雇われ冒険者視点
俺の名はアーサー・クリスティー。冒険者をやっている。
マーズ・モーリーとはペアを組むことが多く、今回もマーズと商人の護衛をすることになった。
この商人とは今までも何度か護衛をすることがあり、顔見知りになっている。
今回は今いるライスの町からメルギルまでの護衛だが、急ぐ必要があり、かつ途中の町で情報を漏らしたくないことからクラム平原を通る最短ルートを行くと言われた。
俺が今いるのはライスと呼ばれる山脈のふもとにある町で、そこからだいぶ南に下るとメルギルという町がある。
この二つの町の間には森林とクラム平原が広がっている。
普通ライスからメルギルへ移動する場合、森林を西から迂回するライ川沿いの街道を使用する。
東から行く方が近道なのだが、途中危険な魔獣が出没するクラム平原を通るためこのルートを行く人は少ない。
今回このルートを行くわけだが、気を付けなければならない魔獣が二種類いる。
一つは小牙狼、一匹一匹はそれほど強くないが、集団になるととてつもなく凶悪になる。
集団になると生命力を共有するらしく多少切られても死ななくなる。
そのため、群れのボスを殺すか一度に多数の敵にダメージを与えなければ数を減らすことができない。
屈強な冒険者も小牙狼に囲まれ、何時間も攻撃を受け続ければさすがに力尽きてしまう。
まともに戦っても勝ち目がないのだ。
幸い攻撃力はそれほど強くないため、防御力と生命力を強化した馬で走り抜けるのが最善手である。
(この馬は多少噛まれても走り続けてくれる)
もう一つがヌーガと呼ばれる雑食性の魔獣である。
こいつも集団になると凶悪になる。しかも体は一回り大きい。
ただし、足はそれほど速くないので逃げ切ることは可能。
どちらにしろ徒歩では対処ができない。
馬か軽量の馬車が無いとこのルートは通れない。
ライスを出発して1日、クラム平原に入った。
ここを通るときは何度来ても緊張する。途中馬が倒れたらどうしようそんなことをどうしても考えてしまう。
そう思いながらも、気配を集中する。
気配察知スキル、俺の唯一自慢できるところだ。Lvは5で100m以内なら敵意を察知できる。
すると前方に誰かが座っているのが見えた。
近づくにつれはっきり見えるようになって驚いた。
そこには10代前半ぐらいの妙な服装をしたハーフエルフの少女が座っていた。
近づいて見てみると、見惚れるほど美しく非現実的な気分にさせられる。
あまりのことに俺たちを油断させるための盗賊の罠なのではないかと疑ってしまった。
気配察知で待ち伏せなど無く、本当に少女が一人であることがすぐにわかった。
名前はトモミというらしい。
しかし、話を聞くと迷っただの、歩いて旅をしているだのありえないことを話し始めた。
ここが危険な場所であることを話すと、こんなことを言い出した。
「えっと、実は、気が付いたら草原の真ん中まで連れて来られていて、
ここがどこだかよくわからないんですよ。」
む、つまりこんな処に訳も分からず連れて来られて、一人置いて行かれたということか!
こんな危険な場所に少女を一人だけでおいていけばどうなるのか誰にだってわかる。
武器は持っているようだが、短刀のようなものしか持っていない。
たまたま我々がここを通らなければ数時間で魔獣の餌食になっていただろう。
見たところ妙な服装をしているが、上質な布でできている。
種族もハーフエルフだ。もしかしたらエルフの貴族の権力争いに巻き込まれたのかもしれない。
面倒事に巻き込まれる可能性もある。
しかし、偶然巡り合い命を救える状況にあるのだ。助けるべきである。
残りの二人も俺と同じ意見だった。
俺は少女に馬車に乗るように勧め、一緒にメルギルの町へ向かった。
一緒に馬車に乗ってからはトモエからこの付近の地理について何度も聞かれた。
どうもトモエはこの付近の町や地名がまったくわからないらしい。
よっぽど遠くの方から連れて来られたのだろう。
だけどこの少女からは悲壮な様子は感じられない。
「へーこの馬車、結構スピードがでるのですね」
こんな状況にあるというのに落ち込むことなく明るい笑顔で話してくれる。
「あ、もしよかったら、これどうぞ」
懐にしまっていたのだろうか。焼き菓子を皆に配り始める。いい子だなぁ。
話し方も丁寧なのに遠慮を感じさせない。
いつしか俺は緊張がすこしほぐれたのを自覚した。
しかしこんな子を魔獣の巣に放り込むなんて、酷え奴らがいたもんだ。
・・・・・・・・・・
そうして、日が暮れる前に俺たちはクラム平原を抜けることができ、そこで夜営することになった。
2人づつ交代で睡眠を取ることになったのだが、トモエが大きな布と細長い棒で何かを作り始めた。
っていうか、それはいったいどこから出てきたんだ!
「トモミ、いったい何をしているんだ?」
「え、え~とテントというか、そう!寝床を作ろうと思って。
安心して眠れるように。寝袋もあるよ」
そう言って黒い膜から何かを取り出した。
「まさか!アイテムボックス!」
「え!やっぱりこれって珍しいのかな?」
とんでもないレアスキルである。今まで生きてきて一度しか見たことがない。
訳ありだと思っていたが、予想以上にややこしいかもしれない。
そうこうするうちに寝床と言っていたものが完成した。
そこには、布で覆われた小さな小屋のようなものができていた。
こんな短時間で作ってしまうなんて、本当に何者なんだ?