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7話 歴史を書き換えて

「そうか」


 ユーリは静かに言った。怒りも、焦りも、その声にはなかった。


「では、コイツを見てくれ。何だと思う?」


 ユーリは上着の内側から、小さな金属製の円筒を取り出した。親指ほどの大きさの、精巧な作りの筒だ。

 コーデルの目が、その物体に吸い寄せられた。


「手癖の悪い子だ。父上のレコーダー(録音器)か?」


「ああ、机を漁っていたら出てきてね。技術の進歩ってのは凄いもんだな。あの馬鹿でかいレコーダーが、今や掌サイズ以下で上着越しに仕込んでも良く聴こえると来たもんだ。コイツの中に、アンタが書斎を漁り始めた時点からの音声全部が録音されている」


 コーデルは動かなかった。しかし、その目の奥で何かが素早く動いた。状況を整理する工作員の目である。


「いいのか? 君は未来から来たと嘯く、痛い少年だと思われるぞ」


「普通の大人なら、子供の戯言と真面目に処理されないさ。だが、アンタは違う。直接策謀に関与してないとはいえ、それに堂々と便乗すると言質を取られたんだからなぁ。この証拠が俺の手から流出し、史実通り事件が起きたものなら」


「……フン、終わりだな」


「理解が早くて助かるよ」


 ユーリは円筒を、机の上にそっと置いた。


「だが俺はこれを提出するつもりはない」


「……条件があるということか」


「そうだ」


 ユーリは真っ直ぐにコーデルを見た。


「俺と手を組め、それだけだ」


 コーデルはしばらく机の上の録音器を見つめていた。手を伸ばせば届く距離にある。だが、伸ばさなかった。


「奪えば済む話だが?」


「そいつはオススメしない。正直なところ、こんな交渉事より荒事の方が得意でね。まだガキの身体だが、アンタを制圧する自信はある。ま、とは言いつつ万全は期させてもらったが」


 そう言いながら、ユーリは懐の拳銃をチラリと見せた。

 コーデルの目が、わずかに細くなった。


「それも、父上の書斎から拝借したのか」


「机の引き出しの奥にあった。アンタが漁る前にな」


「手癖が悪いにも程があるな」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 コーデルは短く息をついた。呆れとも感心ともつかない、複雑な色の息だった。


「降参だ、ミスター・ユーリ。共に輝かしい祖国の未来のため、喜んで手を組もうじゃないか」


 コーデルは両手を軽く上げ、降参の仕草をして見せた。それから椅子を引き、腰を下ろした。観念した男のそれではなく、本腰を入れて考え始めた男の所作だった。


「ただし」


 その声に、くっきりとした線が引かれた。


「さっきも言ったが、私にグレームを止める事は出来ない」


「分かっている」


「本当に分かっているか?」


 コーデルは苦笑しながら言った。


「アンタは、この一件に『共和国情報局』が一枚噛んでいる証拠を握っている。そいつを利用させて貰う」


「待て待て、簡単に言うが、それを暴露したら私が連中(情報局)に睨まれてしまう危険がある。それに、グレーム達の義憤は本物だ。真相をしったとて、蹶起が諦める保障もないぞ」


「分かってる。だから止めなくていい。止めるんじゃなく、利用する」


 コーデルの目が細くなった。


「ほう、聞かせてくれ」


「グレームには予定通り蹶起させる。だが、誰も死なせない。一度目の人生では、あの日宰相以下大臣十一名が殺され、それが敵対する貴族勢力の策謀とそれた。その結果、民衆の怒りが爆発し貴族全体への憎悪に火がついた。だがもし、帝国兵が義憤に駆られてやったと思っていた行動が、実は敵国の工作員に踊らされた結果だったと分かった時、民衆の怒りはどこへ向く」


「……外へ向くだろうな。帝国を混乱に陥れようとした共和国への怒りに変わる。グレームの兵士たちも、誰も殺さなければ英雄でも悪党でもなく、騙された被害者として処理できる。なるほど、素晴らしいシナリオだ。ただ一点を除いてな」


 コーデルは頬杖をつきながら問う。


「どうやって実力行使に至ったグレームを止めるつもりだ? グレームの第一ギアドール大隊は、近衛兵団の中でも精鋭中の精鋭。短時間なら、帝宮を制圧するには十分過ぎる戦力だ。奴らに対抗するには、倍以上の、しかもお仲間である軍に頼るしかない。それが仮に成功したとしても、そんな大部隊が帝都の近くに展開していたら、奴らもクーデターを仕切り直しにするんじゃないか?」


「それには心配に及ばない」


 ユーリは自信ある笑みを浮かべる。


「さっきも言ったろ? 荒事は得意だって。そこで一つ相談したいんだが、アンタ、陸軍兵器局にもお友達はいるだろ? 俺に、いい考えが有るんだ」




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