始まりの扉
あなたは、生まれてきたことを後悔したことがありますか?
数多く存在する都市伝説の一つ。
【ゲート】
それは、自分の誕生日の深夜0時に現れるという不思議な扉。
その扉の向こうへ誘われようとしている子羊が今日もまた一人。
(あ……)
一人暗い部屋の中で、少女はふと顔を上げた。
その先には壁に掛けられた時計。その針はもうすぐ深夜0時を指す数秒前だった。
(もうすぐ……私の誕生日)
しかし少女の心には、嬉しさや楽しさのような温かい気持ちは一つも無かった。
あるのはただ一つ。
悲しみという、冷たい気持ち。
(なんで……私は生まれてきたんだろう)
(私なんて、生まれてこなければよかったんだ)
頭の中を巡る疑問と後悔。
その想いが少女の元へと、眩い光と共にあるものを呼び寄せた。
「な、何が起こったの!?」
あまりの眩しさに目を開けていられず、少女は状況が読めないまま何かに引きづり込まれるような感覚に襲われた。
「……っ」
その何かに引き込まれる刹那、少女は自分の部屋にあるはずのない物を目の当たりにした。
(大きな……扉?)
天井ぎりぎりの大きさをしたそれは、真ん中に歯車を連想させるような紋章が刻まれており、扉が徐々に開いていくにつれ半分になっていく。
少女は薄れゆく記憶の中、流れ身を任せ扉の中へと吸い込まれるようにして消えていった。
それを察知した猫が一匹。
真っ白で艶やかなその体には、大きな真っ赤なリボンが首輪のように結ばれている。
その猫は飛ぶように民家の屋根を伝って行き、とある廃ビルの屋上までたどり着いた。
「シン。子羊が迷い込んで来たわよ」
猫は、屋上に佇んでいた一人の青年に声をかけた。そして、シンと呼ばれたその青年は、肩まである漆黒のような黒い髪を靡かせて笑顔で振り向いて言った。
「ご苦労様、リリィ」
リリィもまた笑顔で返すと、シンの肩へと飛び乗った。
「よし、じゃあお仕事始めますか!」
シンはリリィを肩に乗せたまま、屋上の柵へと足をかけ、その上に立ち上がったかと思ったその瞬間、両手を広げて勢いよく飛び降りた。
体に纏う、黒のラインが入った真っ白なコートが風に煽られ、左腕に付けられた、あの扉と同じ紋章の腕章が落ちてしまいそうになる。
「おっとっと、危ない危ない」
余裕の表情を浮かべながら、シンは腕章を押さえた。
「さて、と。今回の子羊はどんな子かな?」