表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青井 桜音は無才能  作者: わんおくおっく
3/3

音無の才能

爆睡してる先輩をホールの適当なソファーに寝かせた後、学食へと向かった。

賑やかで余り俺がいるような場所でない。

さっさと食って出ていこう。


券売機で唐揚げ定食の食券を買い、食堂のおばちゃんの元に並ぶ。


混んでいなかったため、すぐに俺の順番がきて食事をおばちゃんに渡す。

少しして隣のカウンターに俺の唐揚げ定食が運ばれてくる。速い……。


「はい、唐揚げ定食おまちどおさま」

「ありがとうございます」


おばちゃんに軽く会釈を交わして席を確保しようとキョロキョロと辺りを見渡す。

どこか周りに人がおらず、なおかつなるべく隅っこの席はないだろうか。


しばらくその状態が続く。

粘った甲斐があったのか、よさげな席でグループで固まって食べている生徒達が立ち上がった。


彼らが立ち去ったタイミングを見計らって滑り込むように座り込む。

やったぜ、席を確保できた。


ちょっとした達成感を感じながら唐揚げを一つ頬張る。

時間が少し経ってしまったせいか冷めてる。

まあしょうがないか。


漬物を食べ、米を食べ、次に味噌汁に手をつけようというところで誰かが向かい側の席に座ってきた。


「よっ。こんなとこで一人寂しく一人飯か?」

「音無!?」


声の主はすぐに分かった。


「お前なぁ!あんな気味の悪いところに行かせやがって!一体どういうつもりだよ!」

「落ち着け。とりあえず声のボリュームを落とせ」


音無に言われて気付く。

あんな大きな声を出してしまったんだ……注目されて当然だ。


咳払いをひとつして席に座り直す。


「んで……どうして俺をあんなとこに?」


改めて問いただす。

きっと何か目的があってわざわざ俺をあんなところに行かせたんだ。


「おまえの『才能』は何だった?」


『才能』……戸塚が言っていたやつか。


「俺は『無才能』だとさ……」

「『無才能』?珍しいな」

「なんでも世界に二人しか存在しないだとか」

「まあな」


つまり、それくらい稀有けうな存在だと言うわけか……俺は…………無能なのに?笑えるな。

俺以外にも一人いるみたいだから、そいつに出来ることなら会ってみたい。


「ていうかさ、野々咲先輩や戸塚の『才能』って一体なんなんだ?」


俺が無才能だと言うことは痛いほど分かった。

今はあの人達の『才能』が知りたい。


「莉央の才能は人の心を読むことが出来る」

「こ、心を読む!?」


おいおい、いきなりとんでもない『才能』を聞かされたぞ。

心を読むって……あのとき幼女だと勘違いしていたの見られてたのか?


そうだったとしたら後で謝罪しよう。


「戸塚は他人の『才能』が分かる『才能』だ」

「だから俺をアイツの元まで行かせたのか」

「そう言うことになるな」


手にしているハンバーガーを頬張りながら、俺との会話の受け答えをする。


ハンバーガーセットなんて物もあったのか。


「旨そうだな。そのハンバーガー」

「そう言えばここに来たらいっつもこればっかり食ってるなぁ」


などと口にしながらパクパクと、一瞬でハンバーガーをたいらげてしまう。

そしてまたハンバーガーに手をつける。


「おいおい、シーフードばっか食ってると体に悪いぞ?」

「大丈夫だ。私は太んない体質だからな」

「お前全国のダイエット中の女性に謝れ」


そんな物ばっかり食ってて太らないとかどういう消費の仕方してるんだよお前の腹は。


「けど身長も伸びねぇんだよなぁー」


手を自分の頭に置いて不思議に思う音無。


音無は野々咲先輩に並ぶほど小柄だし、 確かに太らないのに身長も伸びないとは不思議なことだ。

こいつの栄養は一体何処に吸収されているんだ?


それに――――


「そこも成長してないしな」

「お前殺すぞ?」


しまった。目線が無意識に胸へと向いているのがバレてしまったみたいだ。


「けど音無はスゲー可愛いから胸が大きくなくたって大丈夫だろ」


まだ死にたくないのですかさずフォローをいれる。


「お前それ素で言ってるのか?」

「え?なにが?」

「いや…………なんでもねぇよ」


音無はやれやれと言いながら、ため息吐いて呆れている。

解せない。理由も分からずに呆れられているだなんて…………。


複雑な心境のなか、すでに冷めている味噌汁をすする。そこで気がかりなことを音無に問う。


「あのさ、音無の『才能』って何だ?」

「……やっぱり聞くよなー」


四つ目のハンバーガーに手をつけようとした手を止めて、気だるげそうに椅子にもたれかかる。


つうかどんだけ食ってんだよ……!


「私の『才能』は、なんでも出来ることだ」

「なんでも……」

「そ、なんでも」


それだけ言うと食事を再開する。


そうか……あのときの音無の言葉にはそういう意味が込められていたんだ。


『私にしか出来ないからだ』


あのときの音無の言葉が今じゃ身にしみるように理解できる。


この学校に存在するエリート達の悩みを解決するのは、それを上回るエリートって訳か……。


「じゃあ俺なんかがどうして普通科なんかに?」

「んなこと私にも分からん」


ますますあの校長の意図が分からなくなってきた。


「ごちそうさんっと。私は先に戻ってるからな」

「ああ、分かった」

「そうそう。これ、アイツから」


机の上になにかのカードキーを出す。


「これはお前の部屋の鍵だ。なくすなよー」


音無の言うアイツとはだいたい校長のことだろう。

あの人、本当に説明なしに色々進めやがるな。


そもそもあの人って一体いくつなんだ?

どうも性格や体格からして成人しているようには思えない。


音無から受け取ったカードキーを眺めながらそんなことを考える。


ところで家具とかどうなってんだろ?









「嘘でしょ?」


カードキーを挿し込み、自分の部屋に入ってみると家具も何もない空間があった。

布団どころかタンスまでもがない。


一体俺にどうやって生活しろと?

けど考えてみると親父に何も言われてなかったからな……この状況を作り上げたのはあのジジィのせいだ……。


「はぁ……親父に連絡しようなんて考えたけど、今はもう眠い…………」


あの人への愚痴は明日にしておいてやろう。


今は冷たく固い床だろうと横になりたい。

少し横になると、今までの疲労がどっと押し寄せてきた。


明日は何があるのやら…………と頭に思い浮かべながら夜を過ごすのであった。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ