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2.イヴという少女②

 この世には、魔法というものがある。

 それは負った傷をたちまち綺麗に直してしまうものであったり、敵対する相手を負傷させるための攻撃手段であったりとさまざまだ。

 珍しい種類のものや、ありふれた種類のものもあり、系統立てて分けることもできるらしいが、そんな小難しいことはイヴは知らない。

 そんなことは偉い学者の先生が考えればいいことだからだ。

 それにイヴは元々はこの世界の人間ではない。この世界に来たのは五年前、イヴが十一歳の時だ。

 ある朝目が覚めると、そこは見知らぬ世界だった。

 あれから五年、イヴはなんとか生き抜いて十六歳になった。その中でチャームの魔法を得たのだ。

 この世界の人間は『一般魔法』と呼ばれるみんなが使える魔法とは別に、『特殊魔法』と呼ばれる自分の魔法を必ず一つ、生まれた時から持っているらしい。

 その中でも、天才と呼ばれる人間や聖者や英雄といわれる人間は二つや三つ持っていたりする。

 それらはかつて、女神様が人間にわけ与えた力だという。

「――と、いうわけで、どうしようおじさん」

「なにが、『というわけ』だ! 全然わかんねぇよ! そんなことおじさんに聞くな!」

 憲兵達から逃げ延びたイヴがようやくたどり着いた扉の向こうから出迎えたのは、灰色の毛並みに無精ひげを生やした二十九歳独身、現在恋人絶賛お断り中の狼の獣人、ジルだった。ちなみに募集中に札が掛け替えられたらイヴ的には応募してもかまわないと思っている。今日も今日とて深く深く眉間に渓谷のごとく刻まれた皺は取れそうにない。

 イヴは自分の中では最高にキュートな角度で、扉を開いた家主に向かってにっこりと笑って首をかしげて見せた。

 ――と、同時に無情にも扉はイヴの目の前でばたん、と閉じた。

(ひどい!)

 あまりにもこれはひどすぎる。

 イヴは憤慨した。

「開けてよ、ねぇ、わたしだってどうしたらいいかわからないわ!」

「俺の方がわからねぇわ! おまえ何しでかしたんだよ!」

「わからない!」

 イヴは背後を振り返る、憲兵達はもうすぐそこまで来ていた。

(ああ、そう。そういうことをするの)

 そっちがそういう態度をとるならこっちにも考えはある。

 イヴは頬を膨らませてすぐに扉に向き直ると、拳を固めてドアをどんどんと叩いた。周りに聞こえるように声をめいっぱいに張り上げる。

「ひどい、ひどいよおじさん! わたしおじさんに言われた通りにしただけなのに! 言うことを聞いた良い子のわたしを見捨てるの!? こんな事になったのはおじさんのせいよ!」

「とんでもねぇ濡れ衣きせんじゃねぇよ! 諸悪の根源はいつもおまえだ!」

「わあ、おじさん、やっと開けてくれた! わたし信じてたわ! 今日もおひげがとってもチャーミングね!」

「白々しいわ! くそっ」

 開いた扉にすかさず自らの足と半身をねじ込みながら、イヴは感激したように手を組んでみせた。

 イヴの作戦勝ちである。

 ジルの眉間の皺はもはや渓谷を超えて深淵だが、そんなのことは知らない。先にいじわるをしたのはジルのほうなのだ。そのままぐいぐいと体を部屋の中へとねじ込む。

「おいこら、てめぇ……」

「早くしてったら! もう! 捕まっちゃうじゃないの!」

「俺が悪いのかよ!」

 怒鳴りながらもイヴの大声に反応し、こちらに向かってくる連中の姿に気づいたのかジルは舌打ちを一つするとやっとイヴのことを迎え入れた。

 ちなみにこの茶番は特別非常事態でなくてもイヴ達の間ではほぼほぼ毎回行われる。ジルは必ず一度はイヴの入室を拒む。なぜならジルはとても素直じゃない、スナオジャナイ星人だからだ、とはイヴの中だけで考えている戯れ言である。

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