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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん
第一章:入学編

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第26話:New Morning

昨夜。僕の胸に顔を埋め、子供のように声を上げて泣いていた翡翠は、やがて泣き疲れたのか、すうすうと静かな寝息を立て始めた。

僕は彼女を起こさないようにそっと抱き上げると、奥のベッドエリアへと運び、静かに毛布を掛けた。


そして、月曜日の朝。

午前5時。スマホのバイブレーションが静かに部屋の空気を震わせた。

僕は身を起こし、隣のベッドへ視線を向ける。そこには案干の定、見事に毛布を蹴飛ばし、無防備にお腹を出して丸まっている翡翠の姿があった。


「……ほんと、寝相だけは変わらないな」


小さく苦笑しながらベッドに近づき、めくれ上がったパジャマを直して毛布を首元まで掛け直す。


「翡翠。朝だよ、起きる時間だ」

肩を優しく揺すると、彼女は「んぅ……」と小さく唸り、ゆっくりと翡翠色の瞳を開いた。


「……おはようございます、琥珀さ……」


寝ぼけ眼で挨拶をしかけた彼女の動きが、ふと止まる。そして、昨夜の出来事――僕の胸で泣き崩れた記憶が鮮明に蘇ったのだろう。彼女の白い頬が、みるみるうちに朱に染まっていった。


「あ……そ、その。昨晩は……」


翡翠は毛布を口元まで引き上げ、ばつが悪そうにスッと視線を逸らした。完璧な優等生であろうとする彼女にとって、あそこまで感情を露わにして泣きじゃくったのは、よほど気恥ずかしいことだったらしい。


「お見苦しいところをお見せしてしまって……大変、申し訳ありませんでした……」

消え入りそうな声で謝る彼女の頭を、僕はポンと軽く撫でた。


「謝ることなんて何もないよ。むしろ、翡翠が僕に頼ってくれて嬉しかった」


「……琥珀さん」


「ほら、今日もトレーニングからでしょ? 行こう」


僕が手を差し出すと、彼女は少しだけためらった後、その手をしっかりと握り返してベッドから起き上がった。


キッチンで手早くプロテインとクレアチンを流し込み、二人で朝の冷たい空気が張り詰める外へ出る。

メニューはいつも通りだ。並んでランニングでしっかりと汗を流した後、筋トレと体幹トレーニングで限界まで体を追い込む。


「はい、体幹がブレていますよ。もっとお腹に力を入れて、姿勢を維持してください!」


「くっ、わかってるけど……キツい……!」


僕がプランクの姿勢で顔を歪める横で、翡翠がストップウォッチを見つめながら的確にフォームを修正してくる。

やっていることは相変わらず過酷なはずなのに、僕たちの間にある空気は決定的に違っていた。

以前はどこか「完璧なAIの指導者」と「出来の悪い生徒」という見えない壁があったが、今の彼女の声には、確かな体温のような温かさが混じっている。


指定のタイムを終え、僕が息を切らして芝生に仰向けに倒れ込むと、翡翠がすっとスポーツタオルを差し出してくれた。


「お疲れ様です。……週末の疲労がある中で、よくやり抜きましたね」


「翡翠の教え方が上手いからだよ」


タオルを受け取る時、お互いの指先が軽く触れ合った。

翡翠はほんの少しだけ目を伏せ、大切なものを扱うような、静かで柔らかな表情を浮かべる。「完璧な優等生」であろうと気を張っていた昨日までの硬い空気は、もう微塵も感じられなかった。


「……シャワーを浴びたら、いつもの朝ごはんにしようか」


「はい。今日も一日、よろしくお願いしますね」


少しだけはにかむように微笑むその表情も、たまらなく愛おしい。

僕と翡翠の距離は、この朝、確かな温もりを伴って近づいていた。

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