにぴたりと、座席の背もたれと自分の背をひっつけて私を通りやすくしてくれた。
私はまた、会釈をした。
「まじうざいんだけど」
私の3メートル先ぐらいを歩いていた高校生が、そうやって隣を歩く友達に吐き捨てながらこっちに来る。
なんてことないせりふだった。この頃なら、どこでだって聞く。証拠に、隣の子はなだめるように笑っていた。
すれ違う瞬間、彼女がさしていた傘が私の右頬のあたりを地味にかすった。痛くて眉根を寄せる。その子はと言えば、こちらを一瞬見て、謝るのかと思えば何も言わずにすたすた行ってしまう。
…私がもっとヤンキーっぽかったら、きっとあの子も謝ったんだろうな。
改めて自分の姿を、見下ろしてみる。すこし膝上のスカート、ボタンは、じめじめして暑かったから第一ボタンだけ外してる。袖のところは外してない。肩より少し長めの髪は、きっと雨でぐしょぐしょになってる。くくってなくてよかったと、そこだけポジティブに考える。
「…しねばいいのに、あのこ」
抑揚のない声が本音を滑らした。
いつも学校の帰りは、古本屋に立ち寄る。今日も例外じゃなかった。
というか今日は、雨宿りがしたかった。夕立だと思ったから、すぐやむと思って。
いつも、少女マンガのところに直行する。やっぱり少女マンガは好きだ。特に、ハッピーエンドのやつは。
でもずっとそんな系統のお話ばっかり読んでいると飽きてしまう。というか、酔ってしまう。主人公はいつだってまっすぐで、だからいろんな人が寄ってくる。魅了される。
私は読んでいるうちに、いつの間にか劣等感の海に遭難してしまうのだ。だって私に、「彼女たち」のような明るさなんてないから。いつのまにか私は、自分と「彼女たち」を比較している。
そして、船酔い。
それでも私は毎日読むのをやめない。なんだかんだ憧れがあるからっていうのもあるし、…麻薬みたいなものかな、と自分で勝手に思ってる。
だからそういう時は、小説とか、音楽とかのコーナーに行く。気晴らしだ。
これまたいつものルートでCDのコーナーに行った。毎日来てるから、まあ代り映えはしていない。
そう思って、小説のコーナーに体を向ようとした。
その時、何かが目に入った。同時に感じたのは、何かの気配。
なぜ違和感を感じたのかはさっぱり分からない。けれど、説明できない何かを感じたのだ。
見ると、CDのわ行のところに、「K」と書かれたケースがあった。
(…だからおかしい気がしたんだ)
私は納得して、それを何気なく手にとった。わ行のところに英語?のCDがあるなんて…。
よくよく見てみると、それはCDではなくてゲームらしかった。
設定は現代で、俗にいうAVG?ってやつらしい。(よくわからない。そんなに詳しいほうじゃないから)表紙には大きく「K]、とだけ。裏には「時は現代、戦慄の物語が今始まる」と普通の明朝体で書いてある。特に凝った感じはない。
つまりは、キャラクターが出てきて、セリフによって分岐点があって、エンディングもそれに応じて変わるってことみたいだ。
偶然なのか何なのか、家にある機種のゲームだった。
べつに、理由なんてない。
私は、それを買うことにした。値段だって高くはなかった。
つまらなければまた違う古本屋に売ればいい。
外に出ると、雨はやんでいた。
はじめまして。
まだまだひよっこ以前の微生物みたいな段階の者ですが、これから精進してまいりたいと思ってます。
よろしくお願いします!