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トム視点

 魔獣にはランクがある。主に強さや危険度に応じてA~Eまで分かれている。まあ、よく聞く設定である。群生型は集団で評価されるので危険度は割と高め、個別型でも一個体で滅茶苦茶危険な奴もいる。

 Eランクは最低ランクの魔獣で、1匹であれば死ぬことは無いぐらいの危険度。もちろん命の危険は無くても怪我はする。

 Dランクは討伐するのに1匹に対し初級冒険者(平均的な強さの大人)が3,4人、もしくは中級冒険者が1人必要な強さ。

 Cランクは1匹に対し中級冒険者が4,5人必要な強さである。中級冒険者は冒険者としてそこそこ稼げるようになった冒険者で、何かしらの戦闘スキルを持っているか、魔術に優れている。そんな冒険者が4,5人いないと倒せないCランクの魔獣というのは間違っても半人前数人でどうにかなる相手ではない。


 トムたち3人は林の中を必死に逃げていた。後ろから追ってくるラーガがどんどんと距離を詰めてくる。瞬間移動をするがあまり距離がだせず、すぐに距離を詰められる。すでにトムは遠距離移動ができなくなっており移動できる距離もどんどん短くなってきた。3人は無謀なことをしたことを後悔したが、もう遅かった。

 こんなはずじゃなかったのに。なんでこんなことに………。


 トムは今年14才になった少年である。背も伸び始めて、子ども扱いされるのを嫌う年頃である。11才の頃から年の近い幼馴染2人ケビン、マーリと大人に内緒で狩りに出掛けていた。内緒とは言ってもすぐにばれて叱られるのだが、最近ではEランクの魔獣は問題なく狩ることができ、逃げ足も速いので黙認されてきている。つい一週間前には3人がかりでDランクのボアードを倒し、自信もついてきた。こうなってくると冒険者のまねごとではなく村を出て本物の冒険者になりたいと思うようになった。しかし、大人たちからは冒険者になっても思うようには生きられない、村で畑を耕す方し平和に生きるほうがいいと反対された。それに対しトムは強く反発した。

 だったら冒険者として成功して見返してやる。


 人間というのは周りに比較対象がないと自分の強さはわからないものである。トムは周りの大人が倒せない魔獣を仕留めたことで自分たちには才能があるのだと思うようになっていた。だからこそ大人たちが手も足も出ないような魔獣でも俺たちなら倒せると思ってしまったのだ。(村の大人は畑や家畜に被害を出すEランクの魔獣だけを狩っていただけだ)




 大人たちからCランクの魔獣ラーガがどれだけ恐ろしいのかを何度も聞いたが、俺はそうは思わない。俺自身は瞬間移動スキルが使え、マーリは弓のスキルをケビンは魔法を少し使える。倒せるかどうかはやってみないとわからないじゃないか。いざとなったら瞬間移動で逃げられるし。


「でも大丈夫かな? CランクってボアードみたいなDランクが4,5匹分の強さがあるって聞いたことがあるよ」

 というのは少し不安そうな表情をしたケビン。

「大丈夫よ! トムの瞬間移動があればどんな相手でも逃げ切れるし、逃げながらでも私の弓でダメージを与え続ければどんな強敵でも倒せるわ」

 というのは活発そうな見た目の少女マーリ。

 実際ボアードを倒した時も細かく瞬間移動で逃げながら弓でダメージを与え、弱ったところをケビンの身体強化魔法の支援を受けたトムがとどめを刺すことでうまくいった。

「強いと言ってもボアード4,5匹分だろ。そのぐらい大丈夫! ケビン、怖いならここで待っていてもいいんだぜ!」と、トム。

「こ、怖くなんてないよ! 僕も行くよ!」



 俺たちはまず目的地の手前まで来て十分に休息をとってからいつでも瞬間移動ができるように歩いてラーガのいる場所に向かった。

 そうしてラーガと遭遇したのだけれど、初めて感じる強力な威圧感にビビりまくって、何もせずに逃げてしまった。予定では最初に遭遇した時は魔力を込めた矢や毒矢を打ち込んでからちょうどいい距離まで瞬間移動する予定だったんだけど何もせずに逃げてしまい、しかも予定よりも遠くへ逃げてしまった。

 しばらく呆然とする3人であったが、距離をとり時間がたつと恐怖も薄れてきた。

 何もせずに逃げ帰ったなんて知られたら笑いものになってしまう。もう一度行って、攻撃しよう。そこで無理そうだったら諦めよう。今思うとここで引き返しておけばよかったんだ…。


 スキルを使うと精神力を消費する。このことを知っている人間はあまり多くない。ベテラン冒険者が経験則で理解しているぐらいだ。トムやトモミたちも知らない。

 精神力とはどのようなものかはあまりよくわかってはいない。

 消費すれば完全に回復するのに1~5分かかる。

 精神力が少ない状態を何度も繰り返せば頭が痛くなる。

 スキルレベルを上げても精神力が増えたりはしない。

 そして最後にあまり知られていない事、それは疲労時や極度の緊張状態では回復が遅くなってしまうことである。これは経験や慣れである程度は改善する。


 再び戻ってきたトムたちは先ほど感じた威圧感にすごく緊張していたし、自分たちの疲労具合も気づいていなかった。

 ラーガともう一度遭遇した際、マーリは毒矢を弓で打ち込んだが毛皮にあっさりはじかれてしまった。その時点でトムたちは逃げることを決めた。しかし、トムが予定していた場所に瞬間移動しようとしてもスキルが発動しない、予定より短い距離でスキルが発動した。おかしい、大分時間をおいたので限界距離までまで移動できるはずなのに………。

 グオオオオオオ~~~~ン

 するとものすごい音の遠吠えが聞こえてきた。しかも、だんだん近づいて来る。

 本来なら瞬間移動Lv7のトムは最大800m移動できる。しかし、今回400mしか移動できず、ぎりぎりラーガの知覚範囲に入ってしまったのだ。ラーガも攻撃を加えてきた相手を逃がすつもりもなく、しつこく追いかけてきた。トムは短距離の移動しかできず、どんどん距離を詰められていった。


「はぁ………はぁ………くそ! 振り切れない」

 何度も瞬間移動を繰り返し頭も痛くなってきた。ラーガとの距離は30mを切った。あと数秒で追いつかれてしまう。ああ、大人たちの忠告をもっとちゃんと聞いておけばよかった。

「はぁ…はぁ…ママ~…グス…はぁ…はぁ……死にたくないよ~」


 そしてついに追いつかれた3人はラーガの前足の一振りで吹き飛ばされた。3人ともかろうじて生きていたが全身打撲で一人も動くことができなくなった。そして、トムの前にラーガがゆっくりと近づいてきて、頭からかぶりつこうと口を開き………。


 ヒュン……ポン!


 という音が聞こえた瞬間、ラーガの目の近くに何かがぶつかり、粉のようなものが広がった。

 グオオオオオオ!!!

 すると突然ラーガが顔を仰け反らして苦しみ始めた。その隙にいつの間にか俺より少し年上ぐらいの少女がそばまで来ていて、俺を抱えて瞬間移動した。


 移動した先は木の上だった、葉っぱがいくつも重なり下が見えなくなっている。俺を連れてきた少女はすぐにまた瞬間移動を繰り返し、ケビンとマーリともう一人少女を連れてきた。

「う……ここは、いったい?」

「し! 匂いと視覚は麻痺させたけど、声は聞こえてしまうから」

 遠くからはジリリリリリンという聞きなれない音が聞こえる。

「とにかく今はスキルが使えるようになるまで息をひそめて待ちましょう。私ひとりじゃこの人数をいっぺんには移動できないから。トムってあなたよね? あなたが回復するまで待ちましょう」

 どうやったのかはわからないけど助かったらしい。

 ラーガからはそれほど離れていないけど、なぜか見つかっていないらしい。


 それから俺たちはスキルが完全に使えるまでラーガに見つからずにすんだ。そこから瞬間移動で大きく離れてから村へ帰った。

 村へ帰ると両親に抱きしめられたあと頭を殴られた。

「このバカ! 心配かけやがって」


 4つ年下の幼馴染のネリアにも心配をかけてしまった。

「帰ってきてくれて本当によかった。心配したんだから………ぐす…」

「泣くなよ………心配かけてごめんな」


 このことで冒険者の夢をあきらめるつもりはない。だけど、みんなに心配をかけるようなことはもう二度としないとトムは誓うのであった。

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