37.騎士団長、参上!
「ふはははははは!! よくぞここまで逃げ延びたな! 国賊ども!! しかし貴様らの幸運はここまでだ! この王国騎士団団長、ブランドン・オースティンに見つかったからには、逃げ延びられるなどとは思わぬことだ!!」
その奇っ怪な高笑いが響いたのは、村を出て更に5日ほど馬車を走らせた道でのことだった。
非常に細い道は本道である街道からは外れた小さな道のうちのひとつで、地元の住人かそれこそ逃亡に手慣れた盗賊くらいしか知らないような道だ。
そういった道を選んで進んでいたこともあり一行はここ数日、非常に順調に平穏な逃亡生活を送っていたのだがーー、
イヴは目の前に立ちふさがった『王国騎士団、団長』を再度見つめ直した。
2回ほど目をつぶって見直したが、目の前に立つその人物の容姿が変わることはない。
目をこすっても同様だ。
果たしてイヴ達の目の前には、
騎士団の装束とおぼしき銀色の甲冑に、王国の紋章が刻まれた兜と真っ赤なマント。
燃えるような赤い髪に太陽のように輝かしい黄金色の瞳。
少し眉は濃いが美しい顔立ちをした―――
「………こども?」
――美少年が立っていた。
「誰がこどもかぁっ!!」
思わずもれた心の声に、騎士団長は怒り狂う。
しかしそうやってどたばたと地団駄を踏む姿はまるっきり母親にお菓子をねだる子どものそれだ。
「私は王国騎士団団長、ブランドン・オースティン! 誇り高き騎士、ブランドンだ!!」
そう叫ぶ白くふくふくとしたほっぺたは林檎のように赤くほてってみずみずしい。
「騎士団長って子どもでもなれたの?」
「だから! こどもでは! ない!!」
そう、もちろん見た目通りの年齢ではない。
王国騎士団団長、ブランドン・オースティン。ドワーフ族出身の45歳。
ドワーフ族特有の低身長と突然変異の童顔をうっかり手に入れてしまった、見た目は何十年も前から変わらない永遠のティーンである。
イヴは困ったようにジルを見た。本物なのかどうかは周囲に控えている騎士達が本物っぽいのでなんとなく察したが、目の前のこの人物をどう捉えたらいいのかがわからなかったのだ。
ジルはその視線に深く頷くと、目線は騎士達から離さないままに重々しく言った。
「気をつけろ。見た目はふざけてるが実力は本物だ」
「誰が『見た目はふざけてる』か! 見た目も! 中身も! 大まじめだろうが!」
そう叫ぶとさすがにそろそろ堪忍袋の緒が切れたのか、それともさっさと仕事を済ませてしまおうと思い立ったのか、騎士団長は実力行使に出た。
背中に背負っていた身の丈はあるかと思われる長剣を抜くと、その勢いのままこちらに向けて振り切ったのだ。
「リオンっ!!」
「イヴ!」
イヴはすばやくリオンに飛びつき、ジルはその二人を抱えて御者台から転がり落ちた。
まさに間一髪。
先ほどまで3人がいた場所を衝撃波が通り抜ける。
派手な音を立てて、馬車は真っ二つに叩き割られた。
「…………。きゃー」
「ぼけてる場合か! 早く走れ……っ!」
ジルは腰にはいた剣を抜くとイヴとリオンをかばうように騎士団の前へと立ちふさがる。
イヴはわずかに逡巡したが、すぐに立ち上がるとリオンをつれて湿地へと足を踏み入れた。