光の国 part.02
激しい頭痛が俺を襲う。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今は叫ぶどころではない。
ブレイヴを救わなければならない。
しかし、その痛みに耐えることができず、横になり叫ぶことしかできない。
その時、頭の中を3つの文字が通りかかる。
『硬』『鉄』『操』
「ぁぁぁぁぁぁ・・・。」
痛みが治まってくる。
「硬・・・鉄・・・操。硬・・・鉄・・・操。」
俺は立ちあがりながら繰り返し呟く。
「硬い・・・鉄・・・操る。硬い鉄・・・操る。」
そして、完全に立ちあがり、最後に叫ぶ。
「硬い鉄を操る!俺の能力は『鉄を操る』だぁ!」
「なんだぁ!?」
男が驚くように叫ぶ。
俺は右手をブレイヴを覆う、氷の檻に向けて叫ぶ。
「伸鉄!」
それと同時に手のひらから鉄が延びる。
そして鉄が氷に触れた瞬間、氷にひびが入る。
「な、なにぃ!?俺の氷を割るだと!?」
その瞬間水が漏れだしていく。
それと同時に体の中に吸い込むように鉄を収納する
その水と一緒にブレイヴも流れ出てくる。
「ブレイヴ!ブレイヴ!起きろ!起きてくれ!
いつもいつも、危険なめにあっても何も考えずに突っ込み、なんだかんだで生きているのがおまえだろ!
死んでしまうなんてお前らしくねーよ!」
ブレイヴを揺さぶりながら叫んだ。
その時、男の声が聞こえた。
「フッ、死んだか。次はお前だな。操水!」
男は右手を近くの川の水を向けてから握る様な動作をした。
そして、その右手を俺たちの上に向けると、それに連動するように川の水が移動し、男は手を開いた。
すると、宙に浮いていた水が俺たちに向かって落下してきた。
「俺たち死ぬんだな。」
俺はそっと目を閉じた。
(・・・生きている?)
気がつくと水から抜け出している。
なぜだ?しかし、そんなこと考える間もなく上から水が落下してくる。
そしてその水が凍り、俺は凍り付けにされる。
近くにフェローが座っているのもわかった。
その瞬間、激しい頭痛が襲う。
あぁ、きっと体温が下がったせいだろう。
その時、頭の中に3つの文字が通りかかった。
『光』『熱』『操』
少しずつ傷みがひいていく。
(光の熱・・・操る?)
俺はその意味を想像する。
(光の熱を操るのか?なにがだ?もしかして俺、目覚めたのか?能力者に・・・覚醒したのか!?)
俺はその可能性に懸け、心の中でこう叫ぶ。
「発光!」
その瞬間、俺の身体の周りが暖かくなった。
そして、周りの氷が水になり、わずかに蒸発するのを感じた。
フェローの周りの氷も溶けきっていた。
「なるほど、俺は光を操れるのか!」
俺が叫ぶと、男が混乱したように言う。
「何なんだよさっきから!倒したと思えば今まで使わなかった能力を使うし!
殺してやる!もう、殺してやる!
来い!お前らの攻撃なんて、俺の能力で破壊してやる!伸氷!」
右手から氷が伸びてくる。
それに対抗すべく、俺は右手をその氷に向け、
「射光!」
すると、俺の右手から光速に白く発行する光をとばす。
その光と氷が当たった瞬間、氷の芯をつくように飛ぶ光が氷を溶かしていく。
そして、その光が氷を溶かしきり男の手に触れた瞬間、
「熱いっ!?」
と叫び、男は石の壁の後ろに落ちてしまった。
「ああ!」
俺は石の壁に触れ、
「発光!」
と叫ぶ。
石が溶け、そこに大きな穴が開いた。
まだ男は落下していないらしい。
発光を停止し、落ちてくる男を包み込むように落下を防いだ。
男は気絶しているようだ。
目が覚めたフェローがこちらに向かってやってくる。
「あ、捕まえたのか。はぁ・・・、はぁ・・・。疲れた・・・。」
「とりあえずこいつを警察に届けよう。」
警察に電話をし、男を連行すると、町中から歓声が聞こえた。
この国から恐怖の魔の手が消え去ったのだから当然のことだ。
町中の人たちがサインや握手を求めにやってくる。
すると、その村の村長らしき人がやって来た。
「どうだ?お主たち疲れただろう。この村で一泊して言ってはどうだ?勿論、無料だ。」
「では、お言葉にあまえて。」
フェローがそう言って、俺たちはこの村に泊めてもらう事になった。
しかも、料理まで作ってくれた。
何といっても水が旨い!
今まで水の良さを感じたことなどなかった俺が水の味に感動した!
そして10時。
村の宿を借りて柔らかい布団の中に潜ると、ぐっすりと夢の世界に入っていった。
「起きろ!もう朝だぞ!」
目を開けると視界にはフェローの顔が映っていた。
「あぁ、もう朝か。」
俺はベッドを降りながら呟いた。
「さっさと鉄の国に行こうぜ。ほら着換えろ!」
そう言うと、フェローは立ちあがった俺に着替えを投げた。
俺はそれを落とさぬよう、キャッチする。
「ありがとう。」
俺はさっさと服を着換えると、さっとバッグと剣を肩に掛ける。
部屋を出ると、宿主が出てきて言った。
「兵士殿、朝食も食べて行かれますか?」
「あぁ、すまないが急いでいるんだ。そうだ、サンドウィッチを4つ頼んでもいいかな?」
フェローが宿主に向かって言った。
「是非!少々お待ち下さい。」
そういうと、宿主はさっさと調理場に走って行った。
しばらく待っていると、バスケットにサンドウィッチを入れてやって来た。
「これでよろしいでしょうか?」
「ありがとう。えーと、600スピルだっけ?ブレイヴ、ちょっとお金貸してくれ。」
「いえいえ!お金なんて入りませんよ!」
そう言うと、宿主はバスケットをこっちに渡してきた。
俺はありがたくその中のサンドウィッチをいただくと、浅く礼をした。
「では、行ってきますね。」
フェローがそう言うと、俺たちは宿を出た。
宿は清水村の入り口広場に近い位置にある。
俺たちは入り口広場に出ると、そこにいた人たちが林檎やお金をくれた。
そんな村人たちを通り抜けると、門の前に以前の門番兵士が立っていた。
兵士たちは俺たちにこう言う。
「次は鉄の国に行くと宿主から聞きました。」
「は、はい。」
俺は少々驚いたように答えた。
次の目的地は宿主にしか言っていないのだがな。
さすが門番、情報収集能力高いのだな。
「それで、よければその国の情報を聞いていきませんか?」
兵士がそう言うと、フェローは
「お願いします。」
と、答えた。
「わかりました。それで鉄の国のことですが、その国は光連合軍とは思えぬほど苦しい生活をしているものが多いのです。
名前の通り鉄の国は鉄がよく取れることで有名です。
そしてある日、一気に建設することになったのですが、建てた骨組みが全て一晩にして崩れてしまったのです。
地震も起きているわけでもないのに。まるで、お互いの重さに耐えきれなかったように。」
「なに!?」
「きっと一気に建設したことに神が怒ったのだろう。
そう思った国民たちは建設数を半分に減らしました。
すると、今回は崩れなかったのです。
これはいい!成功だ!そう思い、どんどんと国民たちは建設を続けていました。
しかし、事件が起きたのです。」
「え?なにが起きたのです?」
フェローが問いかける。
「建設した建物はついに完成し、住民がその家に住み始めました。
しかし建設終了数日後、その国の建物のほぼ全てが崩れ、住民を下敷きにしてしまったのです。」
「な、なに!?」
俺とフェローが同時に言った。
「この土地は呪われている!そう思った国民たちは建設中の建物を放置し、国の南の方に逃げ込みました。
幸い、そこの建物が崩れることはなかったものの、呪われたあの土地は空き地と化してしまいました。」
「つまり住民は今、南の方にしかいないのですね?」
フェローが聞いた。
「はい、そうです。」
「なるほど、ありがとうございます。では行ってきますね。」
フェローがそう言うと、兵士がこう言った。
「鉄の国の北は今も呪われた地と化しています。行く際は気を付けてくださいね。」
その声を聞いてから俺たちは村を出た。
「ブレイヴ、多分その呪いのもとは誰かの能力だと思うんだ。
恐らく、ウニグの言っていた最強の4人の闇の国の兵の1人・・・。」
「俺もそう思うよ。まさか、光連合国の中でこんなことがあったとはな・・・。」
「鉄の国はここから西南にある。多少急いだ方がよさそうだ。」
「そうだね。」
「しかし、今回の敵は余裕だろう。前回の時は始めは能力がなかったが、今の俺たちにはそれがある。
それに、鉄は俺が操ることができる物質だ。」
その時、フェローのバッグの中から携帯電話の音が鳴った。
「あ、王様からメールだ。えーと・・・光の国の最強の兵、ビトレイの病気が治った。
今すぐそっちに向かわせる。多少時間はかかるが先に言っておいてくれ・・・と、書いてある。」
「なるほど。まぁ、さっさと鉄の国に向かおう。」
そういうと、俺たちは鉄の国に向かった。
しばらく歩いていると、長い川が見えた。
「お、あの川長いなー。」
俺は歩きながら呟いた。
しかし、少しずつ嫌な予感がしてくる。
川の向こう側が見えないのだ。
ついに川のそばまで着いた。
「ちょ、この川向こう側が見えないぞ!?」
俺は焦る様にフェローに言った。
「・・・」
フェローは何故か黙っている。
「な、なに黙っているんだよフェロー!」
すると、
「・・・プッ。」
フェローが何故か笑った。
「な!?なに笑っているんだよ。」
友人の俺でも少し頭に来た。
この場をどうするか真剣に考えろよ!
「いやーごめんごめん、ブレイヴが馬鹿すぎて笑っちゃったよ。」
「え?」
「もう俺の能力忘れたの?俺の能力は・・・」
「あ!」
フェローは右手を川に向けると、
「鉄を操るだ!植鉄!」
するとその瞬間、川の中から鉄が生えてきて橋が完成したのだ。
俺はその光景をただただ見つめていた。
「す、すげー・・・。」
「ほら!さっさと行くぞ!」
俺たちは再び歩き出し、鉄の橋を渡った。
川を渡り終えると、そこには国境の看板があった。
「なるほど、この川が水の国と鉄の国の境になっているのか。」
俺は周りを見回した。すると、遠くに建物がたくさんあるのが分かった。
「あっちに町的な場所が見える!急ぐぞブレイヴ!」
俺たちは町に向かって走りだした。
すると、足が何かに引っ掛かり、前に倒れそうになる。
足が引っ掛かった場所を見ると、そこには鉄が落ちていた。
周りを見回すと、あちらこちらに鉄のクズが落ちている
「ここって自然の土地じゃないのか?沢山、鉄のクズが落ちているぞ?」
「うーん、自然の土地だと思うんだがな・・・。って、ちょっと待って!」
フェローはそう言うと、地面の草を抜く。
「作鉄!」
フェローがそう言い、右手から20センチメートル程度の鉄を出す。
そして屈みこみ、10cmくらい穴を掘ると、「カツン」と言う音がした。
「やっぱり!」
フェローは穴を見て叫んだ。
俺もその穴をフェローの横から覗く。
すると・・・そこには・・・。
「鉄でいっぱいではないか!?」
なんと地中には鉄で埋め尽くされていたのだ。
もちろん、土や石なども埋まっている。
しかし、それよりも鉄の塊が掘りきれぬほどあったのだ。
「さすが鉄の国。水の国の水の量に負けぬほどの鉄が埋まっているな。」
フェローが俺の隣で呟いた。
フェローの言葉に俺は言った。
「いや、この調子じゃ地中の98%が鉄だよ。」
「まぁ、そんなことどうでもいい。さっさと行こう。」
な!?こんだけすごいことがあるのに放置かよ。
「お前って、よく物事起こしておいて、すぐ話題捨てるよな。」
「だってどうでもいいだろ。」
フェローは立ち上がりながら言った。
「いや、どうでもよくないだろ。ちょっと、ヤバいレベルだろ。」
「でも、俺達には関係ない。そうだろ?」
フェローは町の方向を確認した。
「まぁ、そうだが・・・。まぁいいか。さっさと行こう。」
「それさっき、俺が言ったがな。」
俺たちは再び町の方向に向かった。
進んでいくと、徐々に町の姿が見えてきた。
そこには建設途中らしき鉄の骨組み状態の家があった。
しばらく歩くと、形だけの鉄製でできた入口の門があった。
ただあるだけで他のところからも入れるため、門の役目を全く果たしていない。
その門には『白銀町』とかいてある。
他のところも開いているが、俺たちはなんとなく門から入ることにした。
この日は天気がいいが、風が吹いておらずものすごく暑い。
もちろん、人は皆南に逃げているため人は一人もいない。
本当に放置してきたようで、機械があちらこちらに落ちていたり、鉄柱がぶら下がっていたりする。
フェローがその光景を見て言う。
「なんか危ない場所だな・・・。片づけぐらいして行けよ。」
「まぁまぁ、そう言ってやるなよ。皆、恐怖でいっぱいだったのだろう。」
「うむ・・・。それより、クローバーの葉を探さないとな・・・。」
俺たちは町のあちらこちらを見ながら奥へ進んでいった。
それにしても腹が減って来たな・・・。
すると、フェローが俺の心を読んだかのようなタイミングで行った。
「ブレイヴ。こんな場所で食べるのも何だが、そろそろ飯食うか。」
「お、食べよう!」
そういうと、俺は自分のバッグに手を伸ばした。
そして、サンドウィッチを取り出す。
ん?あれ?これって・・・。
「ちょっ、マジかよ。これファミリーマートで売っている奴じゃねーか!?」
俺は半分笑いながら言った。
4つのうち2つフェローに渡すと、
「まぁ、良いじゃん。そこそこおいしいし。」
「まぁね。よし、食べるか。」
俺はサンドウィッチの包みを開いた。
「おっと、包みを落とした。」
俺はそう言うと、包みを拾おうと前屈のような体制をした。
その時、俺は50メートル先に緑色の何かが落ちているのに気がついた。
「お、ブレイヴえらいな。こういうところはしっかりしているな。」
「フェロー!もしかしてあれじゃないか?」
「えっ?」
フェローはそれを見る。
「・・・。そうかもしれないな。行ってみよう。」
俺たちはその緑の何かのもとへ走った。
そして、20メートルの位置で俺は確信する。
「あれはクローバーの葉だ!」
俺は緑の葉のところまでたどり着く。
「見つけたぞ!それにしても、闇の兵はどこにいるんだ?帰ってしまったか。まあいいか。」
そう言うと俺はしゃがみこみ、奇跡のクローバーの葉に手を伸ばす。
その時、
「増重、レベル5!」
という何者かの声が聞こえたような気がしたが、俺は気にすることなくクローバーの葉に手を伸ばす。
その瞬間、俺の後ろでフェローが叫んだ。
「ブレイヴ!後ろに避けるんだ!」
「え?」
俺はクローバーの葉を掴みながら後ろを向いた。
「いいから早く!」
俺はフェローの方を見る。
フェローは俺の上を見上げている。
俺もその視線を追って、上を見上げる。
するとそこには・・・。
「はっ!?」
鉄柱が強そうな縄に括られぶら下がっている。
いや、それだけなら何ともない。
その縄は鉄柱の重さに耐えられず、縄が今にもちぎれそうな状態になっている。
「ブレイヴ!」
その瞬間、縄がちぎれ、鉄柱が落下してくる。
このまま落ちれば俺に当たる。
その時、再び何者かの声が聞こえた。
「増重、レベル5!」
俺はそれに気にすることなく避けようとした。
しかし、俺は動けなかった。動こうとしているのに。
何か上から強い力に押えつけられている様に。
俺はその重さに耐えきれず、うつ伏せになってしまった。
「お・・・も・・・・・・い・・・。」
声に鳴らない声で俺は言った。
「何をしているんだ、ブレイヴ!早く、早く!」
俺はうつ伏せのまま、背中のすぐ上まで鉄の物体が迫ってきているのを感じていた。
・・・もう、おしまいか・・・・・・。
・・・まぁ、当たり前だな。
注意せずに行動したのがいけなかったんだ・・・。
その時、後ろからフェローの声が聞こえた。
「生鉄!」
それとほぼ同時に背中の後ろから鉄と鉄がぶつかる音がした。
なんだ?なにが起きたんだ?
それを確認するために起きあがろうとするが、体が重くて立ち上がれない。
しかし、俺は生きている。
きっと、フェローが助けてくれたのだろう。
この苦痛から一分ほどが過ぎ、体が軽くなった。
きっと、この謎の能力の縛りとして時間制限があるのだろう。
「大丈夫か!?ブレイヴ!」
フェローがこちらに走ってくる足音が聞こえた。
直ちにこの状況から逃げようと思い立ち上がろうとする。
「痛っ!」
なんだ?何か鉄のようなものが頭に当たったぞ?
その衝撃に俺は、再び前方にうつ伏せになる。
俺は前の方に抜けてから再度立ち上がる。
そして、自分が倒れていたところに視線を移す。
そこには角を下にしている鉄柱とそれに刺さっている地面か生えている鉄があった。
俺はフェローの方に視線を移して言った。
「フェローが助けてくれたのか?ありがとう、フェロー。」
「友人として当然のことだよ。・・・で、どうして横たわったりしたんだよ?」
フェローは俺に向かって問いかけてきた。
やっぱり、俺がすごい力に抑えられていた事に気付いていなかったか。
ならば早く知らせないとな。
「実は、逃げようと思ったんだが体がすごく重くなったように動けなくなってしまったんだ。」
「何だと!?それは油断できないな・・・。」
するとその時、落下してきた鉄柱がぶら下げられていた家の骨組みの上から何者かの声が聞こえた。
「その通りだ!オレの能力にゆだんしちゃあいけねえぜ!減重、レベル3!」
男はそう言うと、骨組みから飛び降りた。
何を考えているんだ!?
と思ったが、能力のせいか男はゆっくりと地上に降りてきた。
そして地上に足を付けると、
「平重!」
と叫び、右手を俺たちの左に、手を俺たちの右に向けた。
「反重、レベル3!」
その瞬間、男の手を向けていた先にあった骨組みの柱になっている鉄柱がゆっくりと天に向かって宙に浮き始めた。
始めは上にある鉄柱に押さえられていたが、やがてその鉄柱はバランスを崩し落下した。
そして、宙に浮く二つの鉄柱が家2階ぐらいの高さまで来た時、
「減重、レベル4!」
と、叫び男はジャンプした。
そのジャンプ力は物凄く、俺たちの右に浮いている鉄柱の位置まで来た。
そして、そこでジャンプの限界がきて、上昇が止まる。
その時、男は
「俺の名はグレベル!物体の重力を操るのさ!」
と言うと、そこにある鉄柱を握った。
そして、
「減重、レベル3!」
と言い、こちらに投げつけた。
ものすごいスピードだ。
そして、投げる時にグレベルはその鉄柱を足場に、地面とほぼ並行に俺たちの左側に跳んだ。
グレベルは再びその場にある鉄柱を握ると、
「減重、レベル3!」
と、叫んでからこちらに投げつけてきた。
そして、グレベルは投げる時に再び鉄柱を足場に次は上へジャンプし、道の真ん中に移動した。
「おい!避けろ、ブレイヴ!」
「え・・・、あ!」
フェローに声をかけられそちらを見ると俺の頭めがけて鉄柱がとんできていた。
俺としたことが、奴の動きばかり見ていてしまった・・・。
・・・と、そんなこと考えている場合じゃない!
しかし、判断力が間に合わなかった。
その時、腹のあたりに何かが辺り、後ろに倒れる。
地面に頭をぶつけると、頭の上に鉄が落下した音が聞こえた。
さすが、フェロー。判断力が高いな・・・。
つまり、フェローは俺をあえて後ろに倒し、頭への鉄柱の激突を回避させたのだ。
しかし、そんなことを考える間もなく再び俺に向かって鉄柱がとんできた。
その時、フェローの声が聞こえた。
「操鉄!」
すると、俺の頭の上の辺りの地面に刺さっている鉄柱が浮き始めた。
そして、こちらにとんでくる鉄柱に向かって右から激突し、
こちらにとんできていた鉄柱は軌道を変え、俺の左側にとんでいった。
フェローが操っていた鉄は道の途中に放り捨てられた。
「ほっ・・・。」
俺はため息をして、立ち上がった。
「いつも、いつもすまないな。俺が危険な目に会ったばかりに・・・。」
「いや、いいよ。それより、あいつ片付けないとな。」
軌道を変えた鉄柱はグレベルに向かってとんでいた。
グレベルは鉄柱に手を向けると、
「増重、レベル10!」
と叫んだ。
すると、鉄柱は瞬時に地面に押さえつけられた。
そして、やがて少しずつひびが入って行く。
そこでグラベルは
「平重!」
と叫び、鉄柱への重力を正常に戻した。
「フフッ・・・、思ったよりやるな・・・。しかし、もうおしまいだ!」
グラベルは右手を俺、左手をフェローに向けてから、
「増重、レベル5!」
と、叫んだ。
その時、俺の体にとてつもない重力が襲う。
フェローにも同じことが起きているらしく、体のバランスを崩している。
やがて、俺はその重さに耐えられず体を前に倒す。
きっとフェローも倒れてしまっただろう。
俺は前を見るとグレベルがこちらに歩いてくるのが見えた。
そして、道に落ちていえる鉄柱に手を触れ
「無重!」
と叫び、鉄柱を持ちあげた。
そして俺の前まで来ると、
「死ねぇ!」
といい、鉄柱を振りおろした。
こうして俺の旅は終わった・・・と思ったその時。
「植鉄!」
と、フェローの声が聞こえた。
その時、鉄柱を握ったままグラベルが後ろに倒れた。
それと同時に俺たちに係る重力が正常に戻る。
立ち上がり、グラベルを見ると、握っている鉄柱から針状に鉄が伸びて胴体に刺さっていた。
そして、服には赤い血痕が付いていた。
「助かった・・・。ありがとう、フェロー。」
フェローも立ち上がりこちらを向く。
「別に良いよ。・・・にしても、自分の手で人を殺すのは久しぶりだな。」
「確かにそうだな。」
その時、フェローのバッグの中から携帯電話の音が聞こえた。
フェローはバッグの中から携帯電話を取り出す。
「あ、また王様からだ。もしもし。」
「あ、フェローか?今、鉄の国にいるのか?」
「はい。グラベルと言う男を倒したところです。それで?」
「光の国、最強兵士のビトレイがそろそろそっちに着くはずだ。もう少しそこで待っていてくれ。」
「わかった・・・。では、また。」
フェローは電源を切った。
そして、3分くらい待っていると空から光の国の鎧を身に付けた男が飛んできた。
「我が名はビトレイ。あなたたちの度の手助けをするため、ここに来た。」
ビトレイは俺たちから少し離れた上空まで来ると、ゆっくりと俺とフェローの前に降下してくる。
「あなたが光の国最強の兵、ビトレイさんですか。初めまして、俺はフェローといいます。」
「俺はブレイヴです。よろしく。」
俺たちがそう言うと、ビトレイは質問をしてきた。
「・・・。ここの葉はどこだ?」
「ああ、それでしたらもう取り返しています。」
フェローは俺に葉を渡すよう手を伸ばしてきた。
俺はズボンの横ポケットに入れておいた葉を取り出し、フェローに渡した。
「ビトレイさん。これです。」
フェローはビトレイに奇跡のクローバーの葉を渡した。
「なるほど・・・。これが奇跡のクローバーの葉か・・・。」
「はい。」
ビトレイの言葉に俺が返事をする。
「見せてくれてありがとうな。では・・・。」
「なんですか?」
フェローが聞くと・・・。
「死んでもらおう!」
「!?」
俺とフェローは同時に驚いた。
なぜだ?同じ光の国の兵のはずなのに・・・。
考えられる可能性とすればただ一つ。
ビトレイは闇の国のスパイ・・・。
「操作!」
ビトレイがそう叫んだ瞬間、ビトレイの後ろに落ちている4本の鉄柱が2メートル程宙に浮く。
そして、その鉄柱が2本ずつ俺とフェローに飛んでくる。
その時、その攻撃を避けるべく俺の右にいるフェローが叫ぶ。
「伸鉄!」
すると4つの鉄柱から針状に鉄が伸び、地面に突き刺さる。
しかし鉄柱はその勢いをとめることはなく、徐々にこちらに近づいてくる。
己の身は己で守らなければ!
俺は
「光剣!」
と叫ぶ。
その時、俺の右手に光の剣が生成される。
正しくは剣の形をした光だ。
俺は剣を左側に構える。
鉄柱までの距離は4メートル。
3メートル。
2メートル。
1メートル・・・。
そこで俺は光の剣を横に振り、右の鉄柱を切る。
その勢いで左の鉄柱も切る。
鉄柱は光の熱で切断され、俺の左右を通り、後ろに流れて行く。
一方、フェローは地面から鉄の針を生やし、鉄柱に突き刺して勢いを抑えた。
「どうやら、闇の国のスパイのようだな・・・。」
フェローは俺に向かって言った。
「そうだな。この前の清水村の時にしても、信頼できる奴がいねぇな。」
「え?それ、本気で言ってるのか?」
「なにが?」
「俺の事は信頼できねぇ、ってか?」
「ははっ、そういうことか。もちろん、フェローの事は信頼しているよ!」
フェローにそう言うと、さっき切った鉄柱後ろから飛んでくるのに気付く。
俺は後ろを向いて
「光剣!」
と叫び、次は左手に光の剣を生成する。
「はあぁ!」
近づいてきた切断された鉄柱を、両手に持っている光の剣で更に切断する。
その切断された鉄柱は攻撃をやめ、地面に落下する。
「はぁ、危ねぇ・・・」
俺は再びビトレイの方を向く。
すると、次は4本ずつ鉄柱が俺たちに向かって飛んでくる。
俺と鉄柱の距離はもう2メートル。
俺は咄嗟に剣を振る。
両手に持っている光の剣を外側から内側へ鉄柱を切断・・・。
「!?」
切断できなかった。
剣を振った瞬間、鉄柱が上へ避けたのだ。
鉄柱は再び俺に向かって飛んでくる。
そして、ついに俺の顔の目の前まで到達した。
その時、右からフェローの声が聞こえた。
「伸鉄!」
それと同時に、右側の家の骨組みの鉄柱から針が伸び、4本の鉄柱の中心を捕えた。
「あ、ありがとう。助かったよ。」
フェローは今度も地面から針状の鉄を生やし、鉄柱を止めたらしい。
その上、俺も助けてくれた。
「今度も助けられてしまったな。すまない。」
「良いよ、別に。それよりあいつをどうにかしないと。」
俺は再びビトレイを見る。
「あいつの能力は恐らく物体を操る。・・・つまり『テレキネシス』だと予想できる。」
「ああ、俺もそう思う。」
「つまり奴は何でも操れる。しかしだ。操れるのはあくまで物質。光は操れない。」
「なるほど。」
「そこでこの戦いで鍵となるのはブレイヴ。お前だ。」
「わかった。」
「だから、奴の攻撃は俺が食い止める。その間に奴に攻撃を当てろ。」
フェローと作戦を話していると、前方からビトレイが叫ぶ。
「なに内緒話しているんだぁ!どんどんいくぜぇ!操作!」
そう言うと、ビトレイの後ろに落ちていた鉄柱全て・・・軽く50本を超えた鉄柱が宙に浮いた。
俺とフェローは顔を合わせると、再び前を見る。
「いくぞ、ブレイヴ!作戦開始だ!」
「おう、フェロー!」