14.獣人、ジル
「早く! 早くしろぉっ! もっと速度をださんか!!」
「ひぇぇ、勘弁してください旦那さま! これが限界ですよ!」
あまり道の良くない街道を馬車はがたがたと今にも壊れそうな速度で爆走する。自慢の黒毛の馬はレースで優勝した優秀な馬の子で、商人にとってはどんな重い荷物も楽々と運べる自慢の愛馬であった。しかしそれでも後ろの荷物が重いとなかなか思うようには走れないのか、速度はなかなか上がらない。
「おい、てめぇら! とっとと馬車を止めて荷物を寄こせ! じゃねぇと馬を殺して立ち往生させるぞ!」
「ひぃいいぃ…っ!」
そうしている間にやっぱり盗賊が追いついてきた。
馬車の窓越しに刃を突きつけられる。後方からは盗賊達が荷馬車をこじ開けようとしているのだろう、どすどすと何か堅い物がつき立つ音が鈍く響いていた。
「……っ、止める! 止めるから馬車は壊さないでくれぇっ!!」
こんな街道のど真ん中で馬車と食料を失ったら行くも帰るもできず、立ち往生だ。善意の第三者が通りすがるのを待つことしかできない。
御者も主人と同意見なのか、馬車は緩やかに減速してやがて完全に止まった。
「よしよし、素直じゃねぇか。なに、命まではとりゃしねぇ」
盗賊は上機嫌だ。何せこんなにでっぷり肥えた獲物は久々だった。
「どれ、稼ぎを見せてもらおうか」
もったいぶったような仕草でドアを開けて見せる。
「ひぃぃぃっ」
その間に商人と御者は手下達の手によってぽいぽいっと、馬車の外へと引きずり出されてしまった。地面にへたりこんで盗賊が自分たちの馬車を蹂躙するのを眺めていることしかできない。
盗賊達は馬車の中を覗いて歓声を上げた。
護衛もつけていない商団のためそこまでの品は期待していなかったが、荷台の中には値のはりそうな細工物がぎっしりと詰まっていた。
「すげぇ、これだけあれば半年は喰っていけるぜ!」
「全くだなぁ、……まぁ、その半年分の稼ぎを商人は失ったわけだが」
「今は俺たちの稼ぎだ!」
「全くもってその通りだ。……ただし、成功すればの話だが、な」
「……あ?」
揶揄するような不愉快な言葉に、盗賊はその犯人を探るように視線を動かした。不思議なことにその言葉は盗賊の頭上から振ってくるようだった。
顔を上げる。
「よぉ、盗賊。すまねぇが運が悪かったと思って、その商売、あきらめてくれ」