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7.作戦会議②

「海路と空路には“つて”がねぇ」

 ずばり、とジルはそう断じる。それに「鳥便を使えばいいのに」とイヴは巨鳥で人の乗るゴンドラを運ぶ公共交通機関の利用を提案したが、すぐに「馬鹿言え、空中で襲われたらどこにも逃げ場がねぇぞ」とあっさりと切って捨てられた。

「元盗賊さんでも逃げるのは難しいのねぇ」

 イヴはため息をつく。

「とうぞく」

 いままで会話に混じらず飴に夢中だったリオンがその言葉に反応を示す。

「あら、リオン、盗賊を知っているの?」

「知ってる。ギルフォード・レインのこと」

 ギルフォード・レイン。それはこの国で一番有名な盗賊と言っても差し支えないだろう。

 騎士にも関わらず、盗賊達の手引きをして王宮の財宝をごっそりと盗んでいってしまった大悪党だ。

 悪事が露呈して以降はその盗賊団の主要な戦闘要員として、それはもう腕を振るったという。

 最も最近は雲隠れしてしまったのか影も形も姿が見えず、噂だけが1人歩きをしている状態だ。

「偉いのねぇ、でも盗賊はギルフォード・レインだけじゃないのよ。そんなに有名じゃなくて、そんなに優秀じゃない盗賊もたくさんいるの」

 こてり、とリオンは首を傾げる。

「おじさんは優秀じゃない盗賊?」

「盗賊だった時のおじさんのことは良く知らないけど、ジルって名前の盗賊は聞いたことがないわねぇ」

「うるせぇな、ほっとけ!」

 2人の言いたい放題の言葉にジルが割って入る。

「言っとくが、こう見えておれぁ、昔は名の知れた盗賊だったんだからな。俺の名前を聞くとみんな震え上がったもんだ」

「自分で言うとかちょっと痛々しいわ」

「いたいたしい」

「うるせぇ、指さすな」

 ごほんと咳払いをして、ともかく、とジルは話を無理矢理元に戻した。

「陸路を行くしかねぇ、正確に言うなら山越えだ」

 ジルが指さす先には、頂上付近がもやに覆われてその全体像は見えないものの、それでもこの距離から視認できるほどに大きな山脈が遠くにその姿を覗かせていた。

「リリクラック山脈、あそこを超える。他にも近い国境はあるがどこも警備が厳重だし、なにより軍事国家のアイドグリーンに向かうより、商業国家のシシリアに向かったほうが、後々の逃亡を考えるとやりやすい」

「そうなの?」

「アイドグリーンは閉鎖的過ぎてよそ者が目立つ。それに対してシシリアは商業国家なだけあって貿易が盛んだ。見かけねぇ顔があってもあまり気にされねぇ」

 なるほど、とイヴは頷く。さすがは元盗賊だ。手慣れている。

 本当の所を言うとイヴはどこまでジルを巻き込むかを悩んでいる部分があった。ひとまずの逃亡にはジルの協力が必要だったため頼ったが、正直行き先さえ示してもらえれば上々だと思っていたのだ。しかしこの様子だと、ジルはどうやら国境越えだけではなく超えた先の国までも着いてきてくれるつもりらしい。

 甘えてしまいたい気持ちはある。しかし……

「余計なことは考えんな」

 それはイヴの思考を読んだかのようなタイミングだった。

「そうじゃねぇって言ってんだろ」

「……ありがとう、ジル。貴方がいれば百人力だわ」

「……。山脈にたどりつくまでには道筋にもよるが、一番の近道には森も林も基本は存在しねぇ。あるのは街道と湿地地帯だ。人目につきやすいが、街道を行くより道がねぇ」

 ジルはイヴの言葉を無視して話を進めた。

「湿地地帯は進めないの?」

 イヴもそれ以上は追求せず、その話の流れに乗る。

「馬車が通れねえ、重みで車輪が沈んじまう。徒歩で渡ろうにも足を取られて普通の倍は体力も時間もかかる。なにより魔物がでる」

 そんな場所、ガキを連れて渡れるわけがねぇ、とジルは告げる。 

「遠回りでも隠れやすい道を通った方がいいんじゃないかしら?」

「……それも考えはしたが、正直持久勝負は分が悪ぃ、長引けば長引くほど追い詰められるのは俺達だ」

 何せ国民全員対3人の鬼ごっこだ。告げ口もどんな道具や魔法を使うのもありの一発勝負だ。交代要員が大量にいる向こうよりも、替えのきかないこちらの方が疲弊しやすいのは目に見えている。

 近道をしても遠回りをしても、実質見つかる可能性が著しく変化するという根拠はどこにもない。ならば少しでも早く確実な道を選ぶべきだ。

 それに騎士団の連中の目を眩ます方法をまったく考えていないというわけでもない、とジルは言う。

「まずはこの街の検問を抜けなきゃならねぇ。いいか、俺の言うとおりにしろ。絶対にだぞ、余計なことはすんなよ」

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