46.牢屋の中の少女
(寒々しいところだわ……)
捕らえられてイヴが連れてこられた先は、その村の駐屯所――ではなく、その村の最寄りでもっとも大きな街の収容所であった。
そこは一時的に犯罪者を入れておく牢屋で、帝都へと送る魔方の準備が整うまでの保管庫の役割を果たしていた。
堅牢な牢は立派で、とてもイヴの力では破れそうにはない。
石でできた床と壁は春でも夜になれば冷えて肌寒い。
白いワンピースドレスは泥で薄汚れ雨に濡れた体はそのままで、イヴの体は凍えるようだった。
「ねぇ、看守さん。わたし、なんでこんなところにいるの?」
ふと傍らに現れた気配に、イヴは声をかけた。
「それはおまえさんが罪人だからさ」
そこに居たのは小さな老人だった。長く白い髭に白い髪。眉の毛までも長く、目元は毛に覆われて見えなかった。
腰には小さな金色の鍵を吊っている。
「ふんふん、罪人」
「そうさ、お嬢ちゃん落ち着いてるねぇ。もうちょっと取り乱しなよ」
ひひ、と愉快そうに笑うと看守はイヴの目の前へと小さな椅子を移動してきて、そこにちょこんと腰をかけた。
間近で見るとやはり小さい。
その老人はもしかしたら小人族なのかも知れなかった。
「罪人ってことは、わたしは何か悪いことをしたのかしら」
「さあね、知らんよ。あいにく浮き世には興味がないんでね」
「ふんふん」
「つまらんね、最近の若者は必死さが足りなくていかんよ。おまえさんこれから処刑されるの、わかってる?」
可愛らしい仕草で、随分と残酷なことを言う。
言葉の内容に反してその話し口調は軽々しく、羽が生えているかのようだった。
「何も事情を知らないのに、看守さんはわたしのことを殺したいの?」
「別に殺したいなんて積極的な意思はないさ」
「それなのにわたしを殺すお手伝いはするのね」
「仕事だからね」
「お仕事ならなんでもするの?」
「ああ、興味がないことならな。いいこと教えてあげるよお嬢さん、この世の中のほとんどの人間は自分と自分のちょっと周りのことにしか興味がないんだ」
イヴは首を傾げた。
「こんなに美少女なのに?」
「おや、お嬢ちゃんは美少女だったのか。すまんね、これまで美少女という生き物に会ったことがなかったから気づかなかったよ」
(失敬な)
そろそろみんなイヴの美少女ぶりに対して平伏して謝ったほうがいい。
イヴはむっ、と唇を尖らせた。
「看守さん、ご家族は?」
「家族も友達もろくにいないねぇ。つまりおいちゃんはおいちゃんのことにしか興味がないということさ」
「美少女にくらいは興味を持つべきだわ」
ひひひひ、と笑う看守にとりあえず怒りは横に置いておいて、毛布のような防寒具を要求するイヴだった。