お風呂
僕は今エアリーと名乗るお嬢様風の冒険者に無理やり屋敷まで連れて来られた。
「トモミはちょっと匂いますわね」
このお嬢さんは言葉をにごすとかやわらかい表現といったことができないらしい。
確かに、ここ数日風呂なんか入っていない。濡れタオルで体を拭くぐらいだから、自分でも匂いとかが気になり始めたところだった。
しかし、こうもはっきり言われると思っていなかったのでちょっとショックだ。
「服も洗ってなさそうですわね。着替えを用意させるから、お風呂に入るといいわ」
たぶん拒否しても強引に入れられるんだろうな。
というわけで、今はやたら広い浴室に案内されてます。
屋敷はテレビで紹介されるようなこれぞ金持ちの屋敷って感じの屋敷そのものであった。
そして、やっぱりこの世界にはメイドさんがいるらしい。スカートの長い正統派のメイド服だ。
そのメイドさんは僕を浴室まで案内した後お世話しますと言ってきたが、もちろん断った。
さて、一人で広い浴室に入ったわけだが、なんとここにはかなり大きめの姿見がある。
そこには僕の身体がしっかり映っている。
これは、ちょっとやばい……。
いや、今までも体を拭くときなど自分の体を見ることはあったが、鏡で全身を見ることは無かった。鏡は持っているが手鏡しかなかったし。
今は目の前にアイドル並みに整った容姿の美少女の裸、しかも全身が映っている。
サラサラとした金髪に真っ白な肌がよく映えている。身体はスタイルが良くほっそりして見えるが、出るところはちゃんと出ており、柔らかな曲線を描いている。
見ているだけでドキドキしてくる。
顔を含めた全身を見ることで、少女になった自分の身体を初めて意識してしまった。
やばい! 自分の身体にちょっと興奮してる。
今までは女の体になったからといってここまで意識することは無かった。旅の後は部屋にこもっていたせいかもしれない。知的好奇心に突き動かされて見たり触ったりもしたが、それほど興奮することもなかった。
トイレも最初は恥ずかしさと妙な興奮を覚えたものだが、すぐに慣れた。(初めての時はかなり大変で、男の体の時とはかなり勝手が違う。トイレットペーパー持って来てほんとによかった)
やはり鏡に映る美少女の顔と裸のセットが目に毒だったのかもしれない。
僕はしばらくの間、自分の裸をうっとりと眺め続けるやばい奴になってしまった。
その後他人の家でこんなことをしていることがすごく恥ずかしくなってきた。
長めのお風呂をあがると着替えが用意されていたのだが、この着替えどう見てもドレスにしか見えない。
僕は今まで女言葉も抵抗なく使ってきた。だから、女の子っぽい服装も抵抗なく着れると思う。たぶん僕は二次元に傾倒しすぎてその辺が鈍感になっているのだと思う。
しかし、さっきのような姿見でドレスを着た自分をみてしまったら、ちょっと興奮してしまうのではないだろうか。
あと、このドレスはどうやって着ればいいのだろうか?
結局メイドさんに手伝ってもらうことになった。これもちょっと恥ずかしい。
その後、応接室のようなところに案内されるとすぐにエアリーも入って来た。
「トモミ、お風呂はどうでした。ゆっくりつかれましたか?」
「ええ、とってもよかったです」
今日のお詫びに夕食をごちそうするので一泊泊まっていくといい、と言われた。僕を連れてきた理由は本当にそれだけで、他には何もないらしい。
それなら、せっかくなので僕の方からいろいろ質問してみよう。エアリーについては聞きたいことが結構ある。
しばらくすると夕食の時間になった。テーブルには僕とエアリーの二人だけである。メイドさんや執事は一緒には座らないらしい。
「この屋敷にはエアリーの他に家族とかはいないの?」
「ええ、両親と兄弟はここからずっと西の領地に住んでいますの。ここは我がホーガン家の別荘ですのよ」
別荘でこんな大きい屋敷っていったいどれだけ金持ちなんだ。あと、普通に呼び捨てにしちゃったけど大丈夫だよね。
「エアリーの家って領地を持った貴族なんだ。結構すごい身分なんじゃないの?」
「そうですわね。伯爵位をいただいている名門ではありますわね。でも、わたくしは冒険者として身を立てていくつもりですので貴族として扱う必要はございませんわ。この別荘も全然使って無いようでしたのでわたくしが使ってあげているだけですの」
だけど、執事やメイドの給金を冒険者の収入で賄えるものなのだろうか?
まあ、今後はあまり関わらないほうがいいだろう。周りをとことん巻き込みそうな人なので。
料理が運ばれてきたので、しばらくは料理に夢中になった。この世界の料理は美味しい場所に行けばちゃんと美味しいことがわかった。
「そういえば、さっきエアリーを囲んでいたガラの悪そうな男たちはいったいだれですか?」
「あら、そんな人いましたっけ?」
「いや、エアリーたちが返り討ちにしたじゃない! 一人は私を人質にしてたじゃない!」
「ああ、そういえばいましたわね。あまり記憶には残らない人たちでしたから」
「………」
この様子では恨みを買った理由も忘却の彼方だろうなあ。