初仕事
どうしてこうなった?
僕は今メルギルの町から西へ歩いて半日ぐらいの森へ向かっている。エアリーと執事のアンディーと一緒に。
手はしっかり握られ離すことができない。締め付けられたり痛みが出るほど握られてはいないのだが、はがそうと思ってもピクリとも動かない。なんちゅう握力や!
僕は魔獣討伐の依頼にはまったく興味が無いのだが、エアリーは楽しみでしょうがないといった表情で歩いている。
どこで間違ってしまったのか?
一泊すればそのまま別れるのだと思い込んでいたのが良くなかった。逃げるタイミングを失ってしまった。
それとも、夕食時に料理のお礼にウイスキーを空けたのがまずかったのかもしれない。
美味しい料理にお酒が進みすっかり打ち解けてしまって、気が付けば一緒に出掛ける約束をしてしまっていた。
しかも冒険者登録をすでにしていることやアイテムボックスのスキルを持っていることを簡単に話してしまっていた。酔っていたとはいえうかつすぎる。
次の日の朝、ふかふかのベッドで気持ちよく寝ていた僕は部屋にやって来たエアリーに起こされた。
「トモミ、はやく起きて。一緒に冒険者ギルドへ依頼を受けに行きますわよ」
急に起こされた僕の頭はこの事態をなかなか理解できない、
「え……何?……」
「わたくし思いましたの、トモミとわたくしがパーティーを組めばトップをねらえると。そう! 上級冒険者も夢じゃありませんわ。トモミもそう思っているのでしょう」
「は……え?……ちょっとまって」
「さあ、早く着替えるのです。今日からわたくしたちの栄光が始まるのですから」
それから僕はあっという間にメイドさんたちに着替えさせられ、気が付けば冒険者ギルドでパーティー登録をしていた。
「あれ? 冒険者ランクが離れているとパーティー登録できないんじゃなかったっけ?」
「大丈夫ですわ。わたくしも最近登録したばかりですのでトモミと同じEランクですわ。依頼はもちろん魔獣の討伐ですわよ」
試しに「お腹が痛いので今日は無理だ」っと言ってみたら、一瞬で何かの薬を口の中に放り込まれた。
「我が家に伝わる一瞬で腹下しを治す秘薬ですわ。顔色も問題なし。行きますわよ」
逃げるのは無理そうだ。
準備ぐらいはさせてもらった。まずは宿に戻り3日分の料金を払ってから、宿の主人にいくつか荷物を預かってもらい、アイテムボックスに段ボール箱3箱分のスペースを作った。(容量は全部で段ボール箱9箱分しか無い)
回復薬の用意や魔獣についての情報収集は執事のアンディーさんがやってくれていた。優秀な執事が付いてきてくれて本当によかった。
アイテムボックスはすでにばれてしまっているので、気配察知や瞬間移動スキルも教えることにした。
会って一日しかたっていないが、エアリーがどういう人間かはわかってきた。ものすごく強引で自分勝手ではあるが、秘密をばらしたり金や権力で人を思い通りにするタイプではないと思う。
何かあった時、一人だけで逃げるのも良心が痛むので。
道中はスキルレベルを上げるため歩きながら瞬間移動を繰り返して移動した。
森の端に到着したころには瞬間移動はLv6まで上げることができた。Lv6になると500メートルの移動が可能になり、僕以外にも二人連れて移動することができる。
半日でLv3からLv6まで上がった。ただ、二人を連れて長距離を移動するとしばらくの間瞬間移動スキルが使えなくなった。Lvが上がるとスキルの使用頻度が減ってLvが上がりづらくなりそうだ。
ちなみに、エアリーは投擲スキル持ちでスキルLvは30を超えていた。アンディーさん曰くエアリーは子供のころからしょっちゅう投げナイフだけで狩りに出掛けていたらしい。
今回の討伐依頼の魔獣はずばりゴブリンだ。Eランクの魔獣で初心者向けとして有名である。危険度は低いが繁殖力が強く増えすぎると作物や家畜に被害がでるため、常に討伐依頼が出ている。集団で行動することが多いらしいが、以前出会った小牙狼のような危険性は無いらしい。理由は魔獣の性質が大きく異なるためである。
魔獣には大きく分けて、群生型と個別型の2種類が存在する。群生型は小牙狼のように集団で一つの個体のようになり生命力を共有する魔獣で、群れと戦闘になるとどれだけ攻撃しても数が減りづらく危険度の高い種類の魔獣である。他に特徴として特定のフィールドやダンジョンでしか存在できないことや一匹一匹はそれほど強くならないことが挙げられる。
個別型は集団で行動しても生命力は共有せず、個体ごとに独立しているオーソドックスな魔獣である。
ゴブリンは個別型であるため群れで襲われても一匹づつ殺していけば数を減らすことができるためそれほど脅威とはいえない。
これから行く森には個別型の魔獣しかいないが、ゴブリン以外にもC~Eランクの魔獣が何種類もいるらしい。Cランクの魔獣は森の奥の方にいるらしい。
いよいよ森の中に入っていく、途中迷わないように目印を付けながら進んでいく。
僕はいつもの防刃ベストに包丁といった異世界らしくない装備である。エアリーはいつもと違い皮の胸当てを付け手には小さめの丸い盾を持っている。アンディーさんは武器は腰にロングソードを差しているが、服装はいつもの執事服だった。なんでも特注品の執事服で下手な鎧よりも防御力が高いらしい。
そうこうするうちに最初の獲物ゴブリン2匹に遭遇した。
だけど、見えたと思った瞬間には頭部にナイフが刺さり死んでいた。さすが投擲Lv30、僕のすることはなにも無いんじゃないだろうか。
「さすがはお嬢様。では、解体しましょう」
この執事さんも行動するときは体がぶれて見えるほどやたら素早く動く。今解体してる時だって、ものの十数秒で耳(討伐証明部位)と食用にできる肉、魔石を解体して取り出してしまった。
「実はわたくし解体スキルも持っているのですよ。トモミ様、こちらを仕舞ってください」
僕はアイテムボックス要因として二人についていくだけでいいので、ちょっと楽かもしれない。