第17話:Fashion War
慣れない買い物と着替えを終えた頃には、時計の針は正午を回っていた。
広い店内を歩き回ったせいか、僕の腹の虫が遠慮のない音を立てる。
「……瀬名さん。おなかがすきました。食事にしませんか」
「賛成。フードコートに行ってみようか」
家族連れやカップルで溢れかえる巨大なフードコート。
フロア全体に漂う香ばしいソースの香りに、空腹が刺激される。僕たちは「山盛りローストビーフ丼」と「彩り野菜のガレット」を注文し、空いている席を確保した。
「……すごいな、これ。写真で見るより迫力がある」
「ええ、とても美味しそうです。……せっかくですから、食べる前に例の課題用の写真をここで――」
宵待さんがスマホを取り出そうとした、その時だった。
「あ、翡翠さんじゃん。……ってことは、えっ、横にいるの、あんた琥珀!?!?!?」
背後から響いた驚愕の声。
振り返ると、黒峰さんが綾瀬さんの手を引いて固まっていた。黒峰さんは新しい服に身を包んだ僕の顔を至近距離で覗き込み、目を白黒させている。
「え、マジで!? 髪切ってハーフアップにして……服も全然違う! 超かっこいいじゃん!」
「本当……琥珀くん、すごくかっこよくなったわねぇ……」
二人のあまりの勢いに、僕はたじろぐ。
隣を見ると、宵待さんは「……黒峰さん、綾瀬さん。私たちは今、食事の最中です。それに課題の打ち合わせも」と、明らかにテンションを下げて低速モードに入っていた。
「えー、いいじゃん減るもんじゃないし! 何してたの?」と聞かれ、服を探していたことを伝えると、黒峰さんの目が悪戯っぽく輝いた。
「へぇー。じゃあさ、あたしたちも琥珀に似合う服選んであげる! 三人で誰のコーデが一番か勝負しようよ!」
宵待さんは「……私一人で十分なのですが」と小声で不満げに零したが、結局なし崩し的に、食事を終えた僕たちは再びメンズフロアへ戻ることになった。
三人は僕を「素材」にして、火花を散らして競い合った。
黒峰さんは琥珀色の瞳を強調するテラコッタカラーのブルゾンを。綾瀬さんは黒髪に映える柔らかなアイボリーのニットを提案した。
そして最後に、宵待さんが提示したのは、洗練されたダークブラウンのカーディガンに、オフホワイトのバンドカラーシャツを合わせた、落ち着きのあるスタイルだった。
「黒髪と琥珀色の瞳には、温かみのあるアースカラーが最も自然に馴染みます。あなたの持つ透明感を引き立てつつ、上品にまとまる最適な組み合わせです」
三つの選択肢を前に、僕は言葉を失った。
(三人とも、僕の容姿や雰囲気を完璧に計算して服を選んでいる。女の子のファッションセンスって本当にすごいな……)
僕はただただ感心するしかなかった。少し悩んでから、僕は宵待さんの選んだ一着を指差した。
「……やっぱり、宵待さんの選んでくれたのが一番しっくりくるかな。さっきネイビーの服も選んでもらったし、この落ち着いた感じもすごく綺麗だと思う」
「あーっ! 負けたー! 悔しい! 本気で選んだのに!」
「残念……でも、翡翠ちゃんのセンス、流石だわぁ」
悔しがる二人を前に、それまで沈んでいた宵待さんの表情が一気に晴れ渡った。
「当然の結果です。私のパートナーですから」と澄ました顔で言い放つ彼女だったが、僕が試着室で着替えて戻ってきた時、彼女が背を向けて小さくガッツポーズをしていたのを、僕は見逃さなかった。
結局、二人が選んでくれた服も全部購入し(荷物はかなりの量になったけれど)、僕たちは連れ立って次の目的地へ向かうことにした。
「あーあ、負けちゃった! でもまあ、琥珀がかっこよくなったのは認めるわ!」
黒峰さんがカラッと笑う。
「ねえ、せっかくこうして四人で会ったんだし、このまま『VS PARK』に遊びに行かない? 琥珀の体力づくりも兼ねて、みんなでワイワイやろうよ!」
「あ、いいわねぇ。みんなで遊んだら絶対楽しいよぉ」
綾瀬さんも両手を合わせて賛成する。
宵待さんは「私たちの課題はあくまで二人での親睦ですが……」と少し迷ったようだったが、僕が「せっかくだし、一緒に行こうか」と頷くと、「……分かりました。親睦の対象が広がるのも悪くはありません」と静かに同意してくれた。
こうして僕たち四人は、モールの奥にあるバラエティスポーツ施設へと足を向けた。




