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亡霊学校  作者: 魚の涙
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三重要之助と亡霊学校

 体育館には百人程の生徒が集まっていた。

 不安な顔をしている者もいれば、楽しそうな顔をしている者もいる。

 生徒は年齢も恰好もばらばらである。

 それもその筈だ。学校の亡霊が後先考えずに拾い上げたからだ。

 自身の力が弱まっている事を考慮せずに、目に付く限りの生徒を助けようとしたのだ。

 ここにいる生徒達は皆一度死んでいる。

 死んだ事を自覚している者もいれば、そうでない者もいる。

 一貫しているのは学校に対して何らかの未練を持って死んだと言う事だろうか。

 そうでなければ学校の亡霊がこの生徒達を見つける事は出来ない。

 あれはそう言った存在だからだ。

「さて、生徒諸君。僕はこの学校の教師だ!」

 僕は檀上で高らかに宣言した。

「生徒諸君が学校に満足するまで、僕は教師であり続けるのだ!」

 生徒は今も増え続けている。

 学校の亡霊は未練を残した生徒を見捨てられないらしい。

 そうやって集めた生徒が満足するまで自身を存続させる為に、無自覚に僕の元生徒達を引っ張り込むのだから困ったものだ。

「僕は教師であり、教師は生徒を救い導く存在だ!」

 だから皆僕を頼ればいいのだと、決め台詞を言ったにも関わらずあまり反応がよろしくない。

 うむ、最近の生徒は良く分からない。

 まあ、それはいつもの事なので気にする必要もないが。

「さて、生徒諸君! この学校は職員も教師も全て一度死んでいる! よって生きている者の通う学校とはいささか趣が異なる!」

 楽しめばいいと、僕は声を張り上げた。

 楽しめばいい。どうせ公立小学校なのだ。

 勉強なんて最低限導けばいい。

 後は社会で生き残るのに必要な何かを自力で覚えるのが生徒の務めなのだ。

 しかしここは一度死んだ者の集う学校。

 亡霊学校だ。

 生徒も亡霊。教師も亡霊。職員も亡霊。学校も亡霊。

 やりたい放題に楽しめる学校だ。

 ああ、なんて素晴らしい学校だ。

「以上で入校式を終わる。卒業式は成仏する時。さて生徒諸君、これからの時間割だが……」

 ゆっくりと生徒諸君を見渡す。

 一人一人、その顔を覚えながら。

 僕の新しい学校の一度は死んだ生徒達を眺めながら。

「全部、自習だ!」

 拳を天に突き上げて、叫んだ。

「全般的に先生の欲望塗れじゃねーか」

 学校の亡霊の声は無視した。

 あれは生徒ではないからな。

 ともあれ、僕の僕による僕の為の亡霊学校、開校である。






・定期報告

 中国との外交問題の影で旧群馬対策法案は無事可決した。

 この法案の可決により群馬県放棄法案により定められていた旧群馬県を領土から除外する条項は実質骨抜きとなった事が非常に大きな意味を持つと我々は確信している。

 またこの度の中国軍戦闘機撃墜によって本邦が保有する軍事力の高さを望ましい形で広報する事に成功した。

 これを群馬県の復興に対して根強い危機感を抱いているアメリカ合衆国に対する牽制とし、世界に本邦の軍事力を広報出来た事は大きい。

 霧射同志の尽力により防衛隊の掌握がほぼ完了している現状、旧群馬県の制圧がまた一歩現実に歩み寄ったと言えよう。

 また末堂同志の尽力により我々に対して警戒的であった超常現象対策課群馬駐屯地の掌握もほぼ完了した。

 元より旧群馬県の復興に関しては中立の立場を表明していた京都駐屯地が復興の妨げとなる可能性は低く、次なる掌握対象は昨今OEの平均値が上昇傾向にある沖縄近海の管理を委託されている台湾海軍となる。

 台湾海軍は本邦からの技術提供を受けているため、技術レベルでは本邦と並んで世界最高峰を誇る海軍であるが、その一方で魔海と称される沖縄周辺海域を抱え込んでいる。

 同海域は中国の原子力潜水艦及び空母が多数沈没しており、放射能汚染レベルも高い非常に不確定要素の高い海域である。

 この海域は旧韓国の海軍を二日で壊滅状態に追い込み、本邦の海軍をもってして九州近海の僅かな領海を確保する事に多大な労力を割いている。

 この旧沖縄近海に割かれる予算の多さがエリアとしては非常に狭い旧群馬県の復興を妨げる要因となっている。

 よって、台湾海軍の指揮権に対する掌握は行わない。

 台湾海軍にはより多くの負担を負って貰い、旧沖縄関連の予算を削減する方針とする。

 現状実現性が高いと考えられる筋書として、この度の外交的失態でより窮地に立たされている中国首脳陣を使い旧沖縄に疑似侵攻を行わせる案がある。

 中国は丁度五百年程前に本邦領海内における複数の島々に対して同様の行為を行っていた実績があり、この筋書は中国政府の方針との間に重大な矛盾を生じさせない。

 疑似侵攻に同調する形で旧沖縄近海の実質的管理権をより一層台湾に移譲させ、この利権と技術供与を餌に資金面の管理もまた台湾へとより一層負担させる。

 これらの筋書を現実化させる時期は朝鮮半島の内戦が収束する時が望ましい。

 理由としては朝鮮半島が安定する事により、中国が現状対朝鮮半島関連で運用している人民軍が自由となるからである。また、朝鮮半島の内戦が収束すると言うニュースが国民の関心を引く事が期待され、我々の活動に向けられる関心を減らす事が期待される。

 最善の条件を整える手段として本邦で未だに活動している中国系の反軍備工作組織を利用する方法が保見同志より提唱されている。

 これらの団体は表向き平和推進団体として活動しているため、非常に利用しやすい。既に目ぼしい団体の幹部を処理する準備は整っている。

 これらの目標は最短で三年程の期間があれば遂行可能と思われるが、一点非常に不安定な要素がある事を忘れてはならない。

 九月に群馬駐屯地内で起きた七名の死亡者と一名の喪失者を出した事故以降、GE値もOE値と同様に平均値が上昇する傾向にある。

 状況によっては旧群馬県の武力的掌握を先行させる必要があるかも知れない。

 末筆に一日も早い群馬県の復興を願って本報告を終了する。

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