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26話 生きてるって分かるから

 

『ここすご~。人多いけど、めっちゃ広いね』


 すぐ先の広場に着いて、周りをキョロキョロ見ながらスクルが感想を零している。この王都で一番広い場所だからね。いつもはこんなに人いないけど。


 自分も周りを一回見渡してみる。殿下が言ったように、お店がいっぱい開いていた。さっきまで歩いていた通りも人がいっぱいだったけど、ここは比較にならない。それに他国の言語もいっぱい飛び交っている。活気がすごい。


 この広場の先にあるのが教会だ。この国で王宮の次に大きい建物かもしれない。


 前の時間軸で最期にお姉さまがいた場所。

 もうあそこの棺にお姉さまは絶対入れない。


 ギュッとつい力強くお姉さまの手を握ってしまう。


「……?」

「あ、ごめんなさい。つい」


 お姉さまが不思議そうに私のことを見てきた。


 すいません……つい思い出しちゃって。あの怖さを、少しだけ思い出しちゃっただけなんです。


「人がいっぱいいるから、本当に迷子になりそうだなって思って」

「……」


 変に思われないように笑って誤魔化す。


 この手の温かさを失わせない。

 この手のあの冷たさを、もう二度と感じたくない。


 この温もりが消えないように、私は失敗出来ない。


「……」


 それでもジッとお姉さまが見てくるから、あれ? もしかして不安にさせちゃったかな? なんて思っちゃったよ。どうしたんだろう? もしかして手を繋ぐのが実は嫌だとか? はっ! それだと手を離さなきゃいけなくなる! カンナとアネッサにバトンタッチされてしまう! それは嫌です!


「だ、大丈夫ですよ? 迷子にならな――」


 言い終わる前に、お姉さまの手の握る力が強くなった。


「怖い?」


 予想外の一言をお姉さまが聞いてきて驚いてしまう。


 怖い? 私が?


 握った手を少しだけ持ち上げられた。ちょっと戸惑った様子で、握った手と私の顔を交互に見てくる。


「手、震えてる」


 ――震えてる?

 そう、かな? そんなことないと思うけど。


 全然自覚なくて戸惑っていると、もう片方の空いていた手で、お姉さまが徐に私の頬に触れてきた。え、え?


「熱は……ないみたいだけど」

「っ……」


 ちょちょ、いきなりすぎませんかね⁉ 何、このご褒美⁉ しかもよく見る為なのか、お姉さまの顔が近い! っていうかこのやり取り、この前もしたばっかりなような⁉


「ん? どうしたの?」

「……この子、具合悪いのかもしれなくて」

『え、具合悪いの? 熱ないけど?』

「い、いやっ……あの……具合悪くは……」


 殿下が声を掛けてきたり、スクルが遠慮なしに小さい手を額にペチペチと当ててきたりとしたけど! それどころじゃなくて! 近い! しかもお姉さまの手が直接頬に!


 バクバクと途端に心臓が騒がしくなって、どんどん顔に熱が溜まっていく。


『……え、まさか照れてたりする?』


 私の様子に気づいたスクルが一気に呆れた声を出していた。


『いやいやいや、普段あんなにセレスに抱きついたりしてるのに⁉ 頭撫でてもらってるのに⁉ なんでここでいきなり照れるのさ⁉』


 う、うるさいよ、スクル! 私から抱きつくのはいいんだよ! よくないけど、いいんだよ! でも普段お姉さまからこんなふうに来ることないから、その耐性がないわけでえ! 最近供給過多すぎる気が!


「ちょっと休みましょうか。確かにここに来るまでずっと歩きっぱなしでしたものね」

「私、近くで休める場所探してきます」

「あ、カンナ。俺も一緒に行くよ。セレスティアお嬢様とアネッサはフィリアお嬢様についててあげてください」


 カンナとタックがパタパタとその場から離れて、殿下も護衛の人に声を掛けていたけど、私はそれどころじゃない。


「お、お姉さま? 私、大丈夫ですから」

「……そうは見えないけど?」


 お姉さまの顔を見れなくて、顔を下に向けてしまう。さ、さすがにこの至近距離は無理! 自分から見るのはいいけど、全然無理! しかも大人びてきたから、さらに無理!


「無理はよくありませんよ、フィリアお嬢様」

「さっきまでは元気そうだったから油断してたよ。ごめんね、フィリア」


 アネッサが優しく背中をポンポンと撫でながら言ってくれるけど! 殿下、その謝罪不要ですけど! ちゃんと私は元気ですけど!


 でも、頬に触れてくるお姉さまの手に意識が持っていかれる。

 その感触が、その温かさが、心臓を掴んできた。


 不意打ちすぎる。

 この前もそうだったけど……お姉さま、心配する時に顔に触れてくるから、こっちの心臓が持たない。


『わお、新鮮。顔真っ赤だ』


 スクルがからかうように顔を覗き込んできた。う、うるさいよ! 不意打ちはさすがに私も無理だったんだよ!


 あーもう! 落ち着け落ち着け! 意識して、ちゃんと意識して、こんなの何でもない。そうだよ、さっきスクルが言っていたとおり。普段いっぱい抱きついてるし、頭ナデナデしてもらってるし、こんなの何でもない。


 何回も何回も心の中でそう唱える。


 でも、


 この手を離したくなくて、空いている手でそのままお姉さまの手を頬に押し付けた。


 この優しくてあったかい手は、私の心をざわつかせる。


 だけどね、すごく安心もするんだ。



 生きてるって分かるから。



「やっぱり具合悪い?」


 心配そうなお姉さまの声で我に返った。心配させるつもりじゃなかったのに! 


 慌ててお姉さまの手を頬から離して、やっと顔を上げると、不安そうな表情になっているお姉さまがいた。そんな顔させるつもりじゃなかったんです。ちょっと安心してただけで。


「大丈夫ですよ。本当に大丈夫。お姉さまがそんなに心配しなくても元気ですよ」

「……」


 まだ疑わしそうに見てくるお姉さまに、にっこりと笑顔を向けた。


 こんなに優しい人が、死ぬのは嫌だ。

 こんなに思いやれる人が、酷い目に遭うのは間違っている。


 握っていた手を自分でも持ち上げて、空いた手で包み込む。


「お姉さまがいるから、私はちゃんと元気です」


 貴女がちゃんと今ここにいることが、何よりも元気をくれるんです。

 この温もりを与えてくれるのが、一番安心できるんです。


 安心してもらうために、笑顔を作る。元気だよって微笑みかける。


 伝わるかな? 伝わればいいな。それでお姉さまも安心してくれればいいな。


 ニッコニコとお姉さまに笑顔を向け続けていると、パチパチと目を瞬かせてから、ふいっと顔を背けられた。あ、あれ? 伝わらなかった?


「お姉さま?」

「……大丈夫なら、いいの」


 あ、あれ? なんでそんなボソボソ声なんですか?


 隣のアネッサが困ったように笑って、「やっぱり二人とも疲れが出てるのかもしれませんね」と言いだした。


 ま、まさかお姉さまの方が具合悪くなったんじゃ⁉ そうだよね! これだけの人込みだもの! 人酔いだってするかもしれないし!


 ちゃんと休ませなきゃ! と思ったところで、カンナとタックが戻ってきた。ナイスタイミングだよ、二人とも!


『ぜぇったい、なんか勘違いしてるよ……なんで気づかないかな』


 肩の上でスクルが意味分からないことを言っていたけど、そんなの気にしてられなかったから、お姉さまの手を引っ張ってカンナとタックについていったよ。


 殿下が後ろで「本当に具合悪いの?」って言ってたけど、いやいや、具合悪くなったのはお姉さまの方でしてね!


 本当は五千字ぐらいで一話書いたんですが、区切りがちょうどいいので、ここで一話にしようと思います!

 残りの半分を明日一話分で更新させていただきます!

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