見られた
「見られた」
女の叫び声を聞いた時、咄嗟にそう思った。古い路地。叫び声を聞いてどんどん人が集まってくる。初めは何が起きてるか分からなかった。自分の鼓動の音とみんなの青ざめた顔をただ見つめていた。でもみんなの視線の先を見てすぐに理解した。地面には男が首から血を流して倒れている。そして、俺の手にはカッターナイフが握られていた。
「あぁ、俺人殺したんだな」
でもなぜこうなったのかが全く思い出せない。叫び声を聞いて記憶が飛んでしまったのか?
俺は倒れている男の顔を見た。その男のことは知っていた。友人の後藤慎二だ。いや、元友人が正しいか。俺はコイツが嫌いだ。初めはノリも良くて明るくて、一緒にいて楽しかった。だが俺に金をせがんできたとき、俺らの友情は少しずつ崩壊していった。一体何万、いや、何十万と貸したことか。俺病気が見つかった、手術費が必要と言われたから貸したんだ。絶対返してくれるって約束もした。だがあいつは俺に嘘をついていた。パチンコに全部使っていたのだ。
そうだ、少しずつ思い出してきた。
俺はあいつがまた会おうと言ってきたから、またお金を貸してくれと言われるだろうから、俺はパチンコに使っているところを見たとはっきり言うために家を出たんだ。きっとそれで口論になり、殺ってしまったんだろう。
死んだ魚のような目をした慎二を見て思わずニヤけてしまった。ざまあみやがれ。死んで償えばいい。地獄に落ちればいい。病気が見つかった時、どれだけ心配したか、わざわざ貯金を下ろしてまで会いに行ったのに、死んでくれてよかった。笑いが込み上げてくる。
「警察よんで!」
俺が笑っているのを見てガタイのいい男がそう叫びながら走ってきた。俺を取り押さえるつもりだろう。それに続けて何人かの男が次々と走ってくる。俺の行いを批判されてるような感じがして癪に触った。ムカついた。俺はカッターナイフを思いっきり振り回して切りつけた。ひとりが血を流してうずくまっている。他の男達も思わず後退りをしていた。勝った気分が最高だった。俺は人を殺した。あとは何人やっても変わらない。倒れてうずくまる男の上にまたがり、何度も何度も刺した。俺は正しいことをしたのに責めようとしたこいつらが悪い。男が慎二と同じ目をした時、俺は刺すのをやめた。慎二にも、これくらい刺してやりたかったな。首を一突きだなんてしょぼかったな。
ポタポタ
音がした。それと同時にサイレンの音が古い路地に鳴り響いた。誰かが呼んだのか、もう来たのか。
「ここで捕まってたまるか」
やるべき事はやった。もうこの世に用はない。俺はカッターナイフを首に当て、思いっきり掻き切った。
ツーと、首が熱くなり、意識が遠のいっていった。俺もあの魚のように
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見ちゃったんです
仕事終わりなのでたしか7時頃でしたね。ひとりで人気のない路地を音楽を聴きながら歩いてたんです。そしたら音がしたんです。イヤホン越しでもわかりました。ものすごい音で思わずイヤホンを外してしまいました。誰かが暴れるような音。恐る恐るその音の方に行ってみたんです。そしたら男性が血を流して倒れてて、その横には血だらけの男がいました。周りは段ボールとかゴミ箱のゴミとかとにかく散らばってて、それに殺したであろう男の顔は見えなくて、体が固まって動かなくなっちゃって、声も出なかったです。そしたら男が倒れた男性の上にまたがって首を絞め始めたんです。それを見た瞬間やっと逃げなきゃって思いました。でも後ずさりしようとした時靴と地面が擦れる音がなっちゃって、焦って男を見たらこっちを見て立ってたんです。もちろん手にはカッターナイフ。今まで声出なかったのに、殺されるって思ったら叫んでました。あの時は 見ちゃった そう思いましたね。
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だんだん遠のいていく意識。カッターナイフで切った首を片手で抑え、痛みを感じながら俺は目を閉じた。
「ちょっと話したいことがある、これから会えないか?」
慎二からのラインを見てる映像が脳内に流れる。なんだ?走馬灯か?ラインから目を離すと路地にいた。夢を見ているみたいにどんどん進んでいく。
「来てくれてありがとう話があってね」
慎二がそういう。
「なんだよ、謝りに来たのか?それともまた金貸せってか?バレてないとでも思ったか、お前がパチ…」
「俺を殺してくれ」
なんだ、これはなんなんだ、夢?俺の想像か?それともこれが本当なのか?さっき俺が経験した出来事か?見てるだけで体が動かない。
「え?どういうことだよ、殺してくれってどういうことだよ」
「ごめんな、嘘ついて、でも病気なのはホントだったんだ、信じてくれ。ほんとに金が欲しくて、必要で、お前にまで借りてしまった。でも全然足りなくて、もうどうしていいかわからなくなっちゃってさ、パチンコで増やせないかなって、馬鹿だよな、ほんとにごめん」
だんだんよく見えなくなってきた。死が近づいているのか
「俺を殺してくれ、死にたいんだ。償いもこめて、殺してくれ」
慎二はポケットからカッターナイフを取り出し、俺の手を掴んでカッターを握らせた。刃を心臓のあたりに近づけ
「頼む、謝りたいんだ」
「できないよ、できるわけ無いだろ、もう怒ってないよ、だから考え直せって!」
取っ組み合いになった。近くの積み上げられた段ボールやゴミ箱に突っ込んだりして、とにかく止めようと頑張った。だが慎二は頑なにカッターナイフと俺の手を離さなかった。
「もうやめろ!」
そう言ってもう片方の手で慎二を押した。俺の手からカッターナイフはもう離れていた。慎二のか細い叫び声が聞こえた、嫌な予感がした。うつ伏せの慎二を起こした。その瞬間から冷や汗が止まらなかった。慎二の首にはカッターナイフが刺さっていた。痙攣していた。目も合わない。
「俺のせいだ」
慎二はガクガク震えながら首元のカッターナイフを握り思いっきり引き抜いた。止めようと思ったが遅かった。噴水のように血が飛び散る。顔や体に血しぶきがかかった時思わず後ずさりした。だが止まらない出血に、すぐに止血しないとまずいって思ったから急いでまたがって手で抑えた。近くに止血するものがなかったからとりあえず手で抑えた。でも止まらなかった。やっぱり助けを呼ばなければならない、そう思って、とにかく人を呼ぼうと思って立ち上がった。そしたら1人の女性いて、叫び声が路地に響き渡った。
「見られた」




