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第1章二
トヨの不安は不幸にも的中した。
父は戻らなかった。
ここ数日、母は夕餉の支度をしていない。
父が旅立ってからというもの、父の不在を感じさせない努力を彼女はしていた。
明るく振る舞い、時には厳しく、時には優しく。
子供達に寂しい思いをさせないために。
夫が安心して家を空ける事が出来るように。
だが、父は戻らなかった。
父が旅立って一月、家の中に一度、不穏な空気が流た。
だが、母の『お父様が帰って来た時に叱られるよ。』の言葉で持ち直せた。
冬が来た。
そして春が過ぎ、二度目の夏が来た。
父は戻らなかった。
父が旅立って一年が経った次の日、母は動けなかった。
立ち上がれなかった。
畑にも行かず、子供達の話も聞かず、ただただ動かなかった。
理由はわからない。
だが、愛する我が夫が、もう帰る事は無い事実だけは悟った。
これから先、一人で子供達を育てなければならない不安。
夫を失った虚無感。
彼女はもう一人で立つ事は出来なかった。
今はトヨが夕餉の支度に立っている。
母がそうしたように、努めて明るく振る舞いながら。