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33.盗賊の村

「まぁつまり、今回わたし達が歓迎を受けたのは強盗を働くためだったのね」

 そうぼやいたイヴの目の前には、侵入者3人が縛り上げられているだけではなかった。

 場所は集会場から村長の家に移していた。そこには村長を含め、宴会のメンバーがそろっている。

 宴会のメンバー、つまりこの村の住人、ほぼ全員が、だ。

 あの後、ジルはすぐに侵入者3人を縛り上げると人質に取って村長宅に乗り込んだ。

 手口や手際から考えると、村長達は共犯である可能性が高かったからだ。

 案の定、人質をつれて現れたジル達に村長達はすべてを察したのか顔を青ざめさせた。

 『達』というのは、村長宅では宴会の時のメンバーがそろって、成果の報告を待っていたからだ。

 人質に存在に構わず飛びかかってくる者も中にはいたが、そういう輩は一瞬でジルに沈められた。

 ――そうして、今に至る。

 部屋の中央には縛り上げられた侵入者3人が転がされ、それを挟んでイヴ達と村長達は対峙していた。

 村長達はいまだに動揺が醒めないのか、押し黙ったままだ。

「だったら何よ」

 しかしイヴの言葉には返答が返ってきた。

 その声は部屋の中央の床から聞こえてきた。

 メラニーだ。

 縛られたまま、それでも毅然としてそうつばを吐きかけるメラニーは、宴会の時とはまるで違う様相を呈していた。

 あの時の穏やかで優しく、けれど気丈な女性はいない。

 柔らかい印象はなりを潜め、そこには気丈だがいけだかな、鋭い目をした強盗の姿があった。

「あたし達が生きるためには必要なことなのよ。なんの不自由もなく優しい叔父さんに養われている幸せなお嬢さん、貴方にはわからないでしょうけどね」

 イヴを睨み付けるその両目は薄暗い部屋の明かりの中でも爛々と輝き、渇望と嫉妬を湛えて燃えていた。

「そうね、確かにわからないわ」

 イヴは悲しい。

 ほんの一時とは言え、微笑みを交わし合った相手に今はなじられている。

「けれどそれはわたしがなんの不自由もなく養われているお嬢さんだからではないわ。……確かに幸せではあるかも知れないけれど」

 彼女とは仲良くなれたと思っていた。

 彼女とは仲良く居たかった。

「ジルがわたしの叔父というのは嘘よ。アメリアも妹ではないわ。詳しくは説明できないけれど、わたしも生きていくために“悪いこと”をしているの」

 お互い様ね、とイヴは笑う。

 今回の旅の中で、イヴは初めて今回の件を明確に“悪いこと”だと口にした。

 それはその場の勢いもありメラニーに話を聞いてもらうための言葉でもあったが、口にした途端にすとん、とその言葉はイヴの心へと落ちた。

 悪いことをしているのか、自分は。

 リオンのことを連れ出すためだった。

 リオンのことを連れ出すことは、イヴにとっては悪いことではちっともない。

 しかしリオンのことを外に連れ出して、騎士達や勇者を駆り出して、国を混乱させていることは?

 良いと思ったことをするために、結果的に悪いことをすることはどうなのだろう。

「何がお互い様よ! ふざけないで!!」

 上がった金切り声がイヴの思考を遮った。

 己の内面から目が覚めると、メラニーの姿が見えた。

 まるで鬼の形相だ。

 振り乱された髪が重力に逆らって燃え上がるようだった。

「あんたに何がわかんのよ! こんなしなびた村に生まれて、作物もろくに実らないのに毎日毎日無駄な努力をさせられて! 亭主はどうしようもない甲斐性無しでろくに金も送ってこない!! 幼い子どもと老いた親を抱えて身動きの取れないあたしの! 何が!!」

「あなたのことを知っているわ」

 呆然として、けれど思わず言葉が口をついた。

「正確には、あなたの旦那さんを知っているわ」

 最初に宴会で会った時に見た、彼女の左手薬指の指輪。

 手作りの少し不格好で素朴な、木でできた指輪。

 その木の指輪には見覚えがあった。

 街道で会った、盗賊の男のうちの一人が身につけていたものだ。

「あなた達の生活を守るために、盗賊をしていたわ」

 彼は少しでいいとイヴ達に懇願してきた。

 それがあれば妻と子が生活できるのだと、頭を下げて頼んできた。

 だから彼女とは仲良くなれると思った。

 彼女と仲良くなりたいと思った。

 しかしそうはなれなかったようだ。

 この様子を見る限り、彼女達の元に商人の宝石は届いていないらしかった。

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