22.方針
「これからのことだが」
一通り料理を食い荒らして満足したのか、安いワインを飲みながらジルは話しを切り出した。
「街道を行くのは変わらねぇ、だがさっき言った通り、今まで以上に警戒は必要だと心得ろ」
イヴもその言葉には頷いた。
ここは小さな田舎街だ。その上まだ都を抜けたという確証がないため検問がまだ緩かったが、今後はそうは行かないだろう。
日数が経過すれば当然探索範囲も拡大される。それにある程度大きな街だと王宮にいる転送魔法の使い手の設備が整えられているため、転送魔法で勇者やら騎士団連中やらがそこらの街をうろうろしている可能性もゼロではない。
それらも踏まえて、極力大きな街は避けて通るべきだ。
「この町からリリクラック山脈まで馬車でおよそ一月ほどだ。実際は憲兵の目を避けながら行くことになるからもっとかかるかも知れねぇ」
「一月もかかるんじゃあ、食料が腐ってしまうわね」
「春だからな。冬ならもう少し持ったかもしれねぇが、それはそれで凍死の危険があるから一長一短だな。まぁ、保存食ならその程度は持つ。後半はほぼ保存食になるかもな」
ジルはワインをゆっくりと味わうように飲み干した。
「ここでは2ヶ月、いや、3ヶ月分の食料と、山越えの装備も補給する。本当なら山の麓で装備を調えられればいいが、そう都合良くはいかねぇからな」
この旅にでてからジルは随分と慎重な発言が目立つ。普段から慎重で及び腰ではあるもののここまでではないために、それだけ予断を許さぬ状況なのだということを憲兵の姿を見たときよりも、その姿にイヴはひしひしと感じとった。
「いいか、痕跡を残すなよ。隅から隅まで掃除しろ。追跡の手がかりになるぞ」
窓辺にはリオンがかぶっていたカツラが脱ぎ捨てられて、カーテンと共に夜風に揺れていた。