表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

推しの店員さんへ

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/03/02



推しの店員さんへ。


あなたに恋をしたのは百日紅の花が咲く季節でした。


初めての移住と一人暮らし。

夏場

栄養失調と睡眠不足で弱っていく体と精神力。


あなたの存在は

何気ない日常の中で

癒しであり心の支えでした。


どこを好きになったのかと

問われても私にも分からないのです。

けれど確かに好きがあったのです。


仕事帰りに行く薬局。

食材が安く買えるので通っていました。


肩ほどまで伸びたサラサラの黒髪ウルフヘア。

前髪は目が隠れるほど長かった。

そして、控えめなピアスにエプロン。

一回り歳下の青年。


生涯忘れることはないでしょう。


会話は業務内容だけ。

最初は可愛い人だなと思うだけでした。


いつの間にか居ると嬉しくなって。

会える日は幸せで。

会いたさに泣く日もありました。


推しの店員さん。

私の心の中のあだ名はエンジェル。


最初はこの感情に名前を付けることもしなかった。

気付かないふりをしていたんです。

後から気付きました。

私はあなたに恋をしているのだと。

認めざるを得なかった。

だって会いたくて泣くなんて恋をしていなかったら説明が付かないでしょう。

それが恋でないのならその感情を人は何と名前を付けるのか。


あなたはそれを知ったら

笑うでしょうか目を背けるでしょうか。

困らせたくなかった。

というのが私が好きだと言わなかった一番の理由です。


あなたの周りはキラキラと輝いていました。

薔薇の花が見えました。


あなたにそう言ったら

笑ってくれるでしょうか。


百日紅の花がいつもより綺麗に見えたのは

きっとあなたに会えた後に見たからでしょう。


百日紅の花が愛しく見えたのは

きっとあなたに会えた後に見たからでしょう。


生まれて初めて

百日紅の並木道が愛しく感じました。


そして引っ越しをすると決まった時。

手紙とお菓子を差し入れで渡しました。


化粧をしてワンピースを着て

少しでもみすぼらしく見えないように。

ただでさえ私は歳上ですから。


いつもカウンターからレジへカゴを運んでくれることを知っていたので

その日はわざとカゴを使いました。

そのタイミングで話しかけました。


「あの、これ・・・差し入れです。」


「さしいれ?」


エンジェルはキョトンとした表情で首を傾げた。


私がこくこくと頷くと


「え!いいんですか!?ありがとうございます!!」


と喜んで受け取ってくれた。


可愛い過ぎてキュン死にするかと思いました。

死ぬ間際にエンジェルを目に焼き付けておけるならば

本望です。


手紙には

推しの店員さんへ。

この薬局が日常の支えになっていたこと。

引っ越すことになりこの場を離れること。

勝手ながらあなたに癒しをもらっていたこと。

昼月キオリより。

そう綴りました。


お互いに名前も年齢も知らない。


10年振りの片想いだった。


年齢のこともあったし

嫌われたくなくて

実名で書く勇気が無かった。


ペンネームを使ってようやく書き終えた手紙。

アドレスも書けなかった。

書いても返事が来ないと思ったから。


震える手で手紙を書き

震える足であなたの元へ向かった。


もしかしたら

受け取ってもらえないかもしれない。

キモいって言われるかもしれない。

色んな不安を抱えて渡しました。


話したことないのに恋はありえない。

どこかで聞いたセリフ。

けれど

自分がそれは恋だと名付けたらそれは恋。

恋と名付けれるのは自分だけだと思うのです。


今会ってしまったら

私はきっとあの日言えなかった想いを伝えてしまうでしょう。

大好きで仕方がないときっと泣きながら叫んでしまうでしょう。


会えなくなってからも

こちらの街では

しばらく百日紅の花が咲いてました。

あの日がまだ続いているようで嬉しかった。


いつか

毎日あなたを思い出す今が

百日紅の花を見た時だけ思い出す。

そんな風になれたらいいな。


恋をしてからたった一年足らず。

まだ想いはずっと残ってる。


最後に会えた日。

「ありがとうございました。場所が変わっても頑張って下さい。」

そう言ってエンジェルは最後に微笑んでくれました。


その瞬間

一番恋に落ちました。


その日のレシートはまだ財布の中。

あの日の忘れられぬ微笑みとともに

そっと大事に仕舞ってある。


私にもエンジェルはちゃんといた。

だってエンジェルは最後に微笑んでくれましたから。


もうすぐ百日紅の花が咲く季節がやってくる。

あなたに恋をしたあの季節が駆け足で。


世界で一番大好きな人。

世界で一番大切な人。

生きる喜びを与えてくれた人。

幸せな時間をくれた人。


駆け足で会いたくなる。

そんな人。


今でも会いたいと強く思う。

恋焦がれるほどにあなたに会いたい。

またあの街でまたあの笑顔を見たい。


けれどそれ以上に。


どうか笑顔でいて。

どうか幸せでいて。


あなたには笑顔が一番似合うから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ