表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/64

41.逃亡者

 階下から声が聞こえる。

 わずかにしか聞こえてこない声は、民家の主である女性と憲兵のものだ。

「――では、もし見かけましたら」

「はいはい、わかったよ。連絡すればいいんだろう? ご苦労様」

 カーテンの隙間から目だけを出して下を覗きこむと、憲兵は指名手配書とおぼしきものを女性に渡して立ち去るところだった。

 イヴ達のことを探しているのだ。

 立ち去ってくれたことにイヴはほっ、と息をはく。隣でシーツにくるまっているリオンが見上げてくるのに微笑んで頭をなでた。

「大丈夫よ、行ったみたい」

「これからどうするの?」

 リオンの紅い瞳はごまかしを許すまいとするかのようだった。

「そうねぇ、どうしようかしら……」

 ちらりと視線をジルへと向ける。

 室内なこともあり帽子も取っているし尻尾もズボンから出している。

 こちらに背を向けて黙々と上着に仕込んでいた荷物を整理し、何があって何がないのかを確認している後ろ姿は耳も尻尾もうなだれていた。

 全体的にしょんぼりしている。

 ジルがイヴとリオンを抱えて跳び続け、そうしてなんとかたどりついた村はリリクラック山脈からわずかに北側にそれた山の麓の村だった。

 その内の一つの一番端にある家に駆け込んだ。

 本当は空き家など潜伏できる場所があれば良かったのだが、周囲は憲兵がうろついておりそんな都合の良い場所を探す余裕がなかったのだ。

 家主には当然怪しまれたが、金を積んでかくまってもらうことに成功した。

 これまでイヴは買収というものをあまり快く思っていなかったが、このときばかりは買収に応じてくれる人物がいたことに感謝した。

 買収ばんざい。

 もう二度と買収に足を向けて寝られない。

 イヴは嘆息する。

(本当に犯罪者になってしまったのね、わたし)

 そう、犯罪者なのだ。イヴ達は。

 犯罪行為に手を染めている。

 リオンを連れ出したのは誘拐であるし、騎士から逃げた時点で反逆罪、買収も罪だ。

 明確な罪状はないが、波及して悪影響を及ぼしている部分も確かにあるのだろう。

 例えば憲兵をそこら中に駆り出していることにより、人々の不安を煽ってしまっていること、とか。

 旅に出た当初、その行為が犯罪であることは知っていた。

 けれど解ってはいなかった。

 それが一体、どんな悪事なのかということを。

 目先の目標に目を奪われて、瞼を閉じていたのだ。

 イヴはゆっくりと一つ、瞬きをした。

 瞳を開く。

 それでも立ち止まる訳にはいかなかった。

 イヴ達の背後に道はない。

 後ずさりをすれば待っているのは『死』だけだった。

 しかし前に進もうにもいくつもの問題が目の前に立ちふさがっている。

 その問題のうちの一つは、とりあえず今イヴの目の前にいる狼人だった。

 ジルの様子がおかしい。

 落ち込んでいること事態は、まぁ、状況を考えればなくはないことだ。

 騎士団長に敗れ、どころか場所や容姿まで割れてしまった。

 しかし、それだけにしては落ち込みすぎな気がするのだ。

 ただ単に追い詰められただけならば、きっとジルは「もうやめよう」とわめくだけだ。

 こんなに静かになるとは思えない。

 イヴには騎士団長とジルとの会話が聞こえなかった。

 しかし、最初のあのジルの騎士団長を知っていそうな口ぶりといい、警戒具合といい、もしかしたら面識があったのではないか。

 だとしたら何か過去のことについてでも言われたのか。

 ジルには隠し事が多い。

 メラニーとの一件でも、何故商人に渡したはずの宝石をジルが持っていたのか、と尋ねたイヴに対してジルは曖昧にはぐらかすような返事しか返さなかった。

 ジルの口が重くなるのは、決まって過去に関わることだ。

 おそらくそれにも過去の何かしらが関わっていたのだろう。

 ジルの過去のことなどは知らない。ジルは話したがらなかったし、イヴも尋ねたりなどはしなかった。

 しかし過去を厭っていることは知っている。

 騎士団長も、その過去に関わっている人物だったのではないだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ