32.闇夜
わずかな鳥のささやき声が聞こえた。
夜は更けて久しく、暗闇の中で空だけが光を灯して瞬いていた。
静かな夜だ。
与えられた集会場の床で、3人は川の字になって並んで休んでいた。
窓に近い場所から順にジル、リオン、イヴの順番で並んでいる。
ジルは一人で布団を使っていたが、リオンとイヴは同じ布団に二人で入っていた。
荷物はジルの頭上にまとめて置かれている。
3人の寝息だけがひそやかに部屋内には充満している。
その時、新たな音が生まれた。
ゆっくりと、部屋のドアが開いたのだ。
慎重に足を踏み入れた人物は、3人ほど存在した。
彼らは皆一様に、武器を手に持っている。
武器は巨大な鉈だ。
そのままそろりそろりと忍び込むと、寝ている3人を取り囲むように立つ。
お互いに意思を確認するかのように目線を合わせて頷きを一つ。
3人は鉈を振り上げた。
「寝込みを襲おうなんざ、随分と色っぽいやり口じゃねぇか」
しかし振り下ろすことは叶わなかった。
暗闇の中に、ジルの紫色の瞳が光る。
銀色の刃が空間を切り裂く音が響いた。
呻き声が上がって、3人は後ずさる。
懐に抱えていた剣でジルが切り払ったのだ。
一人はジルの攻撃に武器を取り落とし、二人は武器を構えていた。
瞬間、ぱっといきなり明かりがつく。
騒ぎに目を覚ましたイヴが、持ち物のランタンをつけたのだ。
3人の侵入者の目が眩む。
その隙を見逃さず、ジルは追撃した。
慌てて侵入者の一人がジルの剣戟に応戦するが、受け止めてすぐにその重い一撃に、男の鉈は手から離れて吹き飛び壁に鉈が突き刺さる。
吹き飛ばされてしびれた手を押さえる男を続けざまにジルは蹴り飛ばした。
その隙にもう一人の侵入者がイヴとリオンに手を伸ばした。
リオンがイヴの服にぎゅっとしがみつく。
「魅了魔法」
イヴは明かりを手に、呪文を唱えた。
捕まえようと伸ばされた手が触れる前に停止する。
すかさずその侵入者のことも、ジルが殴り飛ばした。
「しかしまぁ、刃物をもって夜這いたぁ、色気も何もあったもんじゃないか」
イヴに渡された明かりを手に、ジルは侵入者を照らし出した。
そこには宴会で見かけた顔ぶれがそろっていた。
「メラニーさん」
イヴは驚きの声を漏らす。
3人の侵入者の中の一人には、優しい妙齢の婦人メラニーの姿もあった。