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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第23話:Sync and Routine

「はああああああっ!?」


黒峰さんの絶叫が、クラス専用の学食に響き渡った。

周囲の生徒たちが何事かと一斉にこちらを振り返るが、彼女はそんなことお構いなしに僕の席へと詰め寄ってきた。


「じ、自腹!? プレゼント!? それで下の名前で呼び合ってる!? あんたたち、ただの親睦課題でなんでそこまでイベント発生させてんのよ!」


「いや、別にイベントってわけじゃ……たまたまロフトで見かけて、似合いそうだったからつい」


「その『つい』がおかしいって言ってんの! なに自然に口説いてんのよ!」


筋肉痛でバキバキに痛む肩をビクッと揺らす僕に対し、黒峰さんは容赦なく指を突きつけてくる。

そこへ、綾瀬さんがおっとりとした口調で割って入った。


「ふふっ。でもぉ、琥珀君、すっごく積極的なんだねぇ。翡翠ちゃんも、とっても嬉しそうだねぇ」


「……はい。琥珀さんが私のために一生懸命選んでくれたので……すごく、大切です」


翡翠さんは表情こそ崩さなかったものの、まるで壊れ物でも扱うかのように、胸元のシルバーをそっと大切そうに両手で包み込んだ。

それを見た黒峰さんは、なぜか奥歯をギリッと噛み締め、忌々しそうに吐き捨てた。


「……っ、バカ琥珀。AI相手に入れ込みすぎると、あとで痛い目見るわよ」


「あ……」


言い放った直後、黒峰さんはハッとして隣の綾瀬さんを見た。


「ご、ごめんっ! 雲母のこと言ってるわけじゃないのよ!? ただ、こいつがあんまりデレデレしてるから、ちょっとムカついて……!」


「ううん、大丈夫だよぉ。美玻璃ちゃんは、琥珀君のことが心配なんだよねぇ」


綾瀬さんがふんわりと微笑んでフォローしたその時――キーンコーンカーンコーン、と、無情にも午後の授業を知らせる予鈴のチャイムが鳴り響いた。


「あーもう、予鈴鳴っちゃったじゃない! この話はまた後でよ!」


黒峰さんは悔しそうに足踏みをして、僕たちはそそくさと午後の教室へと向かった。


午後の授業は、専用の特別訓練室での実技だった。

訓練室の前に立つ氷室先生が、静かで冷徹な視線で僕たち生徒を見渡す。


「午後からは、パートナーAIとの連携動作、および思考の同期率シンクロレートの測定を行う。前方に用意された障害物コースをペアで突破しろ。お互いの意図をどれだけ正確に読み取り、カバーし合えるかが鍵になる。……気を抜かずについてこい」


筋肉痛の体で障害物コースと聞いて、僕は絶望で目の前が真っ暗になった。


「お、終わった……僕の筋肉が完全に破壊される……」


青ざめる僕の隣で、翡翠さんがスッと僕の腕を軽く支えてくれた。


「琥珀さん、大丈夫ですよ。筋肉痛で動きづらいのは分かってますから、私がちゃんとカバーします。琥珀さんは、無理しない範囲で動いてくれればいいですからね」


「翡翠さん……」


静かで淡々としているけれど、どこか温かくて頼もしい彼女の言葉。

いざ測定が始まると、それは嘘ではなかった。僕が足の痛みでわずかに体勢を崩しそうになるより早く、翡翠さんがスッと回り込んでサポートし、僕の次の動きを完璧に予測して道を開いていく。


「……ふん。同期率89パーセント。先週の基礎測定から随分と跳ね上がっているな」


氷室先生はタブレットを見て、小さく鼻を鳴らした。


「瀬名、少しはマシな動きになったじゃないか。だが、これはまだ初歩の初歩だ。今の結果に満足せず、気を抜かずについてこい」


「はい!」


厳しくも確かな評価に、僕は筋肉痛の痛みも忘れて笑みを浮かべた。

隣を見ると、翡翠さんの表情はいつものように凛としていたけれど、その瞳の奥には確かな誇らしさが宿り、僕に向かって静かにこくりと頷いてみせた。


翌日、火曜日の朝。

ホームルームが始まる前の教室で、僕の席にやってきた黒峰さんは、綾瀬さんになだめられたのか昨日ほどの怒気はすっかり収まっていた。


「……はぁ。雲母になだめられて、少し頭冷やしたわ。……今回の抜け駆けは見逃してあげる」


「そ、そっか。よかった」


「その代わり! 私のことも下の名前で呼びなさいよ!」


「……え?」


ビシッと指を突きつけてくる黒峰さんに、僕は目を丸くした。


「あんた、私のことはずっと『黒峰さん』って苗字で呼んでるじゃない。翡翠を名前で呼ぶなら、私のことも今日から『美玻璃』って呼び捨てにしなさい! いいわね!」


「よ、呼び捨て!? いや、さすがにそれはハードルが高いっていうか……」


「……チッ、まあいいわ。百歩譲って『美玻璃さん』で妥協してあげる!」


「うふふっ。じゃあぁ、便乗して私のことも『雲母さん』って呼んでほしいなぁ」


「ええっ、綾瀬さんまで……? わ、わかったよ。えっと……美玻璃さん、雲母さん」


僕が少し照れくさそうに二人の名前を呼ぶと、美玻璃さんは「ふんっ」と満足そうに腕を組み、雲母さんは嬉しそうに目を細めた。


それからの日々は、驚くほど穏やかで、充実した日常の連続だった。


水曜、木曜、金曜――。

朝5時に起きて、ベッドで丸まっている無防備な翡翠さんのお腹に毛布をサッと掛け直しながら、声をかけて起こす。

二人で外に出て、容赦のないスパルタランニングと体幹トレーニングで汗を流す。

帰ってきて僕が作った朝食を二人で食べ、並んで学校へ向かう。

昼休みになれば、クラス専用の学食で美玻璃さんや雲母さんと合流して、四人でたわいもない会話をしながら高級料理の並ぶランチを味わう。

夜は僕が腕によりをかけた夕食を二人で囲み、ゆっくりお風呂に入ったあと、リビングで翡翠さんと並んで柔軟体操をして、眠りにつく。


AIと人間。

種族も成り立ちも違うけれど、僕たちは確かに、どこにでもあるような温かい『いつも通りの生活』を重ねていた。

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