表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/64

31.郷愁

「いやー、想定外に歓迎されたな」

 十分過ぎるほどの食事と酒にジルは満足気に息を吐いた。

 もうすでに宴会の後片付けも済まされ、村人達は各々の家に帰っている。

 集会場に残されたのはイヴ達3人と貸し出してもらった布団だけだ。

 結局あの後、ジルは飲み比べで10人ほどの村人を潰していた。

 どの程度の量を飲んだのかは、正直イヴは興味がないので見ていない。

 本来なら目立つ真似は控えるべきだが、なにせ小さな村であるし場所も非常に辺鄙だ。

 明日には発つ予定だし、大した問題ではないだろう。

 軽く鼻唄を歌いながら与えられた部屋に布団を敷いているジルに、

「随分とはしゃいでいるわねぇ、おじさん」

 とイヴは声をかけた。

 嫌みではなく、純粋に珍しいと思う。

 美味しい食事、酒、久しぶりに布団で眠れること。もちろんイヴも嬉しい。

 しかしジルのはしゃぎようは随分と『らしくなさ』をイヴに感じさせた。

 まるで、無理に空元気を振りまいているかのようだ。

「久しぶりに気兼ねなく酒が飲めたからな!」

 確かに馬車ではいつ強盗などに遭うかも知れないので、あまり深酒はしていない様子であった。

 しかしそれだけではないだろう。

 疑わしそうにじとーと見つめるイヴに気づいたのか、「な、なんだよ」とジルは身じろぎをした。

「…………」

 イヴは何も言わず、じーと見つめ続ける。

 じー。

「…………っ」

 ジルは気まずげに視線をそらす。

 じじーー。

「あー、もう、うるせぇな!!」

 視線がうるせぇ、とばりばりと頭を掻く。

 勝った。

 イヴの勝利だ。

 ジルは気まずげに頭を掻いたまま、「あー、なんだ、空気が、な」と気まずげに口にした。

 その様子にはもう先ほどまでの浮かれた様子はなく、常の雰囲気に戻っているようだ。

「空気?」

「俺が前に暮らしてたとこに似てるんだよ、ちょっとな」

 貧しくてたいして珍しいものがあるわけでもない村に、和やかで結束の固い村人達。

 日々を暮らすのに必死で、毎日それだけのために生きていた。

「懐かしいの?」

 遠くを見つめるジルに、イヴは問いかけた。

「……懐かしいさ」

 もう戻れない日常が、その目には映っているようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ