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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第1話:Awakening

視界の端から、刺すような白い光が入り込んできた。

重い瞼を押し上げると、見覚えのない白い天井が広がっている。


鼻を突くのは、あの鉄の匂いではない。清潔で、無機質な消毒液の香りだった。


(……ここは、どこだ?)


周りを見渡せば、整然と並ぶ医療機器と、規則的な電子音。消去法で、ここが病院だということだけは理解できた。

だけど、自分の体が自分のものではないみたいに重い。指先ひとつ動かすのにも、泥の中を掻き分けるような労力を要した。


「……あ」


枕元に垂れ下がった自分の髪を見て、喉が震えた。視界を遮るほどに無造作に伸びた、長い黒髪。鏡の中には、幽霊のように痩せ細った一人の少年の姿があった。


自分の顔すら、初めて見る他人のように思えた。

説明によれば、僕は三年の間、眠り続けていたらしい。小学校の五年生から、中学三年生の夏まで。その空白の間に、僕の世界は作り変えられていた。


「君の叔父さんの友達だ。彼から頼まれてね」


病室を訪れた男は淡々と事務的に告げた。

両親は僕がもっと幼い頃に他界しており、それ以来、世界を飛び回る叔父の扶養に入っていること。代わりに用意されたマンションの鍵と、当面の生活費が入った通帳を渡された。


思い出そうとしても、脳の奥には真っ白な霧が立ち込めているだけだ。

瀬名琥珀という自分の名前すら、記号のようにしか感じられない。

昨日までどんな服を着て、誰と笑い合っていたのか。**「両親はもういない」**という事実さえ、どこか遠い国の出来事のように現実味がなかった。


数ヶ月に及ぶ過酷なリハビリを経て、僕は秋から中学校へ復学した。

日常生活において、最小限の動作をこなせる程度までは回復していた。172センチという身長は同年代より高かったが、筋肉が落ちきったその体は、数字以上に細く、頼りなく見えた。


だが、そこで奇妙なことが起きた。

教科書を軽く眺めただけで、内容が吸い込まれるように頭へ定着していくのだ。三年の空白などなかったかのように、テストでは誰よりも高い点数を叩き出した。


「……また瀬名かよ」


「三年も寝ててこれって、マジで不気味なんだけど」


その「異常なまでの効率」は、周囲との溝をさらに深めた。

自分という存在が、中身のない空っぽの器になったかのような空虚さを抱えたまま、僕はただ機械的に正解を並べるだけの日々を過ごした。


そんなある日、郵便受けに届いた一通の「招待状」が、僕の時間を再び動かし始める。


『国立宮城野高等学校・特待枠への招待状』


一、在学期間中の衣食住の完全保障、および実験参加に対する多額の報奨金の授与。

二、日々の成績評価に応じた大学への特別枠入学の確約。ならびに進学時の学費の国            

  庫全額保証。

三、実験期間中、パートナーとなるAIとの共同生活を義務付ける。

四、本実験の詳細に関する一切の他言を禁ずる。違反が発覚した場合、本人およびそ  

  の情報を受け取った者を、卒業時まで政府管理下における軟禁処分とする。

五、……


「……AIエーアイ?」


その文字を目にした瞬間、僕の奥底が、騒がしく波立った。

恐怖か、嫌悪か、あるいはもっと別のなにかか。心だけが警鐘のように激しく脈打っている。

この「ざわつき」の正体を知るには、行く以外の選択肢はなかった。


僕は、鬱陶しく伸びた前髪を後ろで纏めてハーフアップにすると、その招待状を強く握りしめた。

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