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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第22話:Monday Rumors

月曜日の朝。午前5時。

目が覚めた瞬間、全身をバキバキと鈍い痛みが襲った。


「いっ、たぁ……っ」


昨日の地獄のスパルタトレーニングの代償たる、全身のひどい筋肉痛だ。ロボットのようなカクカクとした動きで、なんとかベッドから這い出る。

それでも、僕にはやることがある。


翡翠さんの部屋のドアをそっと開けると、そこには案の定、ベッドの上で毛布を蹴飛ばし、無防備な姿で丸まっている彼女がいた。

綺麗な銀髪は少し乱れ、頭には見事なアホ毛が一本、ピンと立っている。それに、パジャマの裾がめくれて、柔らかそうな白いお腹が少しだけ覗いてしまっていた。


普段は完璧な優等生を振る舞っているくせに、彼女は信じられないくらい朝に弱いのだ。


「……ほんと、無防備だな」


僕が苦笑しながらベッドに近づき、「ほら、朝だよ、翡翠さん。起きて」と声をかける。

すると、翡翠さんが「んぅ……」と小さく寝返りを打ち、薄く目を開けた。


「……琥珀、さん……?」


寝ぼけ眼で僕を見上げた彼女は、ふと肌寒さを感じたのか、自分のめくれたパジャマと、床に落ちかけている毛布へと視線を落とした。

僕が落ちていた毛布を拾い上げ、冷えないように彼女のお腹へとサッと掛けてやると、翡翠さんはハッとしたように目を丸くした。


「もしかして……毎朝、こうやって直してくれてたんですか……?」


「寝相が悪くて、いつもお腹冷やしそうになってるからね。ほら、二度寝はダメだよ。……あとごめん、僕、今日筋肉痛がひどすぎて動けそうにないや」


僕が苦笑いしながら申告すると、翡翠さんは眠そうな目をこすりながらベッドから身を乗り出し、僕の腕や肩のあたりをペタペタと軽く触って確認し始めた。


「……本当ですね。筋肉が熱を持って硬直しています。……今日は、トレーニングはお休みにしましょう……むにゃ」


軽い状態確認を終えるなり、毛布をぎゅっと抱きしめて再び目を閉じようとする彼女。そこには機械っぽさなんて微塵もない、ただの朝が苦手な女の子の姿があった。


「ありがとう。でも寝ちゃダメだからね。朝ごはん作ってくるよ」


心底ホッと息を吐きながら、僕はいつものように朝食の準備に取り掛かった。


朝食を済ませて制服に着替え、二人で並んで登校する。

校門をくぐり、下駄箱から教室へと続く廊下を歩いていると――すれ違う生徒たち、特に女子生徒たちが、ヒソヒソとこちらを見て囁き合っていることに気がついた。


『ねえ、あんなカッコいい人うちの学年にいたっけ?』


『うそ、よく見て。あれ瀬名君じゃない?』


『えっ、瀬名君ってあんなに雰囲気違ったっけ……?』


「なんか、今日やけに見られてる気がするんだけど……僕、寝癖とかついてるかな?」


「いいえ。琥珀さんの見た目が洗練されたせいです。堂々としていてください」


隣を歩く翡翠さんが、澄ました顔でそう言い切る。むず痒いような視線を浴びながら、僕は逃げるように教室へと駆け込んだ。


朝のホームルーム前。僕たちは氷室先生のデスクへ向かい、スマートフォンの画面を提示した。夕暮れの展望デッキで撮った、僕と翡翠さんのツーショット写真だ。


氷室先生は腕を組み、静かな視線で写真と僕たちを交互に見比べる。


「……ふん。親睦の証明としては及第点だ。瀬名、少しはマシな身なりになったな」


「あ、ありがとうございます」


「とはいえ、これはただの基礎課題に過ぎない。これから本格的なカリキュラムが始まる。今の結果に満足せず、気を抜かずについてこい」


淡々と告げるその態度は、冷徹でありながらも、生徒の成長を的確に見極めているような底知れない凄みがあった。


無事に課題を提出し終え、午前中の授業をこなしていく。

そして待ちに待った昼休みの時間がやってきた。


僕たちは教室を出て、このクラスの生徒だけが利用できる専用の学食へと向かった。いつものように、僕、翡翠さん、黒峰さん、綾瀬さんの四人でテーブルを囲んで昼食をとっていた時のことだ。


「それにしても、朝から女子たちがうるさかったわね。『瀬名君がカッコよくなってる』って」


日替わりランチをつつきながら、黒峰さんがジト目で僕を見てくる。


「私たちは土曜日に一緒に買い物したからもう見慣れたけど、急に垢抜けたから他の連中がざわついてるじゃない」


「あはは……なんだか居心地が悪くてさ」


「ふふっ。でもぉ、良いことだと思うよ。琥珀君、とっても似合ってるものぉ」


綾瀬さんがおっとりとした口調で微笑んでフォローを入れてくれる。

そんな和やかな空気の中、隣からすっとお茶のペットボトルが差し出された。


「琥珀さん、お茶をどうぞ。筋肉痛の修復にはこまめな水分補給も必要ですから」


「あ、ありがとう、翡翠さん」


僕が自然に受け取った瞬間――ガタンッ!! と、黒峰さんが勢いよく立ち上がった。


「……は? 今、なんて?」


黒峰さんの目が、獲物を見つけた鷹のように鋭く見開かれている。


「こ、琥珀、さん? 翡翠、さん……? ちょっと待ちなさいよ! いつからそんな下の名前で呼び合う仲になったのよ! 土曜日に別れてから日曜の間で何があったわけ!?」


バンッ! とテーブルを叩いて身を乗り出してくる黒峰さんに、僕はタジタジになって言葉を詰まらせた。


「いや、土曜日に残って二人で親睦課題の写真を撮った時に、もう少し距離を縮めようってなって……」


「距離縮めすぎでしょ! なに筋肉痛って!? どこまで親睦深めたのよ!」


あらぬ誤解で顔を真っ赤にしている黒峰さん。だが、その鋭い視線が、不意に翡翠さんの胸元にピタリと止まった。


「……ちょっと、あんた。その首についてるそれ、何?」


黒峰さんが指差したのは、制服の襟元からチラリと覗く、華奢でシンプルなシルバーのネックレスだった。

翡翠さんはそのシルバーのトップにそっと指先で触れる。彼女は決してニヤニヤと笑ったりはしない。ただ、極めて真面目な顔つきのまま、どこか誇らしげに言い放った。


「これですか。これは土曜日の夜、琥珀さんが私に似合うからと、ご自身の『自腹』でプレゼントしてくれたものです」


「はああああああっ!?」


黒峰さんの絶叫が、クラス専用の学食に響き渡った。

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