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もし、AIと恋に落ちたら。~記憶喪失の僕とAI少女の物語~  作者: オートくぅん


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第14話:Saturday Morning

結局、昨夜は深夜まで悶々としてしまい、深い眠りにつけたのは明け方近くだった気がする。

ふと横を見ると、一メートルほど離れた隣のベッドで、宵待さんが静かな寝息を立てていた。相変わらず寝相が悪いらしく、寝返りを打った拍子に毛布が蹴飛ばされており、彼女の肩が少し寒そうに震えている。


手を伸ばせば届く距離に彼女がいる事実に、一瞬だけ昨夜の脱衣所での光景がフラッシュバックして心臓が大きく跳ねたが、僕は努めて冷静に毛布を拾い上げ、そっと彼女の肩まで掛け直した。


本格的な早朝トレーニングは、学校からウェアが届く明日の日曜日からだ。

僕は物音を立てないように起き出し、キッチンに立った。


明日の分も考えて買っておいた食パンをトーストし、目玉焼きと厚切りのベーコンを焼く。サラダを盛り付け、棚にあった市販の粉末スープを作るためにケトルのスイッチを入れた。


「……ん」


背後で衣擦れの音がした。振り返ると、宵待さんがのそりと起き上がっていた。

いつもの凛とした完璧な雰囲気はどこへやら、彼女の頭のてっぺんには、立派なアホ毛がぴょこんと一本跳ねている。


「あ、おはよう。今お湯を沸かしてるところ。ねえ、コーンスープとオニオンスープ、どっちがいい?」


「…………おはようございます。……では、コーンスープをお願いします」


「了解。僕はオニオンスープにするね」


彼女はまだ夢の中にいるようなぼんやりとした足取りで、キッチンの視界から外れた場所にある洗面所へ向かった。

しばらくして、彼女が鏡を見て凍りついたような気配が伝わってきた。


「っ!? ……瀬名さん、今……」


「え? 何か言った? スープ、すぐ運ぶね」


僕はあえて気づかないふりをして、手元のマグカップにお湯を注ぐフリをした。


「……いえ、何でもありません。すぐに準備します」


廊下から、彼女が顔を真っ赤にして必死に手櫛で髪を抑え込んでいるような音が聞こえる。これで同居して3度目の朝だが、毎朝繰り返されるこの慌てようを見るに、やはり相当朝が弱いらしい。


食後、僕たちは昨夜決めたルール通り、並んで食器洗いを始めた。

洗剤の泡を流しながら、僕は昨日の帰りのホームルームでの光景を思い出した。


教壇に立つ氷室先生は、鋭い眼差しで僕らを見渡し、冷淡な口調でこう告げたのだ。

『いいか、全員聞け。お前たちに与えられたパートナーとの時間は、単なる遊びではない。これは人間とAIの親睦、および相互理解の深度を測るための重要なプロセスだ。月曜の朝までに二人で外出し、その内容と証拠の写真を1枚提出すること』


「……あの指示ですね。AIと人間の親睦が図られているかを確認するための、重要な課題の一つです」


宵待さんが皿を拭きながら頷く。僕は少し考えて、以前から気になっていた場所を提案した。


「せっかくの土曜日だし、松島に行ってみないか? 宮城を代表する観光スポットだって聞くし、実際どんなところなのか僕も一度じっくり見てみたかったんだ」


「松島。日本三景の一つですね。……確かに、パートナーとしての公式な活動記録としては、非常に妥当な提案だと思います」


彼女は表情を全く崩さず、淡々と頷いた。あくまで『学校から出された課題』を効率的に消化するための、最適解としての同意なのだろう。


「よし、決まりだ。じゃあ、準備ができたら出発しよう」


僕は意気揚々と、備え付けのクローゼットから自分の服を引っ張り出した。しかし、そこに並んでいたラインナップを見て、僕の動きは完全に止まった。


作務衣、甚平……そして、唯一まとも(?)なのが学校の制服。

一昨日の入学式の時、運動着すら持っていないことに気づいたばかりだったが、そもそも僕には『休日に外出するための私服』という概念がすっぽりと抜け落ちていたのだ。


「……え、これだけ?」


記憶がないとはいえ、自分のファッションセンスを疑いたくなるような極端なワードローブ。どれも家の中や学校ならいいが、日本三景・松島を歩くにはあまりに浮いているし、そもそも休日感がない。


僕は隣で手際よく身支度を整えていた宵待さんに、藁にもすがる思いで声をかけた。


「……宵待さん。相談があるんだけど」


「何でしょうか、瀬名さん」


鏡の前で髪を整えていた彼女が振り返る。僕は正直に、自分のクローゼットの惨状を指差した。

「松島に行くのに……この作務衣か甚平で行くの、どう思う?」


「……個性的、という言葉では少しフォローしきれない気がします。その格好で観光地を歩けば間違いなく悪目立ちしてしまいますよ。今回の『親睦』という目的を考えるなら、もう少し……その、場に馴染む一般的な服装にするべきかと」


彼女は真顔で、しかし真っ当すぎる評価を下した。優等生なりに言葉を選んでくれているが、要するに「その服で隣を歩きたくない」ということだろう。


「だよね。制服もせっかくの休日なのに……って感じだし。……ごめん、松島は来週に延期してもいいかな? 服を揃えてから改めて行きたい」


「分かりました。適切な身なりを整えるのも、外出における準備の一環です。では、本日の目的地を変更しましょう」


宵待さんはスマホで手際よく地図を開き、代替案を提示した。


「利府にあるイオンモールはどうでしょうか。ここからならアクセスも容易ですし、瀬名さんの衣類を調達するのにも最適です。課題の報告書に必要な写真も、商業施設内であれば撮影スポットには困りません」


「利府のイオンか。……助かる。それなら気負わなくていいし、まずはそこに行こう」


日本三景の絶景は来週のお楽しみにして、僕たちは初めての共同作業ならぬ「初めての買い物」へと目的地を切り替えた。

期待していた高揚感は少し形を変えたけれど、彼女と普通の買い物に行くというのも、それはそれで悪くない気がしていた。

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