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一時停止はチートスキルに入るでしょうか?

作者: 緑茶騎士
掲載日:2025/10/06

初めまして。初投稿となります。

まだ未熟者ですが、よろしくお願いします。

「このままだと、我がグロイン家は爵位を剥奪されます!」


 一家揃っての夕食の席で長男チャールズは、勢いよくテーブルを叩き、食事中の父親に向かって怒号を響かせた。

 父、母、次男そして三男の僕は、兄チャールズの剣幕に手を止めたものの、すぐに食事を再開する。


「聞いているのですか! 父上!」

「だって仕方ないじゃないか。私はお爺さまと違って、領地を納める才能なんてないんだから」


(全くそのとおりだ)


 僕は目の前の料理を眺めながら、心の中で共感し頷いた。何故なら今夜の献立は、焼いた小魚一匹、具のないスープ、そしてパン一個。これがグロイン家のいつもの食事風景……いや魚があるだけいつもより豪勢ではある。

 父は昔から人付き合いが極端に苦手だ。

 社交界に呼ばれても眉間に皺を寄せたまま広間の隅に立ち続け、誰とも交流しない。領民との顔合わせも極力避けるせいで、優秀な人材は次々と他領に引き抜かれてしまう。 極度の人見知りが祟って、雇っている侍従や侍女とすら会話ができず、「何を考えているかわからない」と言われて、辞められたことも一度や二度ではない。


「そ、そういえば、ヘンリーはスキル鑑定の年だったな。予定日はいつだ?」


 父は強引に話題を変えようと僕に話を振る。

 チャールズはなおもガミガミと父に抗議していたが、流石に不憫になってきたので割って入ることにした。


「スキル鑑定は明日の昼、教会で行われるそうです」

「あら、もうそんな時期なのかしら」

「ヘンリーもスキル鑑定の年になったか、楽しみだな」


 チャールズと父のやり取りにうんざりしたのか、母アーシアと次男トーマスも話に加わってきた。


「チャールズは剣豪で、トーマスは何だったかしら?」

「母様、文才です」

「そうだった、文才だったわね。忘れてたわ」

「もう、忘れないでくださいよ」

「ふふふ、ごめんなさいね。それでヘンリーはどんなスキルがいいと思ってるの?」

「そうですね。チャールズ兄さんと同じ剣豪だったらいいなと思います」


──スキル鑑定。


 これは貴族や平民を問わず、十歳の誕生日を迎えると行われるスキル取得の儀式だ。開催されるのは春と秋の年2回で、僕は明日の秋の儀式に参加することになっている。

 貰えるスキルは選べず完全なランダム。完全に運である。なので同じスキルを持つ者が複数存在しても珍しくない。

 できれば剣豪が欲しい。

 何故なら三男である僕は、家が没落するかどうかに関係なく、成人したら家を出なければならないからだ。

 剣豪なら冒険者になって魔獣狩りをしたり、どこかの護衛をしたりと食い扶持には困らないからだ。

 そのためにチャールズ兄さんとの過酷な剣の訓練にずっと付き合ってきた。


「ご馳走様でした。明日は早いので先に寝ます。おやすみなさい」


 僕は目の前の食事を平らげると、自室に戻りベッドへ直行した。


「明日のスキル鑑定……楽しみだ」


 そう呟いて布団に潜り込むと、ヘンリーはすぐに眠りについた。




 翌日。

 教会には人だかりができている。十歳になる少年少女はスキル鑑定を受けに、その保護者達は見届けるために集まっていた。

 教会の中央には、大きな水晶玉が設置されておりすぐそばには神父が立っている。


「ではこれから、スキル鑑定を行います。子供達は一列に並んでください」


 神父の呼びかけに、周りの子どもたちは一斉に列を作り始める。その列に僕も加わった。


「では、この水晶玉に手をかざしてください。頭の中に声が聞こえてくるはずです。それがあなた授かったスキルです」


 神父様の説明が終わると、一人目の子供が手をかざす。虹色の光がふわりと水晶の内側に浮かび上がり、その変化を見た子どもは目を大きく見開いた。


「……あっ! ぼく剣豪だ! お父さんぼく剣豪だって」


 歓声と拍手が後ろから起こる。一人目を皮切りに、子どもたちは次々と手をかざし、自分のスキルを告げていった。


「私、料理人だぁ」

「オレは弓使いか……」

「ぼくは鍛冶だ!」

「……薬師って何?」


 周りの声を聞いているうちに、ついに僕の番が来た。緊張して少し手が汗ばんでいたけど、水晶玉にそっと手をかざす。すると頭の中から声が響き始め、次第に輪郭を持ってはっきりと聞こえてきた。


──スキル一時停止を取得しました。


(一時停止? 聞いたことないぞ)


 ぼんやり立ち尽くしていると、神父様が不思議そうに声をかけてきた。


「どうされましたかな?」


 遠巻きに見ていた両親も、僕の様子に気づいて駆け寄ってくる。


「あの……スキル一時停止と言われたんですけど神父様は何かご存じありませんか?」

「ああ……一時停止。そういう名のものもありましたな」


 そう言うと、神父様は近くの机から分厚い本を取り出し、ぱらぱらとページをめくり始めた。


「ええと……一時停止、一時停止。あ、見つかりました。一時停止は時間を止めるスキルですね」

「え? それだけですか?」

「それだけですね。なにしろ珍しいスキルですから、詳細詳は分かりません。それでは次の子が控えておりますのでお帰りください」


 あまりにもあっさりとした回答に、僕はぽかんとしたまま両親と教会を後にした。

 結局、一時停止スキルがどんなものなのか分からないままだった。



 帰宅して僕がまず最初にやったことは、授かったスキルの確認だった。

 とりあえず「一時停止!」と叫んだり、手をかざしてみたり、剣を振ってみたりしたけど……何も起こらない。


「大丈夫だよ、今は判らないけど時間が経てば判るようになるよ」

「今日はスキルを授かったばかりで、調子が悪いのよ。今日はもう休みましょ」


 父と母は僕のことを心配して励ましてくれた。


「剣の稽古、付き合うか?」

「私が何かスキルのヒントがないか、書庫から探してみるよ」


 長男のチャールズ兄さんと次男のトーマス兄さんは、気遣って元気づけようとしてくれてる。

 うちは貧乏貴族だけど、こういうときちゃんと心配してくれる家族がいるのは本当にありがたい。胸がじんわり熱くなった。




 それから数日経って、未だに一時停止スキルのことを考えていると、ようやく変化が起きた。


「……なんだこれ?」


 僕の目の前に、縦のラインが二本入ったスイッチが浮かび上がっている。

 どうやら「一時停止!」と心の中で強く念じると現れるみたいだ。

 興味本意で押してみるとポチッと音がする。


「何も起こらない。……これが僕のスキル? もしかしてこれだけ?」


 何度かスイッチを押してみたけど、やっぱり何も変化がない。

 世の中には【ハズレスキル】といわれるスキルがある。犯罪に特化したスキルや日常生活に役に立たないスキルとか……そういうスキルを授かって将来を絶望した人も過去にはいたらしい。

 一時停止もその一つではないのだろうか。でも神父様は時間を止めるスキルと言ってたしどうなんだろうか。

 とにかく、その日から暇があればスイッチを押してみることにした。何度も押していると、一日が終わるのが妙に早く感じるのは気の所為だろう。

 そしてスイッチを押し続けて数日後、ついに事態が動き出した。


──スキル一時停止がレベル2になりました。身体だけ一時停止が可能になりました。


 スキルを授かった時の声が、頭の中に流れ込んでくる。


(レベル2? 身体だけ一時停止?)


 聞き慣れない単語に戸惑ったが、考えるより先にスイッチを押してスキルを試してみた。


「……! 身体が動かない。これが本来の一時停止スキル。で、これ何の役に立つんだ?」


 とりあえず、自分のスキルについて徹底的に調べることにした。


 それで解ったのは──

 一時停止するのは自分だけ。

 スイッチを押すと、ちょうど10分だけ自分の時間止めて動けなくなる。

 時間を止めている間は何事にも干渉されず、動かされることがない。

 一時停止が解除されると痛みとか受けた衝撃が纏めて襲ってくる。


 一番最初にスイッチを押して何も起こらないと感じたのは、どうやら身も心も一時停止していたからのようだ。

 どうりで時間が早く感じるわけだ。


「何か実戦経験が欲しいな。今のままだと何に有効なのか判断できない」


 そう思いつつ、有効な使い道も見つからないままレベル上げだけ続けていった。




 そしてスキルレベルが3に上がってしばらく経った頃、ようやく一時停止スキルを試す機会が訪れた。

 グロイン領に魔狼が現れたのだ。

 魔狼は群れをなして森に住み着いたらしく、侵入した人間を手当たり次第に襲いかかっているという。

 近いうちにチャールズ兄さんの指揮で、戦える領民を集めて魔狼討伐作戦が行われる。僕はこの作戦に参加したくて、兄さんのもとに頼みにいった。


「何を考えているんだ! 死ぬかもしれないんだぞ!」

「ですが僕はもう13です。魔物に簡単にやられるほど弱くありません!」

「魔狼は常に群れで行動して、孤立した獲物を集中して襲ってくる。そうなったら大の大人でも助からん。そのくらい危険な魔物なんだ」

「わかっています。チャールズ兄さんに、やわな鍛え方をされてませんから」

「はぁ……絶対に離れるなよ」


 兄さんは大きなため息を吐くと、同行を許してくれた。

 初めての魔物討伐に胸が高鳴る一方で、緊張もあって心臓が落ち着かない。許可をもらった勢いのまま、兄さん達の作戦会議に参加した。

 作戦は意外と単純だった。

 魔狼のナワバリを囲むように包囲し、回り込まれないように一斉に襲撃する。それが今回の作戦であった。

 僕は領民達と一緒に武具の整理や回復薬の点検を済ませて、配置についた。そして討伐作戦をが始まった。


 魔狼討伐は至って順調だった。参加してる領民が強いのもあるけど、先陣をきって指揮をしながら剣を振るチャールズ兄さんが圧倒的に強かったからだ。

 魔狼の攻撃を誘い、紙一重で躱しつつ、首を一閃して切り落とす。その無駄の無い動きで一匹、また一匹とチャールズは魔狼を斬り伏せていく。

 僕はというと兄さんと領民が仕留め損なった魔狼に、トドメを刺すことしかなかった。

 そんなときだ。


「きゃああぁぁ! 誰か助けて!」


 魔狼の群れを半数にまで減らした頃、遠くから女性の悲鳴が聞こえてきた。

 兄さん達は、魔狼から目を離すことができない。ならば──。


「チャールズ兄さん、僕が行ってきます」

「待てヘンリー! 一人で行くな!」


 僕は兄さんの声を背に、悲鳴が聞こえてきた方向へ駆け出す。現場に着くと三匹の魔狼が女の子を取り囲んでいた。

 僕はすかさず斬りつけ、女の子と魔狼の間に飛び込むように入り剣を構え直した。


「ここは僕が何とかする! 君はここから逃げるんだ」


 女の子は何度も頷くと、全力で走ってこの場を去っていった。魔狼は女の子には気にも留めず、攻撃した僕を警戒している。


「僕が相手だ! かかってこい!」


 1対3の不利な状況でまともに相手する必要はない。兄さん達が来るまで、時間を稼げば十分だ。


「一時停止!」


 魔狼三匹が両足と首に襲いかかると同時に、一時停止スイッチを押した。

 一時停止スキルの発動中は、何事にも干渉されないし、動かされることもない。時間稼ぎにはもってこいなスキルだ。


(でもスキル効果がきれると、めちゃくちゃ痛いんだろうなぁ……)


 こうして僕と魔狼との地味な持久戦が始まった。



 持久戦を始めて30分以上経過した。未だに魔狼は、噛むのをやめずに唸り続けている。もう諦めてほしいんだが……。

 一時停止スキルは10分ごとに解除される。そのたびに激痛に襲われながらスイッチを押し直すのは、正直かなりつらい。

 だがそんな不安もようやく終わる時がきた。


「どけっ! ヘンリーから離れろ!」


 声が響くと同時に、兄さんと領民達が僕に取り付いていた魔狼を瞬く間に斬り伏せていった。どうやらナワバリにいた魔狼の討伐は終わったみたいだ。


「一人になるなと言っただろうが! 何を考えてるんだ」


 一時停止で動けない僕を、兄さんは鬼の形相で説教を始める。

 反論も避けることもできずに怒鳴り声を聞き続けていると、また頭の中にあの声が響いてきた。


──スキル一時停止がレベル4になりました。一時停止時間の調整が可能になりました。


(そういうのはもっと早く欲しかったな)


 そう心の中でぼやくと、新しく授かった時間調整でスキルを解除する。

 途端に魔狼に噛まれていた、首と両足に激痛が走った。


「うあぁぁ! いっった!」

「おい! 大丈夫か、ヘンリー!」

「かなり痛いですけど大丈夫です」

「怪我は?」

「スキルのおかげでありません。歯形はくっきりついてますけど」

「……無傷なのか、凄いな」


 先程までの説教はどこ行ったのか、今は僕のスキルに興味が移ったらしい。

 ふと重要なことを思い出す。


「魔狼に襲われてた女の子を逃がしたんですけど、無事でしょうか?」


 兄さんは親指を立て奥の方を指すと、そこには無事に保護された女の子の姿があった。


「……良かった、無事で」

「良かったじゃない!」

「痛っ!」


 安堵している僕の頭に、兄さんのげんこつが落ちてきた。


「お前も一歩間違えてたら、死んでたかもしれないんだ反省しろ」

「はい、すみませんでした」

「じゃあ、家に帰るぞ」


 そして僕らは街に戻り、みんなに魔狼討伐が無事終了したことを報告して帰宅した。




 魔狼討伐からしばらく経ったある日、いつものように剣の稽古をしていると、チャールズ兄さんが声をかけてきた。


「なぁ、ヘンリー。お前学校に行かないか?」

「学校? なんで?」

「国中から人が集まる王立学校なら、お前のスキルの事を知ってる人がいるかもしれない。それに見聞を広げることができれば、お前の将来の為になると思ってな」

「うちは貴族でも貧乏だよ。学校に行くお金なんてあるの?」

「お金のことは気にするな。そのあたりはちゃんと考えてある。で、学校行くか?」


 僕には家督を継ぐ権利がない。いつか独り立ちして家を出る身だ。兄さんもそれをわかった上での提案なんだろう。

 なら学校へ行くのも悪くないかもしれない。


「うん。行くよ、学校に」

「……そうか。じゃあいろいろ準備しないとな」




そして──。

 色とりどりの花が草木に咲き乱れる春の季節。

 荷造りを済ませ出発する当日に、家族みんなが門の前で見送ってくれていた。


「忘れ物はないか?」

「辛くなったら、帰ってきてもいいのよ」

「剣の訓練忘れるなよ」

「家のこと気にするな。しっかり学んでこい」


 父、母、長男、次男が、それぞれの言葉で背中を押してくれる。


「それじゃ、行ってきます」


 今日から新しい人生が始まる。

 王立学校──そこが僕の運命の出発点になる気がした。

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