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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん
第二章:合同実技演習編

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第28話:Secret Mission

金曜日の放課後。 氷室先生から「明後日の日曜日に合同実技演習を行う」と唐突な宣告を受けた僕たちは、各自に配布された専用のタブレット端末を手に、学生寮の自室である401号室へと戻ってきていた。


タブレットの画面には、複雑に入り組んだ校舎の図面と、広大なキャンパスを網羅した詳細な3Dマップが表示されている。


「ルールは単純ですね。キャンパス内に数十箇所の『チェックポイント』が設置され、制限時間内にそれらをクリアし、最も多くポイントを稼いだペアが1位……」


ダイニングテーブルで画面をスクロールさせながら、翡翠が真剣な表情で状況を整理する。


「厄介なのは、高得点のポイントが立体交差の渡り廊下や、体育館のキャットウォークなど、高低差のある場所に集中していることです。それに、この校舎は複雑すぎて、普通に回っていては制限時間に間に合いませんね」


「そうだね」


僕はタブレットの画面を、パラパラと数回スクロールさせた後、電源を落としてテーブルに置いた。


「……えっ? 琥珀さん、画面を見なくてよろしいのですか?」


「うん。もう、全部頭に入ったから」


僕がさらりと言うと、翡翠は目を真ん丸に見開いて、タブレットと僕の顔を交互に見比べた。


「嘘……。いくら琥珀さんでも、あんな一瞬でこの広いキャンパスの立体図面を全部覚えるなんて……信じられません」


「うん。マップも、ポイントの配置も、最短ルートも、全部頭の中に3Dで組み上がってるよ」


「すごい……。琥珀さんって、本当に規格外なんですね……」


彼女は呆然と呟き、僕の顔をまじまじと見つめてきた。いつもの冷静な彼女らしくない、完全に素の驚き方だ。


「……翡翠。頭を使う暗号解除と、ルートの構築は全部僕がやる。最速の最適解を出すよ」


「琥珀さん……!」


彼女の瞳に尊敬の光が宿るのを感じて少し誇らしくなったが、僕はすぐに自分のひ弱な腕をさすりながら息を吐いた。


「ただ、問題は体力なんだ。目的地に着くまでに僕がバテたら元も子もないし、高低差のあるアスレチックみたいなポイントは、いまの僕の筋力じゃたぶん無理だ。この一週間、君のスパルタトレーニングのおかげで少しはマシになったけど……」


僕の懸念を聞いた翡翠は、パッと顔を輝かせ、ぐっと身を乗り出してきた。


「お任せください、琥珀さん! あなたの移動や物理的な障害の突破は、すべて私が担います! ……なんなら、最初から最後まで、私があなたを抱えて走り抜けても構いません!」


「えっ!? い、いや、いくらなんでもそれは……っ!」


前のめりになった彼女の顔が、僕の鼻先数十センチのところまで迫る。ふわりと甘い香りが漂い、僕の視線は無意識に、彼女の胸元の柔らかなふくらみへと吸い寄せられてしまった。


彼女は本気だ。生身の体とはいえ、極限まで鍛え上げられた彼女の体幹と筋力なら、僕を抱えて走ることなど造作もないのだろう。だが、僕の身長は172センチで、翡翠は165センチ。 周りから見れば、スラッとした少し背の低い美少女が、自分より大きな男を抱えて走るという、あまりにもシュールで情けない図になってしまう。


「大丈夫だよ、翡翠! 足手まといにならないように自分でもちゃんと走るから!」


「……そうですか。でも、限界が来たら遠慮しないで言ってくださいね! すぐに私が抱っこして運びますから!」


「だからそれが一番恥ずかしいんだってば……」


顔を真っ赤にして抗議する僕に、翡翠は不思議そうに小首を傾げていた。


僕のチート頭脳と、翡翠の完璧な身体能力。 初めての「共同戦線」に向けて、僕たちの準備は整っていた。


* * *


そして迎えた、日曜日の朝。 普段なら部活生たちの活気に満ちているはずの広大な多賀城キャンパスは、他の生徒の立ち入りが固く禁じられ、不気味なほどの静寂に包まれていた。


指定された巨大な人工芝グラウンドに集合した僕たち特例クラスの32人は、全員が普段の体育の授業でも着ている学校指定のジャージに身を包んでいる。 僕と翡翠も、特進クラス専用にデザインされた、鮮やかな青色に黄色と黒のラインが入ったジャージを着ていた。男女兼用のゆったりとしたデザインだが、フロントのジッパーを上まで上げている翡翠が着ると、そのしなやかな腰のくびれや、女性らしい胸の柔らかな起伏が布地越しに嫌でも強調されて見えてしまい、僕は朝から少しだけ目のやり場に困っていた。


「ちょっと雲母! あんた、私より10センチもデカいんだからね!? 途中でバテたって絶対おんぶなんかできないから!」


列の斜め前で、157センチと小柄な美玻璃さんが、自分より頭一つ分近く背の高い雲母さんを見上げてキャンキャンと吠えている。


「ふふっ、美玻璃ちゃん怒らないでぇ。頑張って歩くからぁ」


あのアンバランスなコンビがどうやってこの過酷な演習でポイントを稼ぐのか、想像するだけで思わず苦笑してしまう。


「……琥珀さん。人のことを笑っている場合ですか?」


隣から、スッと通る声がした。振り返ると、翡翠の真剣な瞳が、すぐ目の前で僕を射抜いていた。


「もし琥珀さんが限界を迎えたら、私が運ぶと言いましたよね。今からそのシミュレーションをしておきましょう。さあ、遠慮しないで」


「い、いや、だから自分で行けるってば!」


僕が必死に抵抗していると、教壇の代わりに朝礼台に立った氷室先生が、拡声器のスイッチを入れた。


『これより、第一回・合同実技演習を開始する。各ペア、配布された端末のチェックポイントを目指せ。……制限時間は3時間。始め!』


けたたましい開始のホイッスルが、静まり返ったキャンパスに鳴り響く。 他のペアたちが一斉にタブレットの画面を覗き込み、


「とりあえず一番近い第一校舎からだ!」


「図書室の暗号を解くぞ!」


と慌てて駆け出していく。 美玻璃さんと雲母さんのペアも、


「とりあえず走るわよ雲母!」


「ああっ、待ってぇ美玻璃ちゃーん」


と、ドタバタと校舎の方角へと向かっていった。


「琥珀さん。私たちはどう動きますか?」


翡翠はタブレットを取り出そうともせず、ただ僕の指示を待っている。


「みんな、手近な『知能ポイント』から潰そうとしてる。でも、それだと後半必ず渋滞するし、ポイントの奪い合いになる」


僕はグラウンドの奥、数十メートルの高さでそびえ立つ、巨大な防球ネットとナイター照明の鉄塔を指差した。


「僕たちは逆から行く。一番遠くて高得点、しかも誰もが後回しにする『体力ポイント』の最難関からだ」


「あそこですね。ここからでも、頂上付近にQRコードのパネルがあるのが見えます」


翡翠が、ふっと自信に満ちた笑みを浮かべる。


「でも琥珀さん、あそこへ行くには、この広いグラウンドを全力で走り抜けないといけません。今の琥珀さんの体力じゃ、着く前にバテて他のペアに先を越されちゃいます」


「え、ちょっと待って翡翠、まさか――」


言うが早いか、翡翠は僕の膝裏と背中にスッと細い腕を回し、いとも簡単に僕の体を持ち上げた。 いわゆる、お姫様抱っこだ。


「ひっ……!? ひ、翡翠、下ろして! 自分で走れるから!」


「駄目です! 琥珀さんが走ったら絶対に遅れちゃいますから! 舌を噛まないように、しっかり私にしがみついててくださいね!」


僕の172センチの体は、165センチの彼女の腕の中にすっぽりと収まっていた。 抵抗しようと身をよじった瞬間、僕の胸元に、翡翠の豊かな双丘の柔らかな感触が、青いジャージ越しにむにゅっと押し付けられる。


「っ……!」


(近い、近すぎる……!)


ただでさえ密着しているのに、彼女の甘い吐息が直接僕の首筋にかかり、体温がじかに伝わってくる。機械的な冷たさなど微塵もない、汗ばむような生身の女の子の熱。


僕の激しい動揺など露知らず、彼女は僕の体を抱え直すようにギュッと腕に力を込めると、無駄のないフォームで地面を蹴り出した。


生身の体で限界まで鍛え上げた、彼女の凄まじい脚力。 吹き付ける風が僕の髪を激しく揺らし、景色が猛烈な速度で後方へと流れていく。


向かう先は、広大な野球グラウンドの奥にそびえ立つ、見上げるほど高いナイター照明の鉄塔だ。


「琥珀さん、しっかり掴まっていてくださいね!」


「っ、わかってるけど……!」


彼女の甘い香りと、ジャージ越しに押し付けられる柔らかな感触。僕の心臓は別の意味で限界を迎えそうだったが、彼女の力強い心音を聞いていると、不思議と足手まといになる不安は綺麗に消え去っていた。


僕は覚悟を決めて目を細め、これから二人で攻略する巨大な鉄塔の頂上を、真っ直ぐに見据えた。

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