遭遇2
さて、今僕の目の前には小牙狼と呼ばれる魔獣がいて、敵愾心むき出しの表情で唸り声をあげている。
どうやらやる気十分のようだ。
僕はさすがに魔獣と遭遇するのは初めてであるため、かなり緊張している。
どうする?剣術スキルを試してみるか?
でも、剣術スキルも回避スキルも効果がなかったらどうする…、噛まれたら無茶苦茶痛そうだ。
落ち着け!いざとなったら瞬間移動で逃げることができる。
逃げる前にどこまで通用するか試してみないと。
鑑定スキルでは名前しか表示されないため、どのくらい強いのかわからない。
さっさと奥の手を使ってしまおう。
僕はアイテムボックスからクマ用催涙スプレーを取り出し、飛びかかって来た狼に噴射。
射程距離5メートルのガスが直撃。
「キャウン!」
狼は苦しそうにしながらあっけなく逃げて行った。
「ふ、まるで手ごたえが無い。」
とかっこつけてみるが、結局のところまだ刃物でやりあう勇気はないのである。
しかし現代の害獣駆除技術はすごいね。予想以上だった。
ただ、1個につき5回しか使用できない消耗品だから、頼ってばかりもいられないんだけどね。
それから、しばらく経つと今度は多数の小牙狼がやって来た。
囲まれているのが気配察知でわかる。
逃げるのも面倒なので、次はスウェーデンで作られるとっても臭い缶詰を開けてみた。
う、これはやばい!鼻がもげる。なんちゅう危険なもんを空けてしまったんや!
精神がおかしくなりそうな匂いで関西弁が出てしまった。
気が付くと小牙狼はあっという間にいなくなっていた。撃退には成功したものの、もう二度とこの方法を選択することは無いだろう。
匂いが服にこびりついてちょっと泣きそう。
そういえば一度も剣術試していなかった。まあいいや。
それから、3時間ほど歩くとようやく森の近くまで来ることができた。
しかも、森と平原の境目にそって道があるのを発見。
やっと人の痕跡を見つけることができた。ヤッホー!
もう、歩き疲れたのでここで一旦休憩することにしよう。
日よけの傘をさし、折り畳み式のイスにすわってのんびりしていると。
北西の方の道から馬車がやってくるのが見えた。
なんだ、人いるじゃん。なんでさっきまで見つけられなかったんだろう。
馬車は目の前まで来ると止まり、鎧と盾、剣の完全武装した男が二人降りてきた。
「誰だ、お前は一体何者だ!」
剣を向け、無茶苦茶警戒しながら聞いてきた。
どういうこと?
言葉が通じることに安心はできたが、なんでこんなに警戒されているんだ?
確かに見慣れない服装をしていると思うが、自分で言うのもなんだが可憐な見た目をしているはずである。
とりあえずなんて答えよう?
というよりもどんな口調でしゃべればいいのか。まあ、適当にしゃべってみるか。
「私ですか?私はトモミといいます。今は歩いて旅をしている途中なんです」
初めての女の口調だが、背中がむず痒くなる。
あ、ちなみに今の僕の声は鈴のなるようなきれいな声をしている。
「歩いてこんなところを旅してるだと!
トモミといったな、他に仲間はいないのか?」
「ええ、一人ですけど」
「一人でこんな場所を?」
「どうしてこんな危険な場所に来たんだ?」
「いや、迷子になってしまって」
「迷子だと?」
あれ、二人の視線がますます怪しいものを見る目に変わっていくぞ。
「迷子でこんな場所に来るやつがあるか!
普通、メルギルからライスまで移動するならライ川沿いの街道を使用するもんだ。
こっちの街道を利用する人間は何らかの事情があって、専用の馬車を使う奴らだ。
ほとんどの人間は通らない。それぐらい危険な場所なんだぜ。」
まじで。ここそんなに危険な場所だったのか。
「えっと、実は、気が付いたら草原の真ん中まで連れて来られていて、
ここがどこだかよくわからないんですよ。」
と、適当なことを言ってみると
二人は驚いたように顔を見合わせ、二人で何か話し合った後、こちらを振り向いた。
目つきが警戒するようなものからなぜか憐れむようなものに変わっていた。
「お嬢ちゃん、警戒して悪かったな。もしよかったら、ライスまでこの馬車に乗っていかないか?」
なぜ急に態度が軟化したのかわからないが、お言葉に甘えることにしよう。
「いいのですか?ありがとうございます」
そうして、僕はこの馬車に乗ってライスという町に向かうことになった。
その間、さっきの二人にこのあたりの地理について細かく教えてもらった。
この二人は話してみると結構いい人たちだった。
時々、何か小声でつぶやいているけど
「………な、そんな遠いところから…」
「…………く、酷えことしやがる」
種族がハーフエルフという設定を完全にスルーしてた
きっとトモミが見落としたせいです