57.一方王国では
「捕虜の少女が逃亡した?」
そう聞き返したのは国王だった。
負傷した騎士団長が恭しくひざまずくと、「はっ」と肯定を返した。
「まことに遺憾ながら、逃亡を許してしまいました」
「君がついていて、そんなことが起こるなんてね-」
国王が眉をひそめる。
「国賊はただの貧民の少女じゃなかったのかい?」
「少女はただの少女でしょう。しかし、共謀者が元騎士でした」
「元騎士?」
「ギルフォード・レインです」
周囲から息を飲む音が漏れる。
その場には国王と騎士団長の他にも大勢の貴族や神官、文官などが顔を揃えていた。
「ギルフォード……、あの、不届き者か」
国王があごを撫ぜる。
「あの男は最悪な裏切り者だが、腕は確かだったからなー。困っちゃうよなー、腕のある奴が裏切るとか」
口調は軽いがその態度は重々しく、表情からも不機嫌が伝わってくるようだ。
皆、うつむいて視線を合わせない。
国王の懐刀と誉れ高い騎士団長が失敗したのだ。
そんな任務、自分にお鉢が回ってきたらとんでもないことだとその場の誰もが考えていた。
ただ1人を除いては。
「僕が行きましょう」
そう前に進み出たのは――
「……おお、君が言ってくれるか。頼むよー」
金色の髪に、蒼い瞳。
銀の甲冑に身を包んだ美丈夫。
この国の、いや、世界中の人が誰もが知る世界を救った大英雄。
――勇者だ。
負傷した騎士団長、いやにしおらしく見える教皇。
その姿を視界に収めながら、勇者は王の御前に進み出ると恭しく礼をした。
「必ずや、陛下のご期待に応えてみせます」
「期待してるよ-」
勇者の脳裏には、表門で出会った少女のことが蘇っていた。





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