31話 その瞳を、思い出させるから―セレスティアSide
前話、間違って字数少なく投稿していました! すいません!
修正済みですので、興味があったら覗いて見てください!
足が止まった。
その場所は遠かったのに。
それでもその輝きが視界に入った瞬間、目を奪われた。
その琥珀色の、宝石に。
「お姉さま?」
いきなり足を止めた私を不思議に思ったのか顔を覗き込んできたから、視線を思わず逸らした。
「……何でもない」
そう伝えても、信じてなさそうに首を傾げている。気まずい。
「セレス、興味あるの? さっき僕もチラッとだけ見たけど、とてもいいものばかりだったよ。宝石店みたいにしっかりした素材じゃないみたいだけどね。平民向けの売り物らしい」
後ろにいる殿下がそんなことを教えてくれたけど……そうじゃない。別に宝石自体に興味があったとかじゃなくて……。
クイッと手を引っ張られて、ついそちらを見てしまうと、目元を緩ませて微笑んでいる姿が視界に入ってくる。
「お姉さま、一緒に見ましょう?」
「私は……別に……」
「じゃあ、私が見たいです。付き合ってくれませんか?」
そうやって、いつもみたいに我儘を言ってくる。こっちのことを見透かしているような我儘を。断れない笑みと一緒に。
……でも今は殿下もいる。勝手なことをするのはやっぱり――と殿下の方も見てみるけど。
「殿下、いいですよね? ちょっと見てみたいです」
「うん、いいよ。あんまり大人数で押しかけても困るだろうから、僕たちはちょっと離れてるね」
――と、あっさり許可が出た。スクルはいつのまにか殿下に餌付けされているし。
これは、もうこのままあのお店に行く流れだ。
「行きましょう、お姉さま!」
「……走らなくて大丈夫だから」
私の手を引っ張って、走りだそうとするから思わず止めた。人も多いからぶつかると転んでしまうかもしれない。「はーい」と嬉しそうに笑いながら、私の一歩先を歩いていく姿。
別に、宝石に興味があったわけじゃない。
ただ、そう。
ただ、この子の瞳の色だ、と、ちょっと思ってしまっただけで。
手をギュッと離れないように強く握り返すと、「どんなのがあるんでしょうね!」とまた振り返って笑ってくる。
手の温もりと、その向けられる笑った顔。
まっすぐ見てくるその琥珀色の瞳。
胸の奥がざわついて、モヤモヤとした感情でいっぱいになる。
もうずっとこうだ。
この三、四年、ずっと一緒にいる。
向けられるその笑顔が幸せそうで、何も言えなくなる。
その度に、胸の奥が苦しくなる。
理由が分からなくて、モヤモヤする。
モヤモヤするけど……どうしてか目を離せない。
ずっと。
この三、四年ずっと。
モヤモヤは増えるばかりで。
なのに、この温もりに、触れたくなる。
いつも笑顔を見るたびに、懐かしさを感じる。
いつも温もりを感じるたびに、胸がギュッと苦しくなる。
知らないはずの懐かしさを、呼び起こす。
知らないはずの苦しさを、運んでくる。
この温もりは、私を安心させてくる。
その安心を、私は手離せないでいる。
表情がコロコロ変わるたび、どうしたらいいのか分からなくなる。
どうしてほしいのかも、やっぱり分からないでいる。
でも、最後には絶対この子はこの笑顔を向けてくる。
そのたびに、私は安心する。
今も私を引っ張ってくれる。
私がやれないことを、この子は率先してやってくれる。
いつも一人じゃなくて、私を引っ張る。
だけど、私はどうしたらいいのか分からない。
この子の為の正解が、私には分からない。
いつも安心をくれるこの子の為に、何が出来るのかが、分からない。
「ふああ」
お店の前に着くと、目の前にある机の品々を見て感嘆の声を上げていた。確かに色々な種類があって、デザインもセンスがあるように思える。全部に小さい宝石がついているのが特徴的だった。
「これ、本物ですか?」
「あはは、本物ですよ」
店主さんが気さくに応えてくれていた。私たちみたいな貴族相手でも、こんな風に応対してくれるのはすごいなと素直に思う。
さっきの子は違かった。
さっき具合悪そうだったからベンチで休んでいたら、知らない子に絡まれた。私を平民だと思っていたみたいで、どこか上から目線でスクルが欲しいとか言っていた。
普通の貴族はこんな風に平民相手に偉そうにするのだろうか? と疑問に思っていたら、何故かこの子は怒っていた。いつもスクルと喧嘩するのとは違う。雰囲気がもう違かった。
段々とこの子の纏う空気感が圧迫されて、相手の子はどんどん怯えた表情になっていた。すぐに殿下が来て、彼女はどこかへ行ってしまったけど。
一応いつもみたいに「喧嘩はダメだから」と伝えると、見るからに落ち込んでいた。
何に怒っていたのか分からなくて、そして何で落ち込んでいるのかも分からない。
分からないから何も出来なくて……そんな自分がちょっと嫌になった。
出来ることはいつもみたいに手を握ることぐらいで、
その温もりで私の方が安心を与えられて、
モヤモヤとした感情が、やっぱり胸の中に広がった。
「お姉さま、本当に可愛いものばかりですね!」
今はもうさっきみたいに落ち込んでいない明るいいつもの表情だ。お店の人と話していた姿ももういつもどおり。
ちょっとホッとしつつ、「そうね」と返して、ふと自分の視界にさっき目についたアクセサリーが入ってきた。
これ……この色。
自然とそのネックレスを手に取って見てしまう。太陽のデザインみたいで、真ん中に小さい琥珀色の宝石がついている。
「それ、気に入ったんですか?」
「っ……そういうわけじゃ……ないけど……」
そんなことを言われたから、思わずそのネックレスを机の上に戻した。ちょっと今は顔を見れない。まさか瞳の色を想像してたなんて言えない。言ったら言ったで、どんな反応するのか分からないし。
「わぁ……」
聞いてこないでと心の中で思っていると、隣からまた感激しているような声が上がった。どうやらそこまで気にしていなかったらしい。ちょっとホッとする。
でも何を見ているのかと気になったから、横に顔を振り向かせると、あるアクセサリーを自分の目の高さまで持ち上げて、その瞳を輝かせていた。月の形のデザインをしている。月の形に小さい青い宝石がある。
「綺麗……」
ジッとその宝石を見つめながら、少し頬を赤らめさせて呟いた。
「気に入ったの?」
そんなに好きな色だっただろうか、と疑問に思って聞いてしまうと、そのまま私の方に振り向いてくる。
私とその宝石を見比べているようにしてから、また嬉しそうに笑った。
「はい! お姉さまの瞳の色と一緒です!」
……私の、色?
幸せそうに、どこまでも幸せそうに微笑んでくる。
その姿に、胸の奥がギューッと苦しくなる。
「そ、そう……」
見ていられなくて、また顔を逸らしてしまう。心臓が高鳴る音が耳に響いて、それどころじゃない。
なんで……私の色とかでそんな笑顔になるのか分からない。
分からないけど……耳が熱い。顔が熱い。体が、熱い。
……困る。訳が分からない。
どこを見たらいいのかも分からないから、少し視線を彷徨わせていると、カンナが「買いますか?」と問いかけていた。
「買います!」
「はい、分かりました」
「買うの?」
「はい!」
思わず聞いてしまうと、即答された。買うんだ……。そ、そんなに気に入ったんだ。
――でも、そこまで気に入るものも珍しいかもしれない。そういえばあまり何かを買う時とか、率先して買っている印象がない。服とかもお父様やバールに私の物を買うように言っているのを知っている。
たまには……たまには買ってあげようか?
いつもこの子は私にくれる。
誕生日の時の手袋も、普段食べたいものとかも、服とかも。
たまには、買ってもいいのかもしれない。そんなに気に入ったものなら。
そう思ってそれを自分で買うとアネッサに伝えると、ものすごく驚いたように目を見開いていた。何故?
「お姉さま⁉ これは私が払いますよ!」
「? 買えない値段じゃないから」
何をそんなに慌てているのか、全く分からない。ちゃんとアネッサにも言ったし、アネッサも分かっている顔をしているけど。
「と、とにかく自分で払いますから!」
「別に平気」
尚も食い下がってくる。あの……さすがに私でも買える。というか、普段のお返しに丁度いいかなって――
「お姉さまにプレゼントしたいんです!」
何故か顔を真っ赤にして、そんなことを言い出すから、今度はこっちが驚いてしまう。
「……私に?」
「え……あ……ぅ……はい……」
どんどん声が小さくなっていくけど、え、私に? 何故?
「お姉さまに……似合うと思って……」
「……」
ボソリとまた小さく呟いたけど、ちゃんと聞こえてきた。
私に、似合うと思って……? それで、買おうとした?
そのアクセサリーを見つめる。
『はい! お姉さまの瞳の色と一緒です!』
さっき言っていた言葉が、脳裏に浮かんだ。
この子は……それで喜んでいた。
私の色と一緒だって。
これをあげたら、
喜んでくれるのだろうか?
ふと、そんなことを考えてしまった。
自然とそのブレスレットを手首につけてあげると、「え、え?」と手首と私を交互に見てくる。なんとなく気まずい。
「あの、お姉さま? だからこれは――」
「……あなたの方が似合う」
「へ?」
ポカンと口を開けて見てくるから、視線を逸らす。気まずい。喜ぶと思ったけど……違うのだろうか? 勘違い?
「あなたの方が……似合うと思う」
自分が買う理由をちゃんと言うと、まだ口をポカンとしているから余計気まずい。顔見るの気まずい。
「だから、その……私が、買う」
言い終わると同時に、いきなりガバっと抱きついてくるから、ちょっと体をよろけさせてしまった。ここで⁉ アネッサが背中を支えてくれたから大丈夫だけど。
抱きついてきたのに、グリグリと顔を擦り付けてくる。あ、あれ? これ、いつもスクルとの喧嘩の時にすることでは? 決まって「スクルが悪いんですよ!」とか言って、不機嫌になるやつでは?
……喜んでいない?
「……いらない?」
「いります!」
ちょっと不安になって聞いてみると、いきなり顔を上げてきた。え、あの……本当に?
「すっごい、嬉しいです!」
さっきみたいに幸せそうに、今までよりも遥かに嬉しそうに笑った。
これでもかと、また心臓が騒ぎ出す。
直視できなくてまた顔を逸らして、「そ、そう」とやっとの思いで絞り出した声で返事をした。
よ、喜んでいるなら、それでいいけど……それより、ちょっと離れた方がいいかと。嬉しそうなところ悪いけど、その……心臓に悪いというか。
「お姉さまは何が気に入りましたか?」
「? なんで?」
「それを私が買ってプレゼントします! お返しです!」
「私は……別に……」
抱きつかれたまま、何故か私にプレゼントする話になっている……! その、お返しは今の方で、そのまたお返しとかされたらもう延々と続くのでは?
なんて疑問を口に出せないでいると、アネッサが「フィリアお嬢様。こちらはどうですか?」とか言いだして、さっき私が手にしていたネックレスを見せてきた。あ、アネッサ? 何故それを?
そのネックレスを手に取って、今度は上目遣いをしてきたから、反射的にビクッとしてしまう。
「お姉さま、これ買ったらつけてくれます?」
「……」
……それは、あの、つけろってこと? その色のものを、つけろと? さっきそれを見て誰を思い出してたのかを、もしかして分かってる?
「あったらつけますよ。そうですよね、セレスティアお嬢様?」
にっこり顔のアネッサが畳みかけてくるようにそんなことを言ってきた。どうしてそんな良い笑顔なのか分からない。
でも、ここで断ったら……また、落ち込むのじゃないだろうか?
なんて考えが浮かぶと同時にコクンと頷いてしまって、何故かそれは私が貰うことになってしまった。
どうしてこんなことに? とか考えながらアネッサとカンナがお店の人に支払いをしているのを見つめていると、すごく不安そうに隣で私の方を見てくる。つけるかどうか不安なのだろうか?
「……その……ちゃんとつけるから」
「嫌じゃないですか? 他にも可愛いものあるし、違う物でも」
「大丈夫だから」
……大丈夫。別につけるのが嫌なわけじゃない。
ただ、その……この色は、思い出させるから。
今見つめてくる、その瞳を、思い出させるから。
そうすると……心臓が熱くなるから。
モヤモヤして、
でも温かくなる、
この分からない感情が、胸の中に広がるから。
どうしていいか分からなくなる、この気持ちが。
「ハア……」
自然と溜め息が零れると、また不安がった顔で「え、え⁉ お姉さま、本当に大丈夫ですか⁉」と慌てふためく姿を見て、なぜか少し落ち着いた。
殿下たちのところに戻る時に、その懐かしくも安心をくれる温もりを感じたくてその手を握ると、すぐいつもの嬉しそうな顔をした時だった。
……こんな顔、していただろうか?
知っているいつもの笑顔のはずなのに、
この時は知らない表情に何故か見えて。
何故そんなことを今思ったのかも分からなくて。
すごく不思議な気分になって。
繋いでいる手が消えないように、強く握った。
これで3章終わりです!
次話から4章になります!
いつもお読みくださり、本当にありがとうございます!
4章終わりからは急展開になる&ちょぉぉっと――どころじゃなく苦しくなるかもしれません!
が、必ずハッピーエンドにさせてみせますので、二人を見守ってくれれば嬉しいです!




