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第1章一

『父さまはいつ帰ってくるの?』


少女は訊いた。

母は答える。

『旅立ったばかりじゃない。』

母は夕餉の支度をしながら答えた。


陽が傾き始めていた。

西側に広がる雄大な裾野に、悠久の昔から繰り返される、1日の終焉を示していた。


少女は不安だった。

父とはもう会えないのではないか、と。

何故か不安なのだ。

今回の旅も、ただ、邑で採れた米を納める為に、大宰たいさいの住まう奴国に行っただけ。

片道5日もあれば到着するのだ。

都からくる防人が騎乗すれば、それこそ2日もかからず到着するだろう。

たったそれだけの距離。

少女は邑を出た事はないが、父や邑の男衆、また、たまに来る都の特使は『近い』と言っていた。

昨夜も、邑の男衆と酒を酌み交わしながら、『都』の女衆の事で盛り上がっていたではないか。

母は怒っていたが、少女は楽しげに見ていたものだ。


少女、トヨは考えていた。

何故不安なのか、と。


トヨは物心がついた頃から不思議な力があった。

邑の大人が大怪我をする時や、隼人はやとが攻めて来た時、大爺様が亡くなった時もそうだ。

不安で仕方の無い、落ち着かない気持ちになるのだ。

勿論、小さい時には、父や母にその気持ちを訴えた。

だが、『気のせいだ』との父の言葉で、そう思う様に自分に言い聞かせた。

これは、トヨの心の中にだけにしかたたない心の小波なのだ。


だが、トヨはどことなく確信していた。

自分の心の小波が、これから起こるであろう大事を予見している前兆だと。


『父さまはいつ帰ってくるの?』


再び母に訊いた。

『すぐに帰ってくるわよ。』


トヨは不安で仕方なかった。



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