オルゴールに眠る記憶(とき)
ここは──思い出の館。
人から忘れ去られた記憶だけが、
そっとオルゴールの中で眠っている。
その無数の思い出を管理しているのは、一人の老女だった。
「ねぇ……あなた」
棚に並ぶオルゴールを眺めながら、老女は静かに呟く。
「私はあと何人の思い出を救って、悲しい過去を幸せに変えたら……あなたに会えるのかしら?」
胸元で揺れる鍵型のペンダント。
それは、彼女が“時の管理人”である証。
昔、人と神が恋をした。
禁忌を破ったその愛は引き裂かれ、
彼は“時の狭間”の塔に囚われた。
彼を救えるのは、時を司る管理人ただ一人。
そしてその役目を負わされたのが、彼女だった。
愛する人の未来を取り戻すため、
彼女は今日もまた、誰かの思い出を癒し続けている。
『チリン……チリン……』
風鈴の音が、店先でかすかに揺れた。
一年中吊るされたその風鈴は、まだ人間だった頃──
恋人が買ってくれた、大切な思い出。
呪いで老いた姿のまま、老女はゆっくり歩み出す。
「いらっしゃいませ。ようこそ、思い出の館へ」
カウンターには、今日訪れた客の“忘れられた記憶”が
小さなオルゴールとなって現れていた。
彼女はそっと手を添え、優しく微笑む。
「さぁ……あなたの忘れた思い出は、なぁに?」
こんばんは。
こちらの作品もお読み下さり、ありがとうございます。
今回のラジオ大賞には二作品を応募したいと思い、もう一つの物語として書き上げました。
私はやはりファンタジーを書くことを大切にしているので、どうしても一作は“ファンタジー”で挑みたい──そんな思いから生まれた作品です。
この物語が、どなたかの心にそっと触れ、静かな余韻を残せたなら嬉しく思います。




