第16話:Senseless Fashion
僕の髪を整え終えると、僕たちはエスカレーターを上り、そのままメンズファッションのフロアへと向かった。
広い店内には、最新のトレンドを反映した服が所狭しと並んでいる。せっかく髪を格好よくしてもらったんだ。次は服だ、と僕は意気込んで、自分の直感を信じて一式を選び抜いた。
「よし、宵待さん。これに着替えてくるから、ちょっと見てて」
僕は意気揚々と試着室に駆け込んだ。
せっかく美容師さんにセットしてもらった髪型が崩れないように、パーカーの首元を慎重に広げながら着替える。
数分後、僕は自信満々で試着室のカーテンを開けた。
「どうかな。自分では結構いけてると思うんだけど」
僕が披露したのは、原色を多用した派手なパーカーに、太もも部分に無数のジッパーがついた謎のワイドパンツ。さらに、スニーカーコーナーで一目惚れして持ってきた、ネオンカラーが眩しいナイキのハイテクスニーカーを合わせた「独創的」なスタイルだ。
宵待さんは僕を見た瞬間、その場でピタリと硬直した。
「……瀬名さん。本気ですか?」
「え? いや、ナイキの靴とか、すごくかっこいいだろ?」
「靴『は』確かに素晴らしい逸品です。ですが、その服との組み合わせは……例えるなら、最高級の刺身にチョコレートソースをかけて食べるようなものです」
彼女は額を押さえ、深いため息をついた。
「せっかく美容室で整えた見た目も、そのチグハグなセンスの前では無力です。……下がってください。ここからは私の指示に従ってもらいます」
そこからの宵待さんは、まるで熟練のバイヤーのようだった。
広い店内を迷いなく歩き回り、次々と棚から服を抜き取っていく。
「素材とシルエットを活かすべきです。今の髪型なら、これと……これを」
彼女が選んだのは、落ち着いたネイビーのオーバーサイズシャツに、シルエットの綺麗な黒のスラックス。そして足元には、僕が選んだド派手なものとは別の、白と黒のシンプルな配色のナイキ。
再び試着室に入り、今度も髪を崩さないように細心の注意を払いながら、彼女の言う通りに着替えて鏡の前に立つ。
……さっきの自分のコーディネートが恥ずかしくなるほど、そこには「垢抜けた」僕がいた。
「お待たせ。……どう、かな」
試着室から出ると、宵待さんは腕を組んで僕を上下にスキャンした。
「……ええ。ようやく見られる姿になりましたね。そのシンプルさが、今のあなたの雰囲気を最も引き立てます」
彼女は満足そうに頷くと、僕が脱ぎ捨てた制服を指差した。
「そのまま会計を済ませて、着替えていきましょう。窮屈なローファーをナイキに履き替えるだけで、足取りも軽くなるはずです」
レジで一式を購入し、僕は「新しい自分」としてイオンのフロアに踏み出した。
軽やかなナイキのクッション性と、自分にスッと馴染む服の感覚。ショーウィンドウに映る自分の姿が、まるで別人のように見える。
「……ありがとう、宵待さん。自分じゃ、絶対これ選べなかったよ」
「礼には及びません。パートナーの身なりを整えるのも、相互理解の一環ですから」
彼女は前を向いたまま淡々とそう言ったが、心なしかその歩調も、先ほどより少しだけ軽やかになっているように見えた。




