光の国 part.01
4649年~光の国・城内~
「はぁ・・・。寝るか。」
もう、夜だ。それそろ寝ないとな。
ワシは王。ここ、光の国の王だ。
ワシは自分の寝室へ向かった。
兵士はもうほとんど自分の部屋で休んでいる。
何故かって?ワシは心が広いからだ!
え?その内に狙撃されないかって?
大丈夫!この国の城の周りには、侵入者を感知し、サイレンを鳴らす機能が付いておる。
つまり、夜も皆安心して過ごせるというわけだ。
そして、この城最大の交差通路を通った。
その時、交差通路の右側を誰かが走っているのが見えた。
そして、何者かは左角を曲がった。
「はぁ、またあいつか。あれだけ城内を走るなといったのに・・・。明日は説教だな。」
あいつとは、ブレイヴのことだ。マナーというものを知らない、無礼な奴だ。
相手が心の広いワシだったからいいものの、他の国だったら死刑だぞ。
その後、しばらく歩くと寝室に着いた。
寝室につくのに2分程度たった気がするが、もう慣れたことだ。
ワシは寝室に入り、ベッドの枕元の電気のみ付け、本を読みだす。
今読んでるところは、主人公と悪の軍隊に寝返った兄が戦う、とても熱い場面だ。
どんな結末かワクワクしながら読んでると、だんだん眠くなってきた。
時計を見ると、10時20分だった。眠くなって当たり前だ。
そのタイミングできりの良い所まで話が進み、ワシは読むのをやめ、眠りに着いた。
翌日。
ワシは城のサイレンで目が覚めた。
なんだ、なんだ?
このサイレン・・・、侵入者警告のサイレンではない。
えーと・・・、これは・・・・・あっ!
これは、闇の国戦争予告のサイレンだ!
ついに来たか、闇の国。
その時、遠くから兵士の声が聞こえた。
「王様!大変です!」
「わかっている。闇の国から戦争予告が届いたのだろ?」
「それもですが・・・。実は、この国の防衛兵器、『奇跡のクロ―バー』が無くなっていました。」
「なに!?」
奇跡のクローバーとは、歴代の光の国の超人戦士4人の力をクローバーに宿らせたものだ。
それを持った者は、攻撃力、防御力、速度、集中力のすべてが神のレベルになる。
ちなみに超人とは、身体能力上昇の能力者のことだ。
しかし、そのクローバーが盗まれてしまった。
そんなことはあり得ない!侵入者が入ったならば、サイレンが鳴るはずだ!
そうなると、裏切り者がいる?誰だ・・・。
そういえば昨日の夜、ブレイヴが行った方向・・・。
奇跡のクローバーの保管部屋だ!
こうなると、犯人はブレイヴしか考えられない!
「おい!今すぐブレイヴをここに連れてこい!」
どれだけ心が広いワシだろうと、国宝を盗まれては許せるはずがない!
「王様!連れてきました!」
「もぉ~・・・。いきなり何だよ。」
兵士に連れてこられたブレイヴと共に、フェローも一緒に来た。
ブレイヴとフェローは、昔からの友人らしい。
ワシはブレイヴに向かって聞く。
「おい、ブレイヴ!お前、昨日の夜何していた!」
「えー。フェローとチェスしていた。それで?」
「とぼけるな!正直にいえば見逃してやるぞ!」
まぁ、見逃すというのは嘘だけど。
「・・・、ごめんなさい。実は、フェローとトランプしてました。」
「な!?」
なんだ、こいつ。意地でも本当のことは言わないのか。
っていうか何だ!?何故、トランプをチェスと嘘をついた?
まぁ、そもそも、チェスもトランプしてないだろうけど。
「嘘をついくな!昨日の夜見たんだ!お前が奇跡のクローバーの保管倉庫に向かっているのを!」
と言ったが、本当にあの人影がブレイヴだという証明は無いが。
「嘘ではありません!」
「な!?フェローまで嘘を言うか?」
「一部は嘘ですが、一部は嘘ではありません!」
「な、何だ?」
一部は嘘で、一部は真実?どういうことだ?
「ええ。確かにこいつは嘘をついています。でも、確かに昨日の夜、こいつと部屋で遊んでいました!
そして、王様が見たのはこいつではありません!」
「何!?」
「証拠として、防犯カメラの映像があります。それを見てください。」
そう言い、ブレイヴに映像データを取りに行かせた。
3分程度待っていると、やっとブレイヴが戻って来た。
「よし、ありがとう。」
そう言うと、ポケットに入れている小型モニターにUSBをさす。
「王様、これです。」
すると、モニターに映像が映る。
そこには、城最大の交差通路を走る男が映っていた。
そして、モニターの右下に移っている時間は・・・、9時40分!
大体、40分程度本を読んでいたから、寝た時間から計算すると、
ワシが交差通路を通ったのもこの時間だ。
「王様、どうです?明らかにブレイヴではありません。」
ああ、よく見るとこの男、長髪だ。
それに対してブレイヴは短髪。
「で、でも。かつらの可能性があるのでは・・・。」
「じゃあ、これではどうですか?」
「?」
フェローは、その男の手の甲をアップで画面に映した。
すると、そこには・・・。
「は!?闇の国の入れ墨だと!」
「その通りです。つまり、この男は闇の国の兵と考えて間違いは無いでしょう。」
なんということだ・・・。闇の国の兵だと・・・。
だが、どうやって侵入した?
その時・・・。
「あっはっはっはっはっ!!」
外から何者かの声が聞こえた。
ワシたちは急いで外に出てみた。
すると、そこには何者かが立っていた。
フェローが叫ぶ。
「何者だ!?」
「ふっ・・・。オレは闇の国の兵、ウニグだ。
奇跡のクローバーを盗むため、ここに来た。」
そう言い、ウニグはワシたちに手の甲を見せた。
そこには闇の国の入れ墨が入れてあり、奇跡のクローバーがしっかりと握られていた。
「それをそっちに渡せ!」
ワシの隣でフェローがウニグに叫ぶ。
「渡すんだ!」
続けてブレイヴも叫ぶ。
「フッ・・・。盗人がせっかく盗んだものを素直に返すと思うか?」
「ならば、力ずくでも!」
すると、フェローはウニグに向かって突進する。
そして、ウニグの手前まで来ると、腰にある剣を抜く。
「うぉぉぉー!」
そして、剣を上に振りあげる。
その瞬間、ウニグはクローバーを服の中に入れてから右手を右、左手は前に手を伸ばしこう叫ぶ。
「交換!」
それと同時に、フェローが剣を振り下げた。
しかし、そこにはウニグはおらず、何もない空間があった。
こっちからみている限りでは、フェローはウニグの手前からウニグの50メートルほど右へ瞬間移動していた。
フェローの能力か?と、その時は思ったが、フェローは能力を持っていない。
持っていたとしても、この瞬間で使うのはいくらなんでもおかしい。
つまり、これはウニグの能力ということになる。
フェローは再び、ウニグに突進する。
ウニグはフェローの方を向き、右手を前、左手は後ろに手を伸ばした。
そして、ウニグがこう叫ぶ。
「接続!」
そんなことには気にせずフェローはウニグに突進し、残り1メートルの辺りまで来た。
そして、剣を振り上げる行動に入る。
その瞬間、ウニグの前からからフェローは消え、ウニグの1メートル後ろから出現した。
ウニグの手前に入った瞬間、ウニグの後ろに出たということだ。
続けて、ウニグは混乱状態になっているフェローの背中に服の中から取り出した小型のナイフを突きつける。
「名前は、フェローといったかな。動くなよ、フェロー」
今の自分の状態を察したのか、フェローは全く動かなくなった。
すると、ブレイヴが右手に剣の持ち、ワシの隣で
「フェローを返すんだ!」
と叫ぶ。
すると、ウニグは左手でフェローの髪をつかんでから服の中にナイフを仕舞い、かわりにクローバーを取り出す。
左手にはフェローの髪、右手には奇跡のクローバーを持った状態でウニグはワシたちにこう言う。
「フェローかクローバー、どちらかを返そう。ただし、もう方はオレがいただく。」
フェローかクローバー、どちらかって?
そんなの決まっているではないか!
同じ思考をしたであろうブレイヴが、
「フェローを返してもうぞ!」
と答えた。
するとウニグは、
「よろしい、ではフェローを返そう。」
そう呟きフェローを乱暴にこちら側に離す。
「馬鹿っ。なんで、クローバーを選ばなかった!クローバーを取り返せる最大のチャンスだったのに。」
そう言うフェローにブレイヴは、
「もしクローバーを選べばフェローはその場で殺されただろ?けど、クローバーならまだ奪い返しようがある。」
と言い返す。
フェローは目に涙を浮かべて、
「馬鹿野郎!」
と叫んだ。
そして、ウニグの方を向く。
ウニグは呟く。
「さてと、このクローバーはどうしようか。そうだ・・・。」
そう言ながら、ウニグはクローバーの葉をちぎる。
ワシがウニグに叫ぶ。
「やめるんだ!それはこの国の宝だ!」
するとその発言に対して、ウニグは。
「このクローバーオレがいただいた以上、所有権は光の国ではなくこのオレにある。」
そう言ながら、ちぎりきったクローバーの4枚の葉を空に投げる。
そしてウニグは、クローバーと別の場所に手を伸ばし、
「交換!」
と叫ぶ行動を4回繰り返す。
手を伸ばしている方向が違う為、4枚とも別々の場所に移動したのだろう。
フェローはとっくに涙を消し、ウニグに
「どこにやった!」
と叫ぶ。
すると、ウニグは服の中から地図を取り出す。
「ここに記してある場所にクローバーはある。しかし、そこにはオレを含む最強の4人の闇の国の兵が待っているだろう。彼らと戦う勇気があるならそこに来い。さらばだ!」
ウニグは地図を地面に放り投げてから、右手は自分の胸元にあて、左手は闇の国の方に手を伸ばし、
「交換!」
と叫ぶ。
その瞬間、その場にいたウニグの姿が消えた。
~光の国・城内~
ワシたちは今、城の会議室にいた。
複数のライトで照らされている室内で、
沈黙の中、ワシが口を開く。
「さてと、奇跡のクローバーの件だが・・・。」
そう呟いたワシに続いて、フェローが言う。
「やっぱり、この地図の場所に行くしかないだろ!」
と、今にも城の外に走り出て行ってしまいそうほど焦っているフェローにブレイヴが言う。
「とりあえず、行く順番を決めないと。なにごとも計画的に。」
フェローは「そうだな。」といい、会議を続ける。
「えっと、葉の3つは光連合国の中に、1つは闇の国にある。」
フェローの言葉に続けて、ワシが言う
「光連合国にある3つの葉はここから東に50キロメートル、北に150キロメートル、南に200キロメートルの3カ所にある。
50キロメートルの位置にある葉をA、100キロメートルの位置にある葉をB、200キロメートルの位置にある葉をCとして考えると、
まず一番近いAから行くのがいいと思うが、そうなるとBからCに行く距離が遠くなってしまう。
そうなると、北から反時計回りにB、A、Cの順で行くべきだろう。」
それに納得したフェローとブレイヴが「うん」とうなずく。
「では、お前らに兵器を渡そう。ワシについてこい。」
ワシは2人を連れて兵器倉庫の方に向かった。
そこには複数の薬品、機械が置かれていた。
すべての兵器はここに仕舞われている。
ただし国宝の兵器、奇跡のクローバーは別の場所に緊密保管されている。
まぁ、結果的に盗まれてしまったわけだが。
兵器倉庫まではそう遠くなく、1分程度歩けば着いた。
倉庫のぺスワードを入力し倉庫に入ると、いくつもの棚に数え切れないほどの兵器薬品、兵器機械が並べられていた。
知らないうちにまた兵器が増えてるな。
そう思いながら部屋の奥の方へ歩いていく。
兵器に興味津々になって立ち止まっているブレイヴをフェローが引っ張る。
そして、目的の兵器薬品の入っている箱を見つけると、そこには2つの飴玉が入っていた。
その飴玉を2つとも取り出すと、フェローとブレイヴに渡す。
「敵は闇の国だ。能力者の敵がたくさんいる。その能力者に未能力者のお前たちが挑んでも勝ち目はない。
しかし、この飴玉、『覚醒飴』を食べると能力者に目覚めることができる。どうする、食べるか?食べないか?」
すると、2人は一瞬迷ったようだが、ブレイヴは
「食べる!そして能力者に目覚め、闇の国を仕留めてやる!」
と言う。
「俺も食べるさ!」
と、フェローも大きくうなずきながら言う。
「では、食べるがよい、兵士たちよ!そして、能力者に目覚めよ!」
ワシがそう言うと同時にフェローとブレイヴは一緒に覚醒飴を口に入れる。
すると、2人は目を大きく見開き、大きく叫んだ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「ここは・・・?」
目を覚ますと、目の前には白い天井が映っていた。
「お、ブレイヴ、目が覚めたか。」
ベッドの横を見るとフェローが立っていた。
「覚醒飴を食べるとお前気絶しちゃったんだよ。」
「フェローは気絶していなかったのか?」
俺はベッドから降りながら言う。部屋の様子からしてここは城の病室らしい。
「うん。まぁ、普通は気絶しないらしい。で、なんでブレイヴが気絶したか王に聞くと、それだけ強い能力者に覚醒したらしい。」
「逆に言うと、フェローの能力はあまり強くないってことだね。」
いたずらっぽくフェローに言うと、フェローは
「うるさい!」
と、笑いながら俺に向かって言った。
「で、いったいどんな能力者になったんだ?」
「さぁ、それはまだ分からない。数分後に能力が使えるようになるらしいから。それに、その能力も人によって異なるらしい。」
「なるほど。」
「さ、具合はいいか?よければさっさと出発したいところなんだが。」
「あぁ、大丈夫だよ。じゃあ、時間もないだろうしさっさと行くか。」
「そうそう、その前に王の間に行かないと。王が呼んでいたんだ。」
そう言うと俺たちは王が待っている王の間へ向かった。
王の間は正方形ぐらいのかたちで、つの廊下と繋がっており、玄関に1つ部屋を挟んだところにある。
そのため、外に行くついでに通るには都合がいい。
王の間に着くと王が玉座に座っている。
俺たちがきたのに気がつくと、王は玉座から立ち、こっちを向いた。
「お、2人とも来たか。」
「で、なんで王の間に呼んだんだ?」
フェローが王に問いかける。
「いや、ただ次に行ってもらうところを説明しとこうと思ってな。」
「ああ、そういうことか。」
フェローは納得した。
「で、次に行くところだが、水の国を挟んだところにある鉄の国にある葉を取りに行ってもらう。」
「水の国に鉄の国か。わかった。」
俺は納得した顔で言う。別に重要かどうかは分らないが、名前だけでも覚えておこう。
「そこでお願いなんだが、同じ光連合国の人間として、水の国で起きている事件を解決してきて欲しいんだ」
「事件?いったいどんな事件なんだ?」
フェローが王に聞く。
「まぁ、水の国にはその名の通り川や湖がたくさんあり、水があちらこちらにあるんだが、そこで水・氷を操る能力者が現われたんだ。」
「なるほど。確かに水を操る奴にとって、水がたくさんある水の国は犯罪対象にしかねないな。」
フェローが少し恰好を付けて行った。
「で、その水を操る奴なんだが、川の一部を凍らせ洪水をおこしたり、人間を凍り付けにして殺したりしているんだ。」
「なに!?それは許せないな・・・。」
俺は少し驚きながら言う。
「そういうことで、その犯人を捜し出し、捕まえてきて欲しいという事だ。取り押さえさえすれば後はその国の警官に任せて大丈夫だろう。」
「わかった。いいだろフェロー、実際のところ時間はたくさんある。」
「まぁ、いいよ。通りかかる国だし。」
「よし、じゃあ行くか。」
そう言って俺たちは王に挨拶をする。
外に出て、門の近くまで王は見送ってくれた。
そこで王は、
「本当はこの国最強の戦士を一緒に連れて行きたいところだが、ちょうど重病にかかってしまって旅にだせないんだ。
最近は落ち着いてきているようだが、もう少しかかりそうだ。もし完璧の状態になったら援護に向かわせる。」
と言った。
「ありがとう、王。じゃあ行くぞ、ブレイヴ。」
「おう!」
「その戦士は能力者だから、かなりの戦力になるだろう。期待してくれ。」
「よし、では行くか。」
そう言って、俺たちは城の外に足を踏み出した。
「目的地は水の国!及び鉄の国!」
「お、そろそろ国境だな。」
俺の隣で水の国と書いてある高さ1メートルくらいの看板を見て呟いた。
「へー・・・。こんな森の中なのにしっかり書いてあるのか。」
何時間も前から森に入っているが、本当に右も左も木で覆い尽くされており、森の奥が見えない。
その上、森の中だけあって道以外に人工物が全くなかった。看板の横を通り過ぎ、国境を越えた。するとそこには、たくさんの川や湖が広がっていた。
俺は川に近づい座り込み、流れる水を見ながら。
「うぉ!すごくきれいだ!」
と言った。フェローは俺の隣に向かいながら言った。
「そりゃそうだろ。こんな森の中なんだから。・・・にしてもすごくきれいだな。」
「のどか沸いていたんだよ。これ飲んでいいかな?」
「やめとけ。きれいだが腹を壊さないという保証はない。」
「むー。こんだけきれいなのに・・・。」
「水筒持ってきているだろ。それを飲めよ。」
「まぁいいか。」
持ってきた小さい肩掛けバッグのチャックを開けて、その奥に入っている水筒を取り出す。
ふたをひねるとキュッと言う音を立ててふたが開いた。中に入っている冷水を一口飲み、「ぷはぁー・・・。」と言って再びバッグに入れる。
「ほら、ブレイヴ。さっさと行くぞ。奇跡のクローバーの件は時間に余裕はあるが、水系超能力者の件は今にも事件は起こっているかもしれない。急ぐぞ。」
「わかった。」
そう言って立ちあがり、道に沿って歩き出す。
しばらく歩いていると、森の奥に光が見えた。
それを見てフェローが呟いた。
「あ、森を抜けるぞ。」
「で、森を抜けたらまずどうするんだ?水の国と言っても広いじゃないか。」
「それだな・・・。あ、あそこに村が見えるだろ?その村に行って情報を探ろう。」
フェローと会話をしていると、いつの間にかに森を抜け、広い草原を歩いていた。
穏やかなそよ風と川の水の音が聞こえるなか、フェローが話を再開させた。
「でも、犯人を見つけたとしても相手は能力者だ。できればそれまでに能力者に目覚めたいが・・・。」
「大丈夫でしょ。今まででも能力者と戦ったのは一度や二度ではない。・・・まぁ、かなりの兵が死んだがな。」
「つまり、未能力者が能力者を倒すにはかなりの数が必要だというわけだ。2人じゃ、とても無理な話だ。」
「・・・そうだな。」
「ほら、村の入口が見えてきた。急ごう。」
村は少し高い石の壁で覆われており、入口には大きな門と2人兵士が立っていた。
村に入ろうとすると両側に立っている兵士が槍で×の形をつくり道をふさいだ。
門の右に立っている兵が問いかけてくる。
「何者だ?何処の者だ?」
「ああ、俺はフェローです。で、こいつがブレイヴ。俺もこいつも光の国の兵だ。」
フェローが証明書を見せながら言う。
「な!?光の国の兵士殿でしたか!?ご無礼しました!どうぞ、この道をお通りください!」
兵士が槍を上に向けて道を開く。
「まぁまぁ、そんなかたくなるなって。別に気にしてないから。」
フェローが兵士に向かって言った。
「しかし、なんといってもこの光連合国の中心、光の国の兵士です。無礼なことなんてできるはずがありません。」
「まぁいいか。別に敬語使われても使われなくても気にならないし。さっさと行くぞ、ブレイヴ。」
「うん。」
俺たちは問の中に足を踏み入れた。
門に刻まれている文字から見るとここは清水村と言うらしい。
門をはいった所には広い芝生が広がっており、子供の遊び場になっている。
そして、その芝生のあちらこちらに清水らしき水が流れている。
「おぉ!やっぱりきれいだな。」
俺は少し大きな声で言った。
フェローもその水を見て。
「本当に水の国と言うだけあるなぁ・・・。っと、そうじゃなくて情報収集しないと!」
俺たちは再び歩き出した。
芝生を抜けたところにはたくさんの家が建っていた。
その間をたくさんの人が歩いている。
「すみません。少しお聞きしていいですか?」
フェローが通りかかった人に声をかけた。
「え?なんですか?」
それはスタイルの良い男性だった。
「あの、この辺で起こっている水系能力者の事件ですが。」
「あぁ・・・。あれか・・・。」
男は落ち込んだように言った。
「あ、すみません。何か気に触る様な事を言ってしまいましたか?」
「え、あぁ、大丈夫です。あの事件で僕の友達が何人も死んでね。8人・・・、いや9人は死んでしまったよ。」
「な、なんと。お気の毒です。」
フェローと男の会話のどこに言葉を入れればいいか分らず、俺は黙って会話を聞いていた。
「で、何か僕にようでも?」
「実はその事件の犯人を探しているのです。えっと、俺たちは光の国の兵で王に犯人を捕まえるよう言われてきたのです。」
「ほ、本当ですか?それなら居場所わかりますよ!」
「え!?どうして!?」
俺は驚きながら聞いた。
「実は僕、能力者でね地図に見たことのある人の位置を当てることができるんだ。」
「おぉ!ではお願いします。えっと、この地図を使ってください。」
フェローは肩掛けバッグから地図を取り出した。
「では始めます。あ、でもここでは風が強いので家まで来て下さい。」
男はしゃがみこみ砂をつまんでから村の奥の方へ向かった。
「その砂は何に使うのですか?」
フェローが男に聞いた。
「あぁ、能力に使うんだよ。あ、もう着いたよ。」
その家は結構大きい木造建築だった。
俺たちはドアを開け、「失礼します」と言って家に入った。
男に続いて家の中を進んでいくと、机のある部屋に着いた。
いや、正しくは机しかない部屋だった。
壁や天井は白いペンキで塗られていた。
「え?何故こんな部屋に?」
フェローが問いかけた。
「ここが一番落ち着くんです。僕みたいな能力は集中力が重要なんだ。では、始めるとしよう。」
男は地図を置くと、ポケットから砂を一粒取り出した。
そして、その砂粒をちょん、と上に飛ばした。
「この砂粒の位置が今の犯人の位置です。えーと、位置は・・・。清水村ですね。この村は小さいのですぐ見つかるでしょう。」
その時、男が舌打ちしたように聞こえたのは気のせいだろうか。
「そうか、ありがとう。」
フェローは一度地図を見てから部屋の外に出た。
「失礼しました。」
俺とフェローはそう言ってから外に出た。
俺たちと男はそこで別れた。
「ブレイヴ、犯人はここから村の奥の方にいる。急ぐぞ。」
俺たちは村の奥に向かった。
何だかさっきから誰かに見られている気がする。
「なぁフェロー、なんか誰かに見られている気がするんだが。」
「気のせいだろう。さっさと行くぞ。」
しばらく走ると、村の奥の石の壁のところまで着いた。
やはりここにもたくさんの川が流れており、橋がかけられている。
「・・・。こっちに来たのはいいものの、どれが犯人だかわからない・・・。」
フェローが無念そうに言った。
まぁ、当たり前と言えば当たり前の結果だが。
「もう一度、あの男の人のところまで行こう。あ、次はここに売っている清水村拡大地図でね。」
俺はフェローに向かって言った。そして、俺たちは地図の売っている店の方に歩きだした。
その時だ。
「氷化!」
何者かの声と同時に、近くの川が一瞬にして凍った。
「何だ!?」
俺はその場の状況を把握しきれず叫んだ。
村人たちの中には悲鳴を上げる者や逃げ惑う者がいた。
「誰だ!?ま、まさか・・・。犯人か!?」
フェローが俺の隣で叫んだ。
「ご名答!」
聞き覚えのある声が頭上から聞こえた。
石の壁の上を見上げるとそこには・・・あの時の男が立っていた。
男は手をこちらに向けた。
そして、
「伸氷!」
と叫ぶ。
その瞬間、男の手からつららの様な形の氷がこちらに向かって伸びてきた。
危険を感じた俺は腰から剣を抜き、氷をたたき切ろうとする。
しかし、その氷は予想以上に硬く、剣がはじき返された。
その反動で右に倒れ込む。
しかし幸い、身体の位置がずれたことにより氷の攻撃を避けることができた。
「チッ、運のいい奴め。しかしオレの氷の攻撃は絶えないぜぇ!」
次に男は両手こちらに向けてこう叫ぶ。
「射氷!」
瞬間、男は両手からマシンガンの様にくないの様な形の氷を作りだし、連続で飛ばしてきた。
男はその氷を避ける俺を追いかけるように両手を向け、絶えることなく氷を飛ばしてくる。
沢山の氷は、氷が氷に刺さり柱のようになっていた。
しかし、嫌な予感がする・・・。
直接こちらには攻撃はせず、何か企んでいる気がする。
この嫌な予感は当たってしまった。
気がつくと周りが氷の柱で囲まれていたのだ。
「フェローは!?」
そう思い周りを見ると、まだ近くを氷から逃げていた。
俺が氷に囲まれている事に気がついたフェローはこちらに走って来た。
「ブレイヴ!?」
「しまった・・・。周りを氷で囲まれてしまったよ。」
「今助ける!待ってろ!」
フェローは剣を抜くと氷の柱を叩きつけた。
しかし、予想通りフェローの剣ははじき返されてしまい、後ろにひざまずく。
「逃げろ!逃げるんだ、フェロー!」
「俺にそんなことができるはずが・・・」
フェローは立ちあがり剣を握ると、剣を右に構える。
「ない!」
そして、左へ剣で思い切り平行切りをし、柱を叩きつける。
しかし、無様に剣ははじき返され、再びひざまずく。
その反動で剣が遠くに弾き飛ばされる。
「はっはっはぁ!この氷をそんな弱い剣で俺の氷を切れるはずがない!俺の氷は普通の氷と違い、空気を含んでいない!だから硬いのさぁ!」
続いて右手は休ませ、左手だけを俺の方に向けてから、
「放水!」
と叫ぶ。その瞬間、男の手から、俺を囲む氷の中に水を放水する。
氷と氷の間から多少水は漏れだしているが、すごい速度で水がたまっていく。
フェローは今も剣で氷をたたき切ろうとするのが氷の中から見えた。
勿論、氷を切ることはできず、はじき返されている。
なにも出来ずに、鼻の下まで水がきた。
俺はここで死ぬのか?
そんなのは嫌だ!
まだ20代前半だというのに。
まだ子孫も残していないのに。
まだフェローとの約束を守っていないのに。
そして、ついに水が頭の上までつかった。
はぁ、俺ももう死んでいしまうのか・・・。
俺は既に生きることを諦めかけていた。
その時、外から大きな叫び声が聞こえた気がした。