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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第7話:First Test

寮を出て、宵待さんと並んで歩く通学路。数ヶ月のリハビリを経てようやく取り戻した「歩く」という動作が、今はどこか心地よい。


正直に言えば、体はひどく重かった。原因ははっきりしている。


(……結局、一睡もできなかったな)


理由は昨夜の状況そのものだ。一目惚れした女の子と同じ部屋、わずか一メートルしか離れていないベッドで寝る。そんな状況で、思春期の男子がまともに眠れるはずがない。


教室に入ると、ピリついた空気が漂っていた。今日は特進コースの学力テスト。午前中から五教科の試験がぶっ続けで行われる。教壇に立つ氷室瑠璃先生は、相変わらず鋭い圧を放ちながら試験開始を告げた。


僕は淡々とペンを走らせる。 数学と理科については、何の不安もなかった。目覚めた後、暇つぶしに中学校の教科書を一度パラパラと眺めただけだが、その内容は写真のように鮮明に脳裏に焼き付いている。数式も法則も、まるで最初から知っていたかのように指先が答えを綴っていく。英語と社会も、綴りのミスなどで一、二問落とした程度で、ほぼ完璧だ。


ただ、国語だけはどうしても納得がいかなかった。漢字はすべて完璧に書ける。しかし、読解問題の後半に並ぶ**『この時の作者の心情を述べよ』**という記述式が、どうしても僕には理解できなかった。


(作者の心情……? そんなの、本人に聞かなければ正解なんてわかるはずがないじゃないか。論理的じゃない)


ページをいくらめくっても、どこにも「客観的な答え」が載っていない曖昧な問い。そんなものを正解として強いる国語の試験は、僕にとって苦痛でしかなかった。ふと隣を見ると、宵待さんは一切の迷いなくペンを動かしていた。その精密機械のような正確さは、見ていてどこか神々しささえ感じる。


昼休みになり、僕たちはこのクラスの生徒だけが利用を許されている専用の学食へと向かった。そこは学校という概念を覆す場所だった。世界でも有数のトップシェフたちが厨房で腕を振るい、提供される料理はどれも一級品だ。


運ばれてきたメインディッシュを一口食べ、僕は絶句した。素材の味を極限まで引き出し、幾重にも重なるソースの調和。美味しいという感動よりも、猛烈なプレッシャーが僕を襲った。


(……この後に、僕が今日の晩ご飯を作るのか?)


ハードルが上がりすぎている。さっきまで考えていた献立が、あまりに貧相なものに思えてきて、僕は思わず手元のフォークを握り直した。


「失礼しますねぇ、琥珀くん、翡翠ちゃん」


不意に、おっとりとした声が響いた。顔を上げると、翡翠の向かい側に綾瀬雲母きららが座り、僕の隣には黒峰美玻璃みはりが腰を下ろした。


「こーはくっ! この席、空いてるでしょ? あたしたちも混ぜてよ!」


彼女は「あたし」と無邪気に笑いながら、当たり前のように距離を詰めてくる。


「……ああ、いいよ。黒峰さんたちも、ここの料理を?」


「 雲母と一緒に食べてたんだけど、琥珀を見つけたからさ」


食事も終盤に差し掛かった頃、コースの最後を飾るデザートが運ばれてきた。真っ白なプレートに乗せられた、宝石のようなイチゴのムースケーキだ。


宵待さんはフォークを手にし、小さな一口を慎重に口に運んだ。


「……あ」


その瞬間、翡翠の頬がふわりと緩んだ。 宝石のような瞳が輝き、口角がわずかに上がる。


「……甘いです。瀬名さん、これ……すごく、美味しいです」


初めて見る、純粋で柔らかな笑顔。 甘いものが好物なのだろうか。計算された美しさではない、幸福感が内側から溢れ出したようなその表情に、僕の心臓は今日一番の大きな音を立てた。


「ふふっ、宵待さん、すっごく嬉しそう。よかったね」


隣で笑う黒峰さんの声を聞きながらも、僕の頭の中は別の悩みで支配され始めていた。 目の前にある、プロが作った至高のデザート。そして、さっき食べた完璧な料理。


(……さて。今日の夜、何を作ればいいんだ?)


期待に満ちた顔でムースを頬張る翡翠を見て、僕はそっと冷や汗を拭った。

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