25.路地裏
結論から言うのならば、路地裏の中はとても暗澹たる有様だった。
人が一人通れればやっとというような細い道をなんとか抜けるとそこには、円状をしたホールのような場所が拓けていた。
そこはごみ溜めのようなものなのか、丁度中央に粗大ごみのような鉄くずの山が築かれていた。
薄暗く光が雨のように途切れがちにそそぎ込むそこには、よくよく目を凝らして見るとそこに住んでいるのか、ごみ山の隙間からはちらほらと子ども達の姿が見え隠れしていた。
イヴとリオンはそのごみの山の丁度正面に出てしまっていた。
みな一様に、こちらを警戒するように見つめてくる。
暗闇の中で幾人もの子どもの目が猫のように光って見えた。
ごくりとつばを飲み込むとイヴはリオンから手を離し、その視線の中央へと一人で進み出た。
「……おねぇちゃん」
「大丈夫よ」
不安そうに後ろから声をかけてくるリオンに、にっこりと微笑む。
正面に向き直ると、周囲を確認するようにゆっくりと見渡した。
幾人かの子どもと目が合い、そちらにもにっこりと微笑む。
スカートを手に持つとふわりと掲げて膝をおり、丁寧に礼をして見せた。
「はじめまして」
そのままスカートを翻すとくるりと回る。ふわりとスカートのすそは花びらのように円を描いて広がった。
周囲は真っ暗闇で、光は細くしか差さない。
ゴミ山の中央にたった一人。
髪に薄紅色の花を飾り、藍色のワンピースは安物で薄っぺらかった。
まっすぐに手を伸ばすとその姿勢のままオルゴールのようにくるくると周り続ける。
その姿はまるで一輪の花だ。
その軸のぶれない美しい姿に、自然に子ども達は視線を奪われ引き寄せられたようだった。
イヴは回りながら周囲の様子を視認する。
子ども達は確認できるだけで11人。中には武器のつもりなのか、鉄の棒を持った子どももいた。
その中でおそらくリーダー格であろう。ひときわ長い鉄棒をもった男の子に目をつけると、そちらを向いて動きを止めた。
にっこりと鮮やかに笑みを浮かべる。
「魅了魔法」
すでにみんなイヴの踊りに目を奪われ動作を止めていたが、これで強制的に動作停止に追い込めた。
イヴはリーダーと思われる子どもにゆっくりと近づくと、身動きの取れないその手から武器を取り上げる。
そこでやっと子ども達は体が動かないことに気づいたのか、瞳だけをきょろきょろと動かして焦り始めた。
状況を把握しようとしているのだろう。
「ごめんなさい、喧嘩するつもりはないの。迷子になってしまったのよ」
だから、
「道案内をお願いできないかしら?」
にっこりと武器を片手に微笑んで、イヴは言った。
人はその行為を『脅迫』と呼ぶ。