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53.処刑
「立て」
そう促す男は騎士の装束を着ていた。
中央からの使者だとすぐにイヴは悟る。
イヴのことを帝都へ送る手はずが整ったのだ。
帝都へ連れて行かれてしまえば、後はもうとんとん拍子だろう。
立てて並べた不安定な木の板を倒すように、ぱたぱたとイヴの処刑は決定され施行されてしまう。
恐ろしさより落胆のほうが大きかった。
自分は何も出来なかったのだ。
しかしせめて、リオンは逃げ延びただろうか。
動かないイヴを、騎士は焦れたように引っ張った。
「そんなに慌てないで、騎士様」
イヴはわざと落ち着き払った仕草で騎士のその手を払った。
「美少女にはもっと優しくするものよ」
「ふざけたことを」
騎士はイヴの胸ぐらを掴む。
「今ここでお前の首をはねてもいいんだぞ」
「そんなことをしたら、あなたは罪人を私刑にしたとして罪に問われるはずだわ」
「抵抗した罪人を切り伏せたのならば不可抗力だ」
騎士の手が胸ぐらから離れてイヴの首へとかかった。
細く白い首を騎士の大きな手は片手で半分以上も覆えてしまう。
騎士の手が、イヴの首へと食い込んだ。