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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第20話:New Distance

イオンモールを後にした僕たちは、再び東北本線に揺られ、JR仙台駅で電車を降りた。

駅の西口を出てペデストリアンデッキを渡り、そのまま仙台ロフトへと向かう。


「……瀬名さん。見た目を整えるのは服や髪だけではありません。土台、つまり肌や細部のケアへの投資も不可欠です。こちらへ」


コスメフロアの色とりどりのボトルが並ぶ棚の前で、宵待さんは不意に僕の正面に立ち、至近距離で僕の顔を覗き込んだ。


「失礼します」


彼女の細く白い指先が、僕の頬、そして眉の端へと触れる。

優しく、確かめるように肌を滑るひんやりとした感触に、僕の心臓がまたしても大きく跳ねた。


「……やはり、少し乾燥していますね。それに、眉の輪郭や顔の産毛も少々手入れが行き届いていません」


宵待さんは的確なスキャン結果を報告するように、淡々と告げた。

「今は良いですが、将来を見越して今からケアすべきです。このクレンジングバームで汚れを落とし、導入化粧水と乳液で蓋をします。それから、眉の形や産毛を綺麗に整えるための、フェイス用の電気シェーバーも追加しましょう。……いいですね?」


「は、はい。おっしゃる通りにします……」


至近距離での視線と怒涛の美容指導に耐えきれず、僕は言われるがままにスキンケア一式と電気シェーバーを買い物カゴに入れた。

そのままレジへ向かおうとした時、ふと通りかかったアクセサリーコーナーで、僕の足が止まった。


ガラスケースの中に、華奢でシンプルなシルバーのネックレスが飾られていた。

過度な装飾や宝石などは一切なく、無駄を削ぎ落とした流線型のモチーフが、照明を受けて静かで澄んだ光を放っている。


(……この凛とした輝き、宵待さんに似合いそうだな)


髪の色がどうとか、AIだからとか、そういう表面的なことじゃない。このまっすぐで洗練されたデザインは、彼女の持つ空気感そのものに、ぴったりと馴染むはずだ。


僕は少しだけ早歩きになり、宵待さんが別の棚を見ている隙に、そのネックレスを指差して店員さんに小箱へ入れてもらった。学校から支給されているお金に頼るのではなく、僕自身の財布からきっちり自腹を切って、スキンケア用品と一緒に素早く会計を済ませた。


すっかり暗くなった仙台駅へと戻り、夕食はエスパル仙台の地下にある『仙台ステーションオイスターバー』で取ることにした。


落ち着いた照明の下、運ばれてきた牡蠣とシーフードの料理を前に、僕は今日一日ずっと胸に溜めていた言葉と、ポケットの中に忍ばせていた小さな箱を取り出した。


「……あの、宵待さん。今日の買い物も、さっきの化粧品やシェーバーも、真剣に選んでくれて本当にありがとう」


「礼には及びません。パートナーとして当然の――」


「これ、今日のお礼。受け取ってほしいんだ」


僕がテーブル越しに小さな箱を差し出すと、宵待さんは目を丸くして言葉を切った。

「……これは?」


「さっき、ロフトで見つけて。その澄んだ輝きが、絶対に宵待さんに似合うと思って。……あ、ちなみに学校から支給されてるお金じゃなくて、ちゃんと僕の自腹で買ったやつだから安心して」


おそるおそる箱を開けた彼女は、中に入っていた、静かな光を放つシンプルなシルバーのネックレスを見て、小さく息を呑んだ。


「……っ。こんな、気を使っていただかなくても……」


「僕が贈りたかっただけだから。……それより、これからは、君のことを下の名前で呼んでもいいかな?」


宵待さんの手が、ぴたりと止まった。

彼女は箱の中のネックレスと僕の顔を交互に見つめ、ゆっくりと顔を上げる。


「……苗字で呼ぶのは、相互理解を深めるパートナーとして、少し距離がある気がして。いきなり呼び捨てはハードルが高いから、まずは、さん付けで」


「…………」


沈黙が流れる。もしかして、少し馴れ馴れしすぎただろうか。

断られるかもしれないと思ったその時、彼女は小さく、けれどはっきりと頷いた。


「……許可します。私も、瀬名さんのことを名前で呼びたいと思っていましたから」


「えっ、本当に?」


「……。食べてしまいましょう、琥珀さん。冷めると味が損なわれますよ」


彼女は少しだけ耳の端を赤くして、ネックレスの箱をそっと両手で大切そうに包み込みながら、初めて僕の名前を呼んだ。

新しくなった自分の姿や服よりも、その一言の方が、僕の体温をずっと高くしているような気がした。


「……そうだね、翡翠さん」


僕が微笑み返してその名前を口にすると、彼女は照れ隠しのように視線を落とし、小さく頷いた。


「……はい」


外の夜風はまだ少し冷たいはずなのに、向かい合って食事をする僕たちの間には、どこか春のような温かい空気が流れていた。

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